小学校英語活動実践についての導入案  2001.3.8

                                     福山市立水呑小学校  教諭  粟 村 啓 史                   
 

※これは全くの私案であり、学校としての導入案ではありません。
  導入することを訴えようとして試みた、私自身の悪あがきのような拙いものですが、意欲だけでも感じていただけ
  れば幸いです。


 文部科学省の「小学校英語活動実践の手引き」より,「総合的な学習の時間」などで扱う英会話を「英語活動」と呼ぶことにする。尚,「英語活動は3年生以上で」というふうに限定はしない。低学年の1・2年生から導入する方向で考える。
 小学校英語活動実践の導入を想定し,次のような構想私案を提案する。



1.目的・ねらい
 ア)世の中の急速な変化や国際化の動きに対し,的確に且つ敏速に対応する教育の必要性が高まっている。
   小学校英語活動実践も時代の要請する課題である。
 イ)児童個々の表現の幅が広がり,コミュニケーション能力が伸長していくとともに,表現意欲が高まり表現力が拡
   張していくことを第一主眼として考える。
 ウ)「国際理解」教育においては,異文化を知り,且つまた異文化を知ることを通して自国の文化を知り,行動する
   能力を習得することがねらいとされている。よりよく異文化を知るための一環として,若干の外国語を取り入れ
   言語を理解するように努めたり,外国語でコミュニケーションを図ることを試みたりすることは,「国際理解」教
   育において大変有意義な活動であると考えられる。
エ)時代の要請は,「外国語によるコミュニケーション能力の育成」をも求めている。国際化が加速し,現在の子ども達が就職し社会で活躍する頃には,「英会話」の能力が採用の時点で厳しく問われることが当たり前のような時代になるであろう。現在でも,「英会話ができる」ことが採用の条件として挙げられているところが少なくないというのが実状だそうである。このような子ども達の将来を保障するためにも,小学校段階から英語活動を導入することは重要な課題であると認識し得る。
オ)「国際理解」の観点からは,英語だけでなくいろいろな国々の言語を取り扱うことが考えられるが,上記のような観点から,英語を媒体とするコミュニケーション,すなわち「英語活動実践」を中心に行うものとする。
 
 
 

2.共通理解・確認
 導入にあたり,共通理解として,以下のことを確認しておきたい。












 

 @中学校英語の学習内容の先取りという感覚は持たない。
 Aコミュニケーション能力が伸長し,表現意欲が高まり,表現力が拡張して
   いくことを第一の目的とする。
 B身近な英語を扱い,楽しさの中で英語に慣れ親しむことができるように工
   夫する。
 C主として音声を中心とした活動を行う。原則として文字指導には傾注しな
   い。但し,文字の提示を否定するものではない。文字を提示して音声活動
   を行うことや,アルファベット26文字の一文字ずつの音(読み方)を扱う
   ことは,音声活動として認められる。
   但し,発音指導に関連して文字と音声との関係を指導することはあり得る。
 D評価に際して,試験による成績など,数値的に評価することはしない。
 
 
 
 

3.取り扱う題材などに関して
 取り扱う題材に関しては,例えば次のようなものが考えられる。
















 

 (1)数字に関する語句と表現(ex.数・値段・年齢・時間etc.)
 (2)あいさつの表現(初対面の挨拶,出会いやさよなら,日常の挨拶etc.)
 (3)お礼の表現
 (4)ものを頼みたいときの表現
 (5)ものを訊ねたいときの表現(名前を訊く,道を訊く)
 (6)季節・時期・曜日・天候・方向・食べ物・乗り物・行事・色・買い物・ 文具など,
   日常生活の中 によく使われる語句と表現
 (7)スポーツ・音楽・楽器・道具などに関する語句と表現
 (8)体の部位に関する語句と表現
 (9)動作に関する語句と表現
 (10)動きに関する語句と表現
 (11)形状・形容に関する語句と表現
 (12)動物・植物などに関する語句と表現
 (13)気持ちや表情,体調などの状態に関する語句と表現
 (14)慣用的によく使われる表現
 

 尚,文部科学省の「小学校英語活動実践の手引き」の中には,留意事項として,次の3点が挙げられている。







 

