TOSSランド/国語/分析批評/視点/大森修氏の追試/第4・5・6学年/


話者の目の位置を問う
 

                 福山市立水呑小学校  教諭  粟村啓史

 年度当初より、国語科の取り組みの中で「視点」ということをずっと教えてきた。今日までに児童は、「外の目」・「内の目」、「一人称限定視点」・「三人称限定視点」・「三人称全知視点」・「三人称客観視点」について、『誰の目か』ということについて見方を学習してきている。それらのことを踏まえて、ここでは『話者はどこから見ているか』という、「話者の目の位置を問う」取り組みをした。
 (尚、この授業は、『国語科発問の定石化(大森修著:明治図書刊)』から学んだことをもとにして取り組んだものです。大森先生の追試です。)
 


      後ろ
      ↓
 よこ→ J ←よこ
  A   ↑   @
      まえ

 


 まず、左のような図を提示し、同時に(ア)・(イ)二枚 の図をその下に提示する。(ア)には対象人物を後ろか ら見た図を書いておき、(イ)には対象人物をよこ@か ら見た図を書いておく。


 
 

(発問1) この(ア)・(イ)二枚の図は、それぞれ対象人物をどの位置から見て書いたも
      のでしょうか。
 
 
これに対しては、子どもの反応も速かった。
   ・(ア)は、後ろから見た図です。
   ・(イ)は、よこ@から見た図です。
 反対意見はない。そこですかさず教師は次のように説明する。



(説明1) 絵は、その絵を描いた人がどこから見たのかがすぐ分かります。
     文も同じように、その文を書いた人がそれをどこから見ていたのか、文を書
     いた人の目の位置が分かるのです。
 
 
 この説明の後、次の(A)・(B)の文を黒板に貼る。(あらかじめ紙に書いておく。)
 児童には、同じ文を印刷した紙を配る。



 (A)風船が落ちてきました。
 (B)風船が落ちていきました。
 

 (A)と(B)の横には、それぞれ書き込みのできる余白を設けておく。
                        (実際は縦書きにしてある。)
 そこで次の発問をする。



(発問2) まず紙に風船を書きなさい。(A)・(B)それぞれについて、その風船をどの位
      置から見ているのか、話者の目の位置を目玉で図に書き入れなさい。目玉
      を書いたら、その目線も書き加えなさい。時間は二分間です。始め!
 

 二分後に、重ねて次の発問をする。



(発問3) この(A)・(B)について、その文の感じはどのように違いますか。
 

 児童からは次のような反応があった。
   ・(A)は、「きました」だから、「自分の方へ来ている」感じがします。
   ・(B)は、「いきました」だから、「自分から遠ざかっている」ような感じがします。
 ここで児童は、着目すべき言葉を的確に指摘している。



(指示1) 再度、自分の書いた図を検討しなさい。書き直しのある人は書き直しな
      さい。時間は一分間です。
 

 着目すべき言葉を基に、児童は各自の書いた図を再度検討していった。
 一分後、児童に、黒板に目の位置を定めさせた。
  
     
 

(説明2) 文には「迎える形」と「見送る形」とがあります。
     (A)は「迎える形」で、(B)は「見送る形」です。
     これからはこの二つの形を意識して読む目を持ってください。
 
 
 そこで次の文章を提示する。
 児童には、同じ文章を印刷したプリントを配る。プリントには書き込みのできる余白を設けておくとよい。(尚、実際には縦書きにしてある。)
 

 キツネが雪の上の足あとをつけて、こっそりしのびよってきたので、やぶのこちらにいたカモは、そちらをふりかえってみました。
 「おや、ずるいキツネがやって来たわ。」
 

 この文章を読むに当たって、次のように指示した。



(指示2) 全員立ちなさい。各自それぞれの読み方で、この文章を三回読みなさい。
      読み終わった人から座って黙読をしておきなさい。
 

 各自それぞれのスピードで読み始める。読み終わったものから座っていく。教師は全員が読み終わったのを確認してから、この文章について、次のように発問をする。



(発問4) やぶを中心に、「キツネ」と「カモ」の位置関係を図に書きなさい。どちらが
      どちらを見ているのか、その目線も書きなさい。時間は三分間です。
 

 机間指導をしていくと、なかなか「キツネ」と「カモ」の位置関係をうまく表現しきれないで、戸惑っている子も見受けられる。



(発問5) 位置関係を知るために着目すべき言葉はどれですか。
      位置関係が分かる言葉を見つけなさい。
 

 子ども達は、次のように着目してきた。
   ・「やぶのこちらにいたカモ」から、カモは、やぶより手前にいたことが分かります。
   ・「しのびよってきた」の「きた」から、こっちの方に向かってきているような感じがします。
   ・「そちら」とは、カモのいる所と反対の方のことだと思います。
 


 

  A
 


 


 

 や ぶ
 
       そこで、やぶを中心にした左のような
      図を書き、位置関係をハッキリさせるた
      め、次の発問をした。


 

  @
 



(発問6) 「キツネ」と「カモ」の位置関係をハッキリさせます。
     @にいるのはどちらでしょう。Aにいるのはどちらでしょう。
 

 前出発問5での言葉の検討により、@には「カモ」、Aには「キツネ」がいる、という反応がすぐ出された。



(発問7) この文章は、誰の目によって書かれていますか。
 

 子ども達からはすぐに反応があった。「カモ」の目によって書かれていることはすぐにつかめた。



(発問8) 全体の状況を見ている話者の位置を目玉で書きなさい。
     話者は、どこからこの状況を見ているのでしょうか。
 

 子ども達からは、次のように反応があった。



  話者は、「カモ」のすぐそばにいて、「カモ」と同じ側から全体を見ている。
 

 そして、次のような図が完成した。
 

 
 そして、私は次のように説明した。



(説明3) この場合、話者は「カモ」に重なっている、と言います。
     この文章は、「カモ」に寄り添って、「カモ」の目で書かれています。
     話者も「カモ」に寄り添い、話者と「カモ」は重なっているのです。
 

 さらに、「話者」についての指導に際しては、次のように説明した。



  「話者」は「人物」ではなく、「カメラアングル」のことである。
 

 「誰の目か」を問い、「どこから見ているのか」を考えさせることにより、子ども達は言葉そのものに鋭く着目してくるようになる。そういうことの積み重ねが、子ども達に「言葉の力」を身に付けさせることにつながっていくものと思う。


                                          

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