TOSSランド/国語/分析批評/視点/大森修氏の追試/第4・5・6学年/


続・話者の目の位置を問う
 

                             福山市立水呑小学校 教諭 粟村啓史

 
 この実践は、前出「話者の目の位置を問う」の続きに当たるものである。
 「話者はどこから見ているか」という、「話者の目の位置を問う」取り組みの第二弾である。
 
 次の文章を提示する。(前出のものとは視点が違う。)
 児童には同じ文章を印刷したプリントを配る。プリントには書き込みのできる余白を設けておくとよい。



 キツネが雪の上の足あとをつけて、こっそりしのびよって行くと、やぶのむこうにいるカモが、こちらをふりかえりました。
 「おお、うまそうなカモがいるぞ。」
 

 この文章を読むに当たって、次のように指示する。



(指示1) 全員立ちなさい。各自それぞれの読み方で、この文章を三回読みなさい。
      読み終わった人から座って、静かに黙読をしておきなさい。
 

 各自それぞれのスピードで読み始める。読み終わったものから座っていく。教師は全員が読み終わったのを確認
  してから、この文章について、次のように発問をする。



(発問1) 着目すべき言葉はどれですか。その言葉から分かる状況を説明してご覧
      なさい。
 

 前回の学習経験があるからであろう、子ども達は即座に「着目すべき言葉」に迫ってきた。
  ・「やぶのむこうにいるカモ」から、カモは、やぶより向こう側にいることが分かります。
  ・「こちらをふりかえりました」の「こちら」と書いてあることから、話者の目もこちら側にあるのだと思います。
  ・「しのびよって行く」から、こっちから向こうの方に進んでいくような感じがします。
 
 続いて次のように発問する。



(発問2) この文章は、誰の目によって書かれていますか。
 

 子ども達からは、即座に反応があった。「キツネ」の目によって書かれていることはすぐにつかめた。
 
 そして、次のように問うた。



(発問3) 話者はどこから見ているのでしょうか。全体の状況を見ている話者の位置
      を指摘しなさい。
 

 子ども達からは、次のような反応があった。



  話者は「キツネ」のすぐそばにいて、「キツネ」と同じ側から全体を見ている
 
 
 そこで次のように発問する。



(発問4) やぶを中心に、「キツネ」と「カモ」の位置関係を図に書きなさい。どちらが
      どちらを見ているのか、その目線も書きなさい。話者の位置も目玉で書き
      なさい。時間は三分間です。
 

 前回の学習の経験があるので、児童は前回ほどの戸惑いを見せることなく、割とスムーズに図を書いていった。
 「キツネ」と「カモ」の位置関係はもうつかめている。児童は次のような図を示してきた。

 
 そして、前回同様、話者との重なりを説明する。



(説明1)  この場合、話者は「キツネ」に重なっている、と言います。
       この文章は、「キツネ」に寄り添って、「キツネ」の目で書かれています。
       話者も「キツネ」に寄り添い、話者と「キツネ」は重なっているのです。
 

 ここまでで一応の終結とする。
 
 が、しかし、「視点を追究する」という意味で、子ども達の思考に期待したい問題があった。
 以下は、私が試みた例である。ご指導いただければ幸いである。
 
 上記の文章の「キツネ」と「カモ」と「話者」の位置関係を示す図において、子ども達の思考の目を知るために、私は、(A)・(B)二種類の図を提示し、次のように発問した。



(発問5) この文章の「キツネ」と「カモ」と「話者」の位置関係を示す図は、(A)(B)どち
      らでもいいですか。(A)と(B)は、同じか違うかを判断し、そう判断した理由と
      一緒にノートに書きなさい。時間は五分間です。
 
 

 私のクラスでは、次のような反応が出ている。
 
 
・(A)と(B)は同じだとする意見
 ・「やぶのむこうにいるカモ」だから、(B)のキツネから見ても、カモは「やぶのむこう」だから。
 ・話者の目はどちらもキツネに寄り添っているから、同じだと思う。
 ・キツネとカモの位置が変わっても、話者の目の位置がキツネについているから、(B)でもいいと思う。
 ・キツネとカモの位置が変わっても、それは読者が見たもので、話者はキツネに寄り添っているので、カモはキツ
  ネの方から見れば向こうだし、キツネはこちらにいることになるからです。
 ・キツネのいる場所とカモのいる場所が変わっても、キツネの近くに話者がいるからいいと思います。
 ・話者の目は、両方キツネの方から見ているから、同じだと思います。
 
   
・(A)と(B)は違うとする意見
 ・文には、「やぶのむこうにいるカモ」と書いてある。カモはやぶの「むこう」側にいなければならないのに、カモが
  「こちら」にいるから違う。
 ・読者から見ると向きが違うから、違うと思います。
 ・「むこう」とは遠い方で、「こちら」は近い方だから、キツネが「むこう」でカモが「こちら」にいたら、同じじゃない
  と思います。
 ・文章を読んだら、カモは「むこう」と書いてあるから、違うと思う。
 ・「やぶのむこうにいるカモ」と書いてあるのに、(B)は「やぶのこちら」にいるので、(B)は違うと思います。
 
 
 
 さて、みなさんはどのように判断されるでしょうか。
 私は、次のように思っています。
 

 「話者からの見え」と「読者からの見え」とは、必ずしも一致するとは限らない。話者の目は視点人物に寄り添うことを原則とするが、読者の目は常に読者中心の見えを感じるのが自然だからである。
 

そして、子ども達には、次のように説明しました。
 
(説明2) どういうことか、例えば、「こちら」とか「むこう」という言葉について考えてみましょう。「読者の目」は、常
      にその読者自身を中心に考えた「こちら」であり「むこう」となるが、「話者の目」は、常にその視点人物
      を中心に考えた「こちら」であり「むこう」となる、ということが言えると思います。つまり、読者にしてみれ
      ば、「手前」をいつも「こちら」と感じるのが自然だということです。これに対し、話者の目はいつでも自由
      にその空間的な位置を変えることができますから、話者のいるところが「こちら」となるのです。読者の
      目とは性格そのものが違うのです。
 
 
 子ども達には上記の内容を説明し、この授業を終えた。

                                         

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