 ア.子どもの興味・関心に配慮しながら,適切な学年で扱う。
 イ.1回扱った内容についても,何度でも活動を変化させて扱う。取り扱う
   言語材料は同じでも,活動を変えることによって,子どもの目には新鮮
   に映る。
 ウ.言語材料はできるだけ単純にし,子どもが聞いたり使ったりする回数を
    多くする。
 




4.取り扱う方法などに関して
(1)コミュニケーションとして成立するよう,「問い → 受け答え」の流れが自然に組めるように構成を工夫す
  る。
 
 @英語の文型から考察する。
  英語の文型には,次の5文型がある。















 

 1) S(主語)+V(述語)
   (ex.: Birds fly.  I cook everyday.  There is a book. )

 2) S(主語)+V(述語)+C(補語)
   (ex.: This is a pen.  I am a nurse.  He looks tired. )

 3) S(主語)+V(述語)+O(目的語)
   (ex.: I have a pen.  I like soccer.  You must read a book. )

 4) S(主語)+V(述語)+O(目的語)+O(目的語)
   (ex.: I gave him a pen.  You tell me that. )

 5) S(主語)+V(述語)+O(目的語)+C(補語)
   (ex.: I call him Tom.  He made his son a doctor.)
 















 
  
   ・コミュニケーションが成立し,
   ・「問い → 受け答え」の流れが自然に組め,しかも
   ・小学生に過度の負担が無く,
   ・オーラル(oral)に楽しめるもの
 ということから考えると,上記の1),2),3)の範囲から「問い → 受け答え」 の流れを組むのが妥当なのではない
 かと思われる。4),5)の文型については, 当面の指導はあせらないこととする。
 
 A構文を用意する。
  「問いの表現」「受け答えの表現」として,幾つかの構文を用意しておく。逆に言うと,幾つかの構文を用意し,『今日はこの構文の中で「問いの表現」と「受け答えの表現」を教え,コミュニケーション活動をさせよう』と計画を立てる,ということである。
  用意する構文には,例えば,『There is 構文』『want to 構文』『have to 構文』などが考えられる。また,『which,when,where,who,what,howなどの疑問詞を含んだ表現』,『can 〜』という表現,『I like 〜』という表現なども構文として用意しておくことが考えられる。また,それら以外にも,様々な表現(構文)を用意しておくことが大切であると考えられる。
 
 Bスキット
  「問いの表現」と「受け答えの表現」をワンセットとして,簡単な寸劇的設定場面(スキット)を設定する。多くの場合はAの構文表現を用いて「教師−児童」間,「児童−児童」間で行わせる。耳と口とを集中して使わせ,英語で質問が受けられ,英語で答えられる口頭コミュニケーションの練習の場を設定する。
 
 C語彙を増やす。
  「問い」と「受け答え」をもってコミュニケーションの幅を広げようとすれば,当然,知っている語彙の数を増やしてやることが必要である。知っている語彙の数が多い方がコミュニケーションの幅は広がるのである。実践に際しては,例えば,上記「3.取り扱う題材などに関して」の中で述べたような題材に関して,多くの語彙に触れさせることができるよう配慮し指導することが大切であると考えられる。
 
 
(2)歌
  英語の歌を歌わせる。時に寸劇などを盛り込んだりすることもある。但しこれは斉唱ではないので,体を動かすなどの動作をくわえながら歌うということがポイントである。歌に合わせての身体動作をどのように組み込むかを工夫しなければならない。また,歌を指導する際には,カタカナ表記などにはしないよう,耳だけで覚えさせることが大切である。(但し,英語表記の歌詞を掲示してもよい。)
  歌は,リズム感があって子どもが体を動かせるような,しかも歌詞に繰り返し があり,自然に覚えられるような
  歌が望ましい,とされている。
 
 
(3)フラッシュカード
  例えば,数種類の果物の絵をカードに描き,その絵カードを子ども達に見せながら,英語での表現を知らせ,繰り返し単語の発音練習をさせる。これらの活動を繰り返し行うことを通して,耳と口を使って「音」の違いを体感させるとともに,英単語の語彙を増やすことに役立てる。
  また,慣れてきたら,絵カードに描く物のジャンルを広げたり,英単語の文字と対応させるなど,提示する際の工夫の幅も広げていくよう努めることが望ましいと考えられる。
 
