「道案内」

 「道案内」という教材は、英語のコミュニケーション活動の「ネタ」とすれば、ものすごくポピュラーな教材である。(まあ、このHPを読んでくださっている英語教育関係の方々には周知の事実だけど。)ELS関係のコミュニケーションゲームでも目にするし、OCが高校に導入されたときも、教科書にあった。95年にOCAをやったときに、教科書にModel Coversation と碁盤の目のような地図が示され、機能表現を使ったInformation Gap活動を結構楽しくやった覚えがある。が、それからまもなくして、地図をつかった「道案内」は非現実的ではないか、という記事を雑誌「英語教育」(おそらく)で読んだ。それによると、現実の生活では口頭であんなに詳しい道案内はしないであろう。学校の校舎案内や、デパートの売り場案内の方が機会も多いし、よっぽど現実的だ。だから、シチュエーションを「地図」を使ったのもではなく、校舎の見取り図や売り場案内に変えた方がいいのでは、ということだった。

 確かに。実際、OCの授業でやらせるような道案内を私達は、現実にはまずやらないだろう。やるとしたら、紙に地図を描きながら、目印になる建物の名前と位置を書き込んで説明するだろう。聞く立場となれば、手元に地図やペンを持っていなかったら、最初の2,3の指示を覚えていればいいほうだ。日本語だってそうなのに英語でこれをやるのか?(そういえば、サンフランシスコの通りで、ある有名百貨店へはどうやっていくのか、といきなりネイティブの人に尋ねられてぶっ倒れそうになったっけ。幸いなことに、私たちがいたのは、その筋をずーーっとまっすぐ行けばそれが右手に見えてくる地点だった!)

 それから、光丘高校での校内研修で、同僚の教員が「道案内」を授業でやるのを見る機会があった。(おそらく97年。)彼は学校周辺の地図を用意し、非常に用意周到に授業案を練ったにもかかわらず、思ったほどうまくいかなかった。教科書に出てくる機能表現を使って活動させようとしても、実際の地図ではうまくいかない。やっぱり碁盤の目でないとダメなのだ。

 99年にOCBを担当したことがあり、その時も「道案内」が教材にあった。その時は、NHKのラジオ「英会話入門」の特集で「道案内」があって、(98年の10月か11月の放送だろうか?)その中のスクリプトをペアで練習させた。さすがに、そのテキストには地図を使った道案内はシチュエーションとしてはなかった。エスカレーターの前で、2階には何があるのか、とか、文具売り場はどこか、というような会話で、場所や方向の指示に関する表現は1スクリプト1つから2つ、だったように思う。

 昨年(03年)、OCTでまた「道案内」を扱う機会があった。過去の様々な経験から、最初は校舎案内にしようと考えたが、地図を使った一連の機能表現を伴ういわゆる「道案内」の方がいいのでは、と同僚からも意見が出された。ようするに、ものすごくポピュラーなのだから、逆に道案内の定番の表現を知らなかったり、ふれる機会がなかった、という方がマズイのではないか、ということだ。実際、1年生に授業をしてみて気がついた。「道案内」は中学の教材で、しかも複数回やっているではないか!地図を使った案内もあれば、乗り換え案内もやっている。OCの授業では、導入の段階ですでに、「あ、これやったことあるぅ」「知ってる知ってる」という声が上がった。同じ1学年を持っている同僚に「しまった、中学の既習事項だった」というと、「まあ、既習事項でも、身に付いているとは限らないし、中学の指導にも差があるしね」と言われ、まあそれもそうか、ということでその場は終わった。でも、心の中では、やっぱり校舎案内にすべきだったか、と思っていたけど。

 今年(04年)、萩市で行われた県の中学校の英語研究大会に参加する機会があった。そこで中学2年生の「道案内」を見た。観点別評価で言うところの「聞く」活動に重きを置かれた授業だったが、展開部で萩市の地図を実際に使って生徒に活動させた後、最後は、机の間を道路に見立てて、1人の生徒に指示されたように動いてもらっていた。机と机は碁盤の目状態だったし、ALTの指示も、目的地から一旦遠い場所に行くように指示をしたあげく、目的地に到着するようなものだった。なんだかちぐはぐな印象を受けたのは私だけ?だろうか??

 その大会で、もっとビックリしたことがある。研究発表では、小学校の国際理解教育における「英語」が取り上げられたが、その年間授業計画に「道案内」が挙げられていた。また、市内にある高校のOCに関する発表も「道案内」に関するものだった。観光地萩市、という土地柄なのだろうか??いや、小学校は山口市の小学校だった。(あ、山口市も観光するところがけっこうあるっけ)

 ここまで書いての結論(?)的なこと。
(1)小中高とこんなに「道案内」ばっかりやる必要はない。少なくとも高校では「校舎案内」など、シチュエーションを変え、表現のバリエーションを増やす工夫がいる。
(2)「道案内」はゲームと割り切る。機能表現を習得させ、教室内でInformation Gapを用いた疑似コミュニケーション活動を楽しくさせる教材だと考える。だから、「碁盤の目」の地図で十分だし、そっちのほうがいい。
(3)日常生活に即した「道案内」をする場合には、1つの会話に機能表現( turn right/left, go straight ... , it's on your right/ left など)は、2、3個程度で十分。
(4)小中高でどんな活動をするのか、お互いにもっと情報交換する必要がある。特に小学校での英語教育は始まったばかりなので、要注意かも。
(5)高校の教員(いや小、中もか?)はもっとOCの指導法と評価を研修すべき。OC導入から10年になるが、教員の力の格差は10年前より確実に広がっているように思う。

(2004年10月)