ブレインバスター

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ブレインバスター序論

 ブレインバスターと言う技は名前だけであれば、有名な技だ。しかし、ブレインバスターがBrainBusterであり「脳天砕き」であった事が忘れられてしまった経緯に