 
(4)アクティビティー
  アクティビティーとは,簡単に言うと「活動・行動・遊び」である。MAT方式というのが有名である。M(model)
A(action)T(talk)という意味があり,この3つが指導方法も物語っている。「表現のモデルを示し」「動作を伴って」「声に出してしゃべる」ことによって言語は獲得される,という考え方からできている。例えば,「run」という言葉を習得する場面なら,走る場面があるものとして,実際に走る動作をしながら「run, run, run」と何度も口に出すのである。動作と結びつけながら言語を獲得させていくのである。
  また,ゲームなどを通して実際に体を動かしながら言語活動をすることもアクティビティー(activity)である。同様に,上記Bのスキットを使って,幾人もの人達とやりとりをする活動もアクティビティーである。体を動かしながら表現(言葉や言い方)を習得するという方法である。
 

(5)クラスルーム・イングリッシュ(Classroom English)
  クラスルーム・イングリッシュとは,日常的に教室で使われる簡単な挨拶や教師の指示言,誉め言葉や激励の
  言葉などを英語表現で行うということである。例えば,「Good morning」「Stand up」「Sit down」「Good」「Sure」
  「Are you ready?」などである。これは,日常の生活の中で英語表現に馴染ませるということであり,また,日常
  の生活の中に英語表現が入ってくるという状態が違和感無く普通のこととして受け止められるようなクラスの雰
  囲気を醸成するということである。これは,「英語活動」の「授業実践」とは関係なく,日常的指導として行われる
  ことである。

 
 

5.時間運用に関して
 (1)45分間(1時間)連続する授業の場合
   ・従来通り45分間を1単位時間とし,例えば,「総合的な学習の時間」などを  充てて授業する。
   ・週1回程度として,年間20〜25時間の授業実践を考える。
   ・上記に紹介したような様々なことがらを組み込みながら,1時間の授業を組む。
   ・ゲームやアクティビティーを多く組み入れるのに適している。
 
 (2)15分間を1ユニットとする授業の場合
   ・1時間(45分間)の授業時間のうち,15分間だけ「英語活動」の授業を行う。あとの30分は別の「或る教科」
     の授業を行う。
   ・3日間で「英語活動」1単位時間,「或る教科の授業」2単位時間としてカウントする。
    ・1日15分間を毎日行う。3週間15日間を1クールと考える。15日間で「英語活動」5単位時間,「或る教科
    の授業」10単位時間としてカウントする。1クールにつき1つのテーマを設定する。3週間1つのテーマを授
    業するのだが,その間さらに1週ずつ,細分化された小テーマを1つずつ設定する。例えば,「挨拶」という1
    クールを設定した場合,1週ずつ, 1)初めての出会いの挨拶, 2)朝・昼・晩の挨拶, 3)さよならの挨拶・お礼
    の挨拶,というように細分化した小テーマを1つずつ設定するのである。
   ・教師対全体で何回か練習する。(Whole Practice )
    児童を2グループに分け交互に言わせる。(Group Practice )
    隣同士で会話させる。(Pair Practice )
   ・短い時間で数多く,という指導に適している。
 

 
 
6.学年間の系統性について
・例えば次のように構想する。1・2年生は単語の語彙習得を中心とする。また,歌やゲームを多く取り入れるようにする。3・4年生は,単語の語彙習得数を増やしていき,単文による会話ができるようにする。歌やゲームも取り入れる。5年生では単文による会話例を増やしていき,少し連続した会話ができるようにする。歌やゲームも取り入れる。そして6年生では,基本的な表現を用いて自分の意志を伝える会話ができるようになることを目指す。
・尚,別の観点から言うと,月ごとに「場面」や「テーマ」を設定するという方法もある。全学年が,同じ月には同じ場面やテーマで英語活動をするのである。例えば,4月は「挨拶」,5月は「時間と季節」,6月は「体と天気・気分」といったような感じである。
 

 
 
7.その他
 ・英語活動の授業は,次の3つの形態が考えられる。
   ア.学級担任による単独授業。
   イ.地域ボランティアの活用。
   ウ.ティーム・ティーチング
     a. 学級担任+ALT(Assistant Language Teacher )によるTT
     b. 学級担任+学級担任によるTT
     c. 学級担任+地域ボランティアによるTT
・評価について。評価に際して,試験による成績など,数値的に評価することはしない。活動や学習の過程や活動への参加の度合いや発表などで見られる学習の状況や成果について,子どもの良い点や学習に対する意欲や態度,進歩の状況などを踏まえて,所見等の記述で評価する。