高校導入期の指導
結果として、オールイングリッシュに?!
 

 個人的には、オールイングリッシュで授業をしなければならない、と考えているわけではない。文法事項や、抽象的な概念の説明を英語で行い、生徒に理解させる力もない。自分自身が、ペーパーバックを読んでいても、構文や語句、表現が難しい箇所では頭の中で日本語に置き換えているのに、直読直解を生徒に強要するのも気が引ける。が、1時間の授業の中で使う英語の使用量をできるだけ増やしたいと、日々悪戦苦闘しているのは事実である。なぜか、と問われれば、いわゆる「新課程」で教育を受けてきた、1年生の生徒たちと向き合っているから、と答えるしかない。彼らが受験生となる2004年のセンター入試でリスニングが導入されるとなれば、聞く力を伸ばすことを意識せざるを得ない。しかも、教育課程が変更され、1年次においては週あたりの英語の授業時数は昨年より1時間少ない。限られた時間の中で、できるだけたくさんのインプットを・・・と考えれば、結果として「オールイングリッシュの授業になった。」という日がくるかもしれない。なにより、彼らが中学校で身につけた「積極的に英語でコミュニケーションを取ろうという姿勢」を削いでしまうのがもったいない。新課程で教育を受けたこの1年生たちは、英語で聞いたり話したりすることに、あまり抵抗がないようだ。英語での挨拶も、ちゃんと声が出るし、コーラスリーディングも、声が小さくなることがない。そして、ちょっと私の話す英語がわかりづらかったりすると、素直に「わからん」という顔をするのである。

年間計画
 私は本校に勤務して2年目になる。昨年も実は主に1年生の担当で、英語TやOCBの授業をした。転勤して来たばかり、ということもあり、なかなか授業がうまく組み立てられない。特に英語Tでは、訳読式の授業から脱却したかった。同僚たちの様子を見てみると、ほとんどが英問英答で内容把握をさせている。私も授業に取り入れることにしたが、効果的な発問とは何か、という点ですぐにつまずいた。
 今年再び1年を担当することになり、昨年度の反省をふまえて、今年度は、英語Tの年間の授業を大雑把に次のように計画し、実施した。
 ・1学期は、とにかくフレーズ読みで、「英文を正確に早く楽に読む方法」を習得させる。クラスの全員が、自力で英文をセンスグループに切りながら、前に読み進めることができればよい。フレーズ読みの具体的な指導法は、様々なところで紹介・実践されているのでここではあまり言及しないが、脳の処理能力に準じて、早く読める簡単なところは和訳をつけず、長いスパンで読み流す、難しいところは細かく切って和訳もつけるといった緩急をつけた読みができるようにする。
 ・2学期からは、文法事項の説明等をした後、フレーズ読みの技術を使ってすでに「読んでいる」、ということを前提に、英問英答で内容把握の確認をする。パラグラフ毎に最低1つのQ&Aを作り、それに答えることで、パラグラフ全体の内容を理解したり、確認できるようにする。

どんな英語をどんな場面で
 ここで、私が授業中にどんな英語を使っているかを省みる。
(1) いわゆるクラスルーム・イングリッシュ
(2) 新出語句の説明や言い換え、文章の要約
(3) 扱っている内容に関する付帯的な情報
(4) 英問英答(Q&A)
 いわゆるsmall talkのようなものは実施していない。また、文法や構文の説明も日本語でする。(英語が苦手だからだ。)フレーズ読みをさせている1学期は、(1)の比重が高い。1学期はじめの頃は、中学での指導がそれぞれ異なるせいか、(1)に慣れている生徒とそうでない生徒で反応に差がある。我慢して使いつづけることが肝要である。そのうち聞き取ってくれるようになる。一方、語句の説明や言い換えは、1学期ではかなり難しい。(2学期以降でも難しいのだが。)生徒の語彙力があまりないので、英英辞典の丸読みでは、とても理解してはもらえない。前時の内容を簡単に要約し、話すくらいでちょうどいい。(3)は、生徒がすでによく知っていたり、関心のある話題だと反応がよい。が、語句を精選し、短いわかりやすい文でないと、生徒はいっぺんに「引いて」しまう。

Q&Aを作る
 (4)に挙げたQ&Aであるが、これはおおまかに下の5つに分けることができる。
(a)読解に必要な代名詞や指示語についての質問
(b)教科書の本文の中の文をそのまま抜けば、答えになるような質問
(c)既習表現を使って内容を言い換えた質問
(d)内容をまとめる語(上位の語)を使って問う、または答えさせる要約的な質問
(e)解釈や自己表現力を必要とする質問
 では、実際に2学期に扱った教科書の本文を使ったQ&Aの活動例を紹介しよう。なお、文中の下線部とその番号は、後のQに関する部分である。
In the middle of the 3rd century, a priest named Valentine lived in Rome. One of his jobs was to marry people. Claudius U, the emperor at the time, liked to fight wars, but he faced one big problem: 2) there were not enough young men for the army. So 1) Claudius made a law against marrying. In other words, 4)all young men were prohibited from marrying. He did this because 8)he thought that men without wives and families would be better soldiers.
In spite of 1)this new law, many young Christians still wanted to get married. 3) Valentine helped them by marrying them in secret. Claudius, finding out about this, ordered that he be put into prison. 5)He was then called before a judge and was told that he would be put to death. 6)While he was in prison, many young people came to visit him. Among them was the daughter of a prison guard. On the day of his death, he left her a short letter to thank her for her friendship. He signed it, "From your Valentine." On February 14th in the year 269, Valentine's head was cut off. He was killed for 7)his beliefs. Later, he was made a saint, and since then he has been known as Saint Valentine. [PROMINENCE English I(東京書籍),  L9 'The History of Valentine's Day'より抜粋]

