英語教育の「スタンダード」

 先日、福岡市にある福岡女学院付属高校・中学で行われた公開授業研究会に参加する機会があった。
 他県の高校の研究授業を参観させていただくのは、初めてのことだ。自分の記憶をたどると、新任2年目か3年目に、広島大学付属福山中の研究授業を見る機会があった。ちょうど、「訳読式から脱却」、「ALTとTT」、「コミュニケーション重視」、「オール・イングリッシュで授業」的な気運のなか、日本人の教師がオールイングリッシュで中学生たちに「買い物」をさせる授業だった。すばらしい授業だったが、教員に成り立ての当時の私は、自分の英語に、ますます自信をなくした。また、生き生きと楽しそうに英語を使いこなす付属中の生徒を目の当たりにし、自分が担当している農業高校の生徒たちのことを考えて絶望した。

 その後転勤し、関西地区のいくつかの高校の授業を学校訪問という形で参観させていただく機会があったが、それは研究授業という形ではなく、いわゆる「普段着」の授業を見せていただく機会だった。それはそれで学ぶところは多々あり、有意義ではあったが、やはり自分の経験に照らし合わせて考えてみると、同業者や専門家、指導助言者に「授業案」を示し、授業を公開し、その後参加者で研究協議をする「研究授業」の緊張度は、「授業参観」とは雲泥の差だ。準備だって全然違う。今回は、「他県の」「私学のミッション系女子中高」という現在の勤務高とは異なる高校での研究授業が見られるということで、なんだかうきうきしながら早朝の新幹線に乗った。

 研究授業の前に、まずは学校の体制についての説明がある。SELHiの指定を受けた後も、文部科学省の「英語教育改善のための調査研究事業」の指定校となり、引きつづき研究を続けておられる。中高一貫の特色を生かして、中3,高1を6年間の中の中期とし、「基本語彙習得と多読を通したリーディング理解」、高2、高3を後期とし、「語彙習得発展と多読を通したリーディング理解」を念頭においた教授法の開発を研究課題としておられる。なんだか、とても共感できるし、わかりやすいなあ。「自立した英語学習者を育てる自己システムの育成」を研究テーマに掲げておられるのも、恥ずかしながら、今年度私が校長に提出した自己目標と一緒だ。

 普通科の「英語強化コース」高校1年の授業と、2年生の授業を参観させていただく。2つの授業に共通しているのは。「クラスルームイングリッシュを多用」「ビジュアル・エイドを適宜導入」「内容理解はパラフレーズした英文の質問で確認、深化」「オール・イングリッシュにはこだわらない」・・・教科担当間で、継続的な研究授業を実施するだけではなく、「授業評価シート」を工夫することによって、その後の研究協議を活性化させる取り組みをしているという説明があったが、これはその成果だろう。「研究授業のためのよそ行きの授業」ではなく、「日頃やっている授業の延長の研究授業」というスタンスがよく伝わってくる。それから、教師が勝手に英語をぺらぺらしゃべって授業を進めていくのではなく、あくまで生徒との英語を介したインタラクションで授業が進んでいくのもイイカンジだ。私は、個人的に、授業の始めに自分の個人的な話題の「スモールトーク」など、とてもできない。よって、お二人の先生方が、英語で本時のリーディング教材に関する話題から入られて、なんだか「ほっ」とする。また、英語では難しいか、という場面では適宜日本語を使われているし、そういう場面では生徒にも日本語の使用を許しておられるのも、柔軟性が感じられる。

 特に、高校2年の授業は、私が、もしも今、研究授業をしろといわれたら、やるであろう理想的な授業だった。実際に授業された先生は、これを読んでお腹立ちになるかもしれないが、私が防府高校の生徒相手に日々やっている授業とそう大差ないなあと感じ、とても嬉しい気持ちになった。 優れた英語力と気概に満ちたすばらしい先生方の実践と、同じ指導の方向性。そして、「英語強化コース」の生徒と比べても遜色ない防府高校の生徒の学習に向かう姿勢。同じ学校で指導していても、隣どおしのクラスで、授業展開は全く違う・・・ってことだってよくあることなのに、お互いに情報交換などしたこともない高校で、同様の授業が展開されている・・・のは、なんだかとても感動的だった。本時の後の授業展開も、私が思っていた通りで、ますます親密度UP。また、生徒に配布されたワークシートが、スゴクよくできていて、大変参考になりました!!今度は、こんな風に作ってみようっと。感謝、感謝。ありがとうございました!!

 なんだか不思議と自信がわいてきた。

 防府高校での自分の英語授業は、現時点でもっとも信頼性・妥当性のある授業スタイルだという確信。研究協議のなかで、参加されている他校の先生からも、「英語TやUでは同様のスタイルで実施してるが・・・」という発言があり、「クラス・ルームイングリッシュを多用」「ビジュアル・エイドを適宜導入」「内容理解はパラフレーズした英文の質問で確認、深化」「オール・イングリッシュにはこだわらない」・・・が、現在の英語の授業のスタンダードになりつつあるんだなあ、と実感。

 そしてもう一つ。私は、新任の頃に比べると、成長しているという自信。今の私なら、広島大学の付属中の先生がやった授業はできる。

 そしてこれから私(たち)がやらなくっちゃならないことは、おそらくこういうことだ。

 福岡女学院で展開されている、また私もやっている授業スタイルが「スタンダード」となるように、これからも継続して実施していくこと。ワークシートの共有化などを通じて、同僚にもそのノウ・ハウを伝え、共有していくことが必要だろう。教育実習生の研究授業を通じても、理念の共有化は可能だろう。新任の頃、私が感じた「絶望感」ではなく、なんとなく自分もできそうな「期待感」を、教師自身が持たなければ、裾野は広がらない。また、「進学校」「英語の得意な生徒を集めたクラス」だけで実施可能な授業形態ではない、ということを今後は実証していかなければなるまい。英語があまり得意でない生徒たちに対しても、英語を授業中に少しずつでも「運用」する授業を、生徒のレベルに合わせて展開できるのが「プロ」としての今後の私たちの仕事になっていくだろう。そしてそのうちに、「へえ、英語の授業で日本語訳しかしないなんて、チョー変わってね」なんて、生徒が言うような学習環境になっていくのが理想だ。

 こうやって考えていくと、なんだか気恥ずかしいけど、「夢」って広がるモンなんですねぇ(笑)。私にはまだまだいっぱいやること、やれることがあるのかも、というところで、今年度はとりあえずオワリです。

(2010年3月)