私の授業・私の工夫
会話の場面状況を与える視聴覚機器の利用

授業案 (高校1年)
1.授業を行う環境
 OCが導入された平成6年度より、40人クラスを2分割し、1クラス20人で実施している。少人数授業は実施しやすく、また効果も上がっているが、ALTが週2日しか来校しないので、自分のOCのクラスには2〜3週間に1回しか協同授業の機会がない。ALTを授業の流れに沿って活用するのも自分の課題なのだが、この割合では協同授業で取り上げたい教材の時に、ALTが回ってこないこともある。それで協同授業が無理なときに、視聴覚機器やコンピュータを使う授業を工夫している。
 本校では平成10年に40台のiMac(メモリー増設済)がネットワークでつながれたコンピュータ室を整備した。コンピュータを導入するときにOCのクラスでも使えるように机を配置(6人ずつの向かい合わせで12人のシマが前側、4人ずつ向かい合わせの8人ずつのシマ2つは後側)した。

2.授業実施前の準備
 授業の前にメル・ギブソン主演の映画 "Forever Young" で、Claire(ジェイミー・リー・カーティス)がひょんなことから一緒に暮らすようになったDaniel (メル・ギブソン)を恋人のJohnに紹介する場面を、ビデオテープからAdobe Premire を使って2つのQuick Time Movie のファイルに変換する。1つは日本語字幕のついたもの(ファイルA)、もう1つはセリフが英語字幕で表示されているもの(ファイルB)である。

3.本時の授業案
 本時は配当時間2時間中の2時間目である。生徒は前時に教科書(Hello there! OralCommunication A (東京書籍)のLesson2 This is Bob Grant ) の対話文を使って、"This is ...", "Nice to meet you." などの「友人を家族に紹介する」「紹介されたもの同士が初対面のあいさつをする」表現を学習している。
(1)ファイルAの視聴でストーリーを確認
 生徒はコンピュータを起動させ、サーバーから(映画の場面に日本語字幕がついている)ファイルAを取ってきて、各自のコンピュータのデスクトップ上で開いて、映画の場面を見る。
(2)ファイルAの内容確認
 ほぼ全員が見終わったことを確認後、場面の内容について「彼らはどこにいると思うか」「恋人同士なのは、Daniel とClaire, それともJohn とClaire,どちらだと思うか」という人間関係や状況を確認する質問を、簡単な英語または日本語で行う。
(3)映画の中の会話の空所を聞き取る
 この場面についての補足説明をした後、ファイルAの会話(以下に提示)の一部を空所にしたプリントを与える。それから「10分間でファイルAを何度聞いてもよいから空所の単語([ ] の中の語は空欄にしておく)を聞きとって書きなさい」と指示する。

John : Everything [OK]?
Claire : Uh. Yeah.
( To Daniel ) I'm sorry. Daniel. This is John.
( To John ) John. [ This ][is ] Daniel.
Daniel : [ Hi], John. Pleased to [ meet ][ you ].
( Daniel shakes hands with John. )
Claire : Daniel is going to be [ staying ] with us for a couple of [ days ],
till he finds his [ friend ].
John : Well... It's good to know you, Daniel. [ Good ] to know you.

 リスニングには日本語字幕は不要で邪魔だ、という考えもある。今回は、(a)映画の日本語字幕と英語が必ずしも一致しないことを悟らせるため、(b)会話の内容を教師が解説する時間を省くために、日本語字幕がついたものを使用した。
(4)答え合わせからロール・プレイへ
 10分後、今度はサーバーから(英語字幕のついた)ファイルBを取ってこさせる。ファイルBを使って、各自で答え合わせをさせた後、3人1グループを作らせる。1グループに1枚ずつ、下の内容のプリントを配布し、今見た場面と同じような動きをし、適宜役割を替えながら、会話練習をするように指示する。名前の部分や紹介する文章は、自分たちで作らせる。動きがわからなければ、コンピュータでその場面を何度確認してもよい。

 BとCが座って話しているところにAがやってきます。
A: Everything OK?
B: ( A's name )! Uh. Yeah.(Cに向かって)I'm sorry.
( C's name ), this is ( A's name ). He/She ...
( A's name ), this is ( C's name ). He/She ...
C: Hi,( A's name ). Nice to meet you. / Pleased to meet you.
A: Hi, ( C's name ). Nice to meet you, too./ Godd to know you.

 この課のテーマは「"This is ..." と言って相手の名前を紹介した後、相手について紹介すること」だが、教師1人では、" This is ..."といいながら紹介する相手を手で示したり、相手の目を見ながら握手したりするモデルは提示しにくい。ビデオを使うことは場面を見せ、コミュニケーションに付随するnon-verbalな部分に気づかせ習得させることが容易にできる。
(5)デモンストレーションと評価
 最後に各グループにデモンストレーションをさせ、評価を各グループごとに与える。
 評価項目は、(a)見ている人間にもよく聞こえる声で発話しているか(2点)、(b)ジェスチャーやアイコンタクトが自然か(2点)、(c)まじめに取り組んだか(1点)の3項目である。同じグループの生徒には基本的に同じ点をつける。話すのが得意な生徒と組むと、苦手な生徒でもうまく会話を続けていくことができる。同じグループ内で英語が得意な生徒には、苦手な生徒を引っぱっていくよう、また苦手な生徒は、一生懸命に取り組むよう、日頃から指導することが大切であろう。「一緒に上達する」ことを第一目標にして、年間を通じて指導していく。

4.おわりに
 コンピュータを用いて授業を実施するには
1.ハード面でコンピュータに熟知した同僚の力が大きい。機器のトラブルだけではなく、こちらの持っているアイディアを実現させるための技術的なアドバイスがあってはじめて可能である。
2.また、コンピュータや視聴覚機器を使った授業はハード面だけでなく、その「素材」のソフト面も重要である。いくら、ビデオでQuick Time Movieを作成する技術があっても、適切な「素材」がなければ授業は成立しない。

 今回は日本語字幕と英語字幕のビデオテープを使ったが、DVDだと画質も美しいし、編集も簡単である。しかも多重録音なので、字幕も日本語/英語の切り替えが可能である。しかしながら、DVDではまだ良い「素材」を見つけていない。HTMLやJavaScriptを使った授業も実施しているが、目先の新しさだけでなく、これらの技術や機器の本当に効果的な活用法を考え、実践していかなければならないと考えている。

「英語教育」1999年5月号 (大修館書店刊)掲載