書評
「オーラル・コミュニケーションハンドブック 授業を変える98のアドバイス」
岡秀夫 監修
山岡憲史、吉田健三、萩野俊哉、向後秀明 著
大修館書店 刊

脳細胞を活性化させ、足りない部品を補う良書

 「よりよい授業がしたい」「インターラクティブで創造的な授業がしたい」「自分が高校時代に受けた訳読式授業から脱却したい」「生徒のコミュニケーション能力を伸ばす授業は」・・・など、日々の授業についての悩みはつきない。その悩みを解消する「ヒント集」が、この本である。 現場からの具体的な悩み・質問に答える形で、98のQ&Aから構成されている。それぞれは見開き2ページからなり、非常に簡潔でわかりやすい。多忙な教師が、授業の合間に拾い読みしてアイデアを仕入れることも可能だろう。OCの経験が浅い教師や、自分のOCの授業を改善したいと思っている教師はもとより、教科内でのOCの指導体制を確立・統一しようとしている教師達にも大いに参考になると思う。 さらに、OCの授業のアイデアだけではなく、速読速解に通じる指導や英語T・Uの教材のコミュニカティブな扱い方、英検やクラブ活動の指導など、現場ですぐに使える実践やアイデアが、数多く取り上げられている。私自身、読みながら、日頃「なんとなく」やっている活動の注意すべき点に納得したり、理論的な裏付けに感心したりした。すでにある程度「コミュニカティブな授業」を実施している場合でも、十分読んで参考になる。監修者の「はしがき」にあるように、「よりよい授業をめざして一層深い理解を促す」つくりである。
 ただ、本書の構成上やむを得ないことではあるが、自分がもっと詳しく知りたい、または勉強したい分野が、コンパクトにまとめられすぎている場合がある。ところどころ本文中に文献紹介や引用がしてあるが、巻末に参考文献を分野ごとにまとめて載せてみたらどうだろうか。そうすれば、巻末の用語解説と合わせて、これからさらに勉強しようとする教師達に1つの「道標」を与えることになり、より広い意味での「ガイドブック」となるのではないかと思う。
 私は「創造的な授業がしたい」と思っている人間である。足りない知恵を絞って日々の授業をなんとかそんな風にしようとしているが、自分一人の浅知恵ではどうしようもないことも多い。優れた先生方の卓越したアイデアや実践に触れると、錆びかかった脳細胞が活性化するような、足りない部品を補ってもらった機械が正常に作動し始めるような、そんな感覚を覚える。実際に優れた授業を見る機会が限られている以上、本書が「創造的な授業」というOutputをし続けたい英語教師のための格好のInputであることは間違いない。ご自身の優れたアイデアや実践を共有すべく、執筆に参加なさった現場の先生方に改めて敬意を表したい。

「英語教育」1999年7月号 (大修館書店刊)掲載