内容理解のアウトプットも目に見える形で


 「ねぇ、このイラスト、なんか昔の少女漫画っぽいよね。」――そりゃそうだ、イラストを描いた本人の教師(私)は高校時代、英語なんかより漫画の方が何倍も好きだったんだもの。そういう生徒達もワークシートを前に、なにが起こるのか興味津々、なんだか嬉しそうだ。

(1) 和訳に替わる理解の確認ツールとして
 Reading 指導において、ヴィジュアル(絵や図表)は、スキーマの活性化や内容理解の助けとして使われることがほとんどである。特に英文を読む前に、挿絵や写真から内容を想像するpreview はReading の指導においては、よく用いられる手法である。ここでは、英文の理解を促したり、理解を助けるためではなく、いかに生徒が英文の内容を理解しているかを「確認」するために、また、和訳に寄らず内容を理解しようとする意識付け(最終的には直読直解)を生徒にさせる目的でヴィジュアルを使う場合を紹介する。すなわち、「和訳」による理解の確認からの脱却を図りたいのだ。
 次のワークシートの一部を見ていただきたい。

(シート1)

 これは、Reading の授業で3年生に行わせた活動である。教科書の該当部分(POLESTAR Reading Course(数研出版), L..10 Tourists of a Different Kind のSec.1 の第1段落 )を読んで、指示に従ってイラストの足らない部分を補い、Qに答える。以下はその英文である。
 The people of Gandrung, Nepal, like to look at the photograph of a nameless man. It shows a smiling, bearded young fellow with a backpack. The villagers think that he is the best tourist that ever came to visit.
 生徒達が絵を正しく描き、英問に正しく答えていることが確認できれば、細かい和訳を付ける必要はない。絵を完成させるにはsmile とbearded とbackpackの3つがポイントになる。机間巡視する限りでは、ほぼ全員が正しく描いていた。口元や髭の表現には、様々なバリエーションがあった。口をうっすら開けているsmileもあれば唇の端を少し上げただけのものもあるし、山羊の様な髭もあれば、髭を描きすぎてyoung fellowに見えないものもあり、見ながらこちらが思わず吹き出してしまう。さすがにmustacheのみを描いている生徒はおらず、ちょっとほっとする。 backpackは描きにくく、苦労している生徒多かったが、背中に背負っているのがわかればよし、とした。
 最後に、黒板にプリントと同じ未完成の絵を描き、1人の生徒に出てきてもらってそれを完成してもらったが、生徒達はそれを見て、自分のイメージとどう違うか、またどの程度同じかを確認し、楽しんでいた。
私は常々生徒たちに「読んで理解する、ということは具象から抽象、また抽象から具象への変換ができること」と言っている。具象から抽象については、summaryなどを作成させる時に、状況等を説明する「上位の語」(たとえばchair, table, bed に対するfurniture がそれにあたる)を意識して使わせるようにしている。抽象から具象はその逆になるが、映像化も抽象から具象の1つの形だと考えている。ただし、各人が頭の中で具体的に思い浮かべることができても、それを絵として表現することは別の問題である。おそらく、この活動にしても白い紙の上に一から描いてみろ、という指示だったらほとんどの生徒が躊躇しただろう。こちらでyoung fellow の枠組みを用意し、ポイントを3つに絞ったので、絵が苦手な生徒にも取り組める活動となった。
ちなみに他の読み物で、ある人物の容貌について細かく述べられている箇所を絵で表現してみなさい、と指示をした事がある。しかし、そういう指示だと美術部の生徒でも「引く」。おそらく頭では正確に思い描いていると思うのだが、画力を必要とするようなものには誰も取り組みたがらない。
 ただし、一から描く場合でも、簡単な線や図形でもなんとかなる場合は取り組みがよい。同教科書のL.2では、月の発生の仮説の英文を絵で描かせた事がある。該当箇所は次のとおり。
Today most researchers believe that the Moon was actually part of the Earth. Research shows that a large object hit the Earth early in its history. Perhaps it was as big as the planet Mars. The impact broke off huge pieces of the Earth. Later these pieces came together and formed what we now call the Moon.
 ほとんどの生徒が自分のワークシートに描いていた絵は次の様な感じである。

 (シート2)