( a )のタイプ
1) Q: What is 'this new law' on the first line in the 2nd paragraph? ---
A : It was a law against marrying(またはClaudius made).

( b)のタイプ
2) Q : What was Claudius' big problem?
A: It was there were not enough young men for the army.

3) Q: Why was Valentine killed?
 A: Because Valentine helped them by marrying them [young Christians ] in secret.

( c) のタイプ
4 ) Q: What did Claudius forbid all young men to do?
A: He forbade all young men to marry.(または prohibited all young men from marrying.)

( d) のタイプ
5) Q: Was Valentine found guilty by a judge?
6) Q: In prison, was Valentine lonely?

( e )のタイプ
7) What do you think were Valentine's beliefs? Express your opinion.
8) Q: Claudius II thought that men without wives or families would be better soldiers. Do you agree with him? Please write your opinion in 3-5 sentences.

 ここでは便宜上、質問の型にごとに示したが、Q&Aは段落ごとにまとめ、プリントにして配布する。答えの型が示してあるところは、空欄に適切な表現を入れて答えを完成させるよう指示する。(本稿では、期待する答えを入れておいた。)中学校では、Q&Aの答えについては、コミュニケーション重視で、主語・述語のある「文」での答えを求めない事が多い。Yes/No question や、(b)のタイプには必要ないと思うが、もしも「文」での答えを求めるならば、答え方を示すことも、段階的な指導では必要だと考える。
 (a)や(b)のタイプは口頭でも十分である。(1学期に用いたときは、プリントにはしていない。)また、(b)のタイプの質問は、多用することはさけたい。生徒は、形式から答を導いていて、内容が理解できていないケースがあるからである。また、単文レベルの理解にとどまり、文章全体に目がいかない恐れもある。が、1クラス40人の学力差を考えると、スローラーナーを授業に参加させるためには、(b)のタイプも適宜使うことも必要だと考える。
 (c)のタイプの4)についてであるが、生徒は既にforbid A to do という表現を勉強しているので、それで言い換えた。本文では新出の文法事項のprohibit A from …ing の受動態で表現されているところなので、ここの部分は、内容を確認させる前に、構文の説明が必要となるであろう。
 (d)のタイプの5)、6)であるが、いずれも既習表現を使っている。第2段落の状況を説明する上位の語句を使って、生徒の理解を図るとともに、具体的記述を、抽象的・一般的な表現への転換するときのモデルを示す意図がある。
 (e)のタイプであるが、7)は授業中に何人かに口頭で発表させ、8)は後日提出させた。
7)の答えとしては、"Marrying was not wrong. It was a right thing."が、後のヴァレンタインデーへと続くbeliefだと思うが、生徒の中には、"I think he believed war was wrong. He must have desired peace."と答える者もいた。本文でもbeliefsと複数形になっていることもあり、様々な容認できる答えが出てくると盛り上がる。ただし、生徒の答えは最初から、示したような完璧な英文の形はとっていない。まず、発話させ、授業内で手直ししながらよりよい形にしていく。
8)については、多かったのは "I don't agree with him."の立場をとる意見であった。理由は "If the soldiers have wives or families, they will fight hard to save their precious people. So, I think men with wives or families are better soldiers."や "After fighting against enemies, soldiers need to be relaxed. Wives and families help them to be relaxed, so men without wives and families can't be better soldiers."という、ハリウッド映画的なものが多かった。中には、賛成の立場から "Without families, men can have enough time to train themselves. So, they can become strong soldiers."という、企業戦士的発想のものもあった。 
授業で扱った内容に関して、まとまった文を書いてみるこの活動は、1学期から、3課に1度くらい実施している。最初はモデル文を示し、それを参考にさせていたが、今回は、モデルをつけなかった。それでも、なんとかまとめてきているので、確実に力がついてきていることがわかる。授業内での口頭での発言や、パラグラフ・ライティングへつながっていくことを期待させる。生徒の成長にこちらが追い起こされそうである。前述の(1)〜(4)を駆使しながら、私自身が精進し、研鑽を積んでいけば、「オールイングリッシュの授業」も 夢ではないようだ。

参考文献
天満美智子(1989) 「英文読解のストラテジー」  大修館書店

「英語教育」2004年3月号(大修館書店刊)掲載