TOSSランド/教師修行・実践交流/生活指導交流


 白いハトとリスの話
      =報酬を求めないまごころ=
 
 福山市立水呑小学校

        粟村啓史

 
 このお話は『いきいき子育て−「テレビ寺子屋」お母さん講座U−』(吉岡たすく著:PHP刊)という本の中に(P.52〜P.57)書いてあったお話です。
 いいお話だなぁと思ったものですから,学級通信にして家庭に配り,子ども達にも保護者にも読んでもらいました。「いいお話だなぁと思ったものですから,紹介します。」といったくらいのコメントで,それ以外は何も書き加えませんでした。
 
 
 森の中にリスが住んでいました。そのリスはおなかが大きかったのです。もうすぐ子どもが生まれるのです。
 あるとき台風が吹きあれました。その台風はたいへんひどくて,夜中じゅう吹きまくりました。そして,木の枝が折れる音とか,木と木のぶつかり合う音,すさまじい音です。
 リスは,木のほら穴の中でジーッとふるえながら,一晩過ごしました。
 朝になると,ケロッと台風一過,静かになりました。そこで,リスはほら穴から首を出しました。すると,あたりはきのうの森とはすっかり変わって,すっきりしています。台風で木の葉は散ってしまって,上に広がっている青空もいつもよりは大きく見えました。
 「ああ,きれいな空になったわ。」
 と,リスは思わず声を出しました。と,フッと下を見ると,一羽の白いハトが倒れているのが見えました。驚いてリスはおりていきました。きのうの台風で飛ばされて,木にでもぶつかったのでしょう。ハトは羽根を痛めて,倒れていました。ひどいけがをしていました。飛ぶことができません。
 そこで,リスは,このハトを自分の巣の中へ連れていって,一生懸命手当てをしました。一日,二日,三日,四日,五日と,一週間もかかってそのハトの羽根をリスがなおしたのです。で,羽根がなおってから,ハトはリスに,
 「どうもお世話になりました。ありがとうございました。」
 と,何度もお礼を言いました。そのハトは,この森のハトではなかったのです。ハトは元気に飛びたっていきました。
 ところが,それから何日かしてから,この白いハトが自分の巣のまわりで一生懸命餌を拾っていますと,遠くの方で火事なんでしょうか,空がまっ赤なのです。(火事なんだな)と思っていると,向こうからカラスが一羽飛んできました。そこでハトが,
 「カラスさん,あなたは向こうから飛んできたけど,あのまっ赤に燃えているのは,あれは火ですね。どこか火事なんですか?」
 とたずねました。どこどこの森が火事だよ,とカラスが言いました。そのどこどこというのは,かつて自分を救ってくれたリスの住んでいる森だったのです。
 ハトは,すぐに,リスの森の方へ飛んでいきました。行ってみると,もう森全体を囲んで,まわりが火の海になっています。その中にリスの家があるのです。見ると,リスが枝の上に乗っていました。あのときにおなかが大きかったのが,今は赤ちゃんが生まれていたのです。
 リスは赤ちゃんをかかえて,枝の上をうろうろしています。それを見てハトは,急いで元へ戻ってきました。戻ってきて何をしたかというと,自分の巣の近くに大きな池があるのですが,この池に行って,一口水をふくんで,飛びあがりました。そして,リスの森に来ると,燃えている火の上へポトンと落としました。そして,また戻ってきて,一口水をふくんで,リスの森へ急ぎました。ハトはそれを何回もくりかえしました。
 それを見たカラスが,
 「ハトさん,おまえさん一体何をやってるんだ。」
 と,たずねました。
 「今,水を運んでるんです。」
 「水を運んでるって,あの火事を消すつもりか。おまえがくわえていけるのは,たった一滴の水だよ。あの火事がそれで消せると思っているのか。」
 と,言いました。すると,ハトは,
 「私には消えるか消えないか分かりません。ただ,水を運ぶんです。」
 と言いました。
 「消せるか消せないかわからないのに,何のためにやるんだよ,ハトさん。」
 「カラスさん,あなたにはわからないかもしれないけど,前に私は,あの森に住 んでいるリスさんに助けられたんです。今見に行ったら,まわりが火の海で,生 まれた赤ん坊を抱いて,あのリスさんがうろうろしているんです。どうしても私 は助けたいけれども,助ける方法がありません。方法は火を消すだけです。だか ら,私は,自分のできるのは,池の水を一口くわえて運ぶだけなのです。消せる か消せないか,私にはわからないけれども,私は水を運びます。」
 「ばかだなぁ。消えるはずがないものをやったってしようがないじゃないか。」
 と笑いました。
 でも,ハトは黙ったまま,一口の水を運び続けました。一生懸命飛びました。
 その姿を見ていたカラスは,笑えなくなってきました。そうしてカラスは,自分たちの住んでいる森のほうへ行って,
 「おーい,みんな出てこい。」
 と,大声を出しました。すると,鳥たちがいっぱい出てきて,
 「何だ,何だ。」
 「あの火事消すんだ。」
 「消すってどうやって消すんだよ。」
 「みんなで水を運んでくれ。」
 そう言って,カラスは水を一口ふくむと,飛びたちました。続いて,何十羽,何百羽の鳥がバーッとやってきて,一口ずつ水をくわえては,ハトとカラスを追いかけて飛び出しました。
 リスは,赤ちゃんを抱いてふるえながら森の上をたくさんの鳥が飛んでくるのを見ました。その鳥たちの先頭を飛んでいるのが,あの白いハトなのです。リスはジーッと見て,
 「ハトさんが火を消しに来てくれたんだわ,ありがとう。」
 とつぶやきました。
 次から次へと,鳥たちが一口ずつ水を運び続けました。
 
 
 
 その後のP.57の中で,吉岡たすく氏は,「私は,この『白いハトとリスの話』のように,報酬を求めないまごころというものが,今の世の中では特に大事だと思うのです。」と述べておられます。


TOSSランドへ                             メールはこちらから 
               
                         (C)TOSS Awamura Hirofumi All right reserved.