 簡単な円や線で月や地球がなんとか表現できることから、生徒の取り組みはよかった。この活動でも、やはり最後に、生徒の1人に黒板にその絵を描いてもらったが、どの生徒も説明を加えながら気持ちよく描いてくれた。あるクラスでは、たまたま美術部の生徒が指名されたのだが、その生徒は、ド迫力の惑星衝突を描いて、皆の度肝を抜いた。
 このReading の授業では、教科書と平行してセンター入試演習もやっていた。センター試験の長文においては、毎年、図表や絵が絡む問題が出題されているが、それは和訳に替わる理解の確認である場合が多い。ただし、センター試験やその模擬演習においては、絵や図表は選択肢として示されている。選択肢から正しいものを選ぶのもよいが、授業においては、最初から選択肢を用意するのではなく、自分の頭でまずイメージさせたい。それが本来のReadingの姿だと考えるからであり、また、直読直解の1つの到達点であると考えるからである。和訳イコール内容理解、という考え方から生徒の意識を解き放つ。これが、この一連の活動の根底にある考え方である。

(2)OCで、アウトプットをサポートする
 次の3コマ漫画は、「状況にふさわしい英語を吹き出しの中に書き入れよ」という指示をつけて実施した確認テストである。(ここでは吹き出しの中にmodel が入っている。)

(シート3)

 授業中に動作(相手を示す、握手するなど)を交えて会話させているので、ほとんどの生徒の解答には、こちらが期待している答えが入った。会話文の場合、よく動作をト書きで書くが、漫画にすると、それが不要になる。ト書きに英語を使うと英語が得意でない生徒には、負担が大きくなる可能性がある。会話で使う機能表現以外に、動作を表す英語表現も学習しなければならなくなるからだ。ト書きにだけ、日本語を使ってもよいのだが、漫画の方が直接的で、日本語で状況を説明するよりもわかりやすい。パフォーマンステストもよいが、時間もかかるし、評価基準が難しいと感じておられる先生方も多いのではないだろうか。吹き出しにセリフを入れるこの確認テストは、パフォーマンステストの完全な代替にはならないが、記述式の会話文よりもより実際の会話に近い状況を生徒に提供することはできる。最近では、大手業者の実力テストや模試においても、漫画の吹き出しに適切な会話表現を入れる問題はよく出題されており、問題形式とすれば、一般的になりつつあるのかもしれない。

(3)インプットもアウトプットもカバーする
 「相手の調子を尋ねる」表現と、それに病名が絡む会話文は、OCではよくあるパターンである。病名(stomachache, cough, sore throatなど)を発音しながら、下の絵をカードで見せる。日本語は使わない。このように、ヴィジュアルを使って新出表現を導入し、インプットに使った後、今度はアウトプットに使う。ペアで会話をする際、そのカードをCueとして使うのだ。例えば、腹を抱え、顔をしかめている絵のカードが自分に回ってきたときは、 “I have a stomachache.” と発話しなければならない。カードのcueが英語だとどうしても「読んで」しまうし、日本語だと「英訳する」という感覚になる。「話す」という感覚に一番近くなるのは絵を用いたときのように思われる。

(シート4)

 ここまでの3項に共通していえるヴィジュアルの使い方は、「日本語の介在させず生徒に理解させる、または理解度を見る」ということである。まだまだ改善の余地があり、使用場面も頻度も限られているが、可能な限り今後も授業で使っていくつもりだ。

(4)自分で描いてみようと思われる方へ
 ある程度絵が描ける人間にしか、このような実践はできないと思われるかもしれないので、思いつく限りのアドバイス・・・。
・トレーシングペーパーを使う。
OCの題材はある程度固定化しているので、OCで使えそうなイラストや鮮明な写真など、雑誌等で見つけたら切り取ったり、コピーしておく。それを参考に自分で描くのもいいが、トレーシングペーパーなどを使って、アウトラインだけでも線で起こすと楽である。また、アウトラインだけのシンプルな形の方が、プリントなど、印刷物にしたときにはよくわかる。
・デジタルカメラの画像を使う。
写真の場合、ポイントになる箇所を強調する必要があるので、不要な部分は画像処理ソフト等を使って消しておくとよいだろう。印刷物として配付する場合は、印刷の鮮明さやコントラストに注意を払う必要がある。
・絵のうまい生徒や先生と仲良くしておく。
アイデアが浮かんだら、それを自分の代わりに描いてもらう。ただ、自分が思い描いたとおりにはならないかもしれないが。

私のHPでも多少、授業で使えそうな画像などをアップしていますので、よろしかったらどうぞ。

実践事例 materials


「英語教育」2006年10月増刊号(大修館書店刊)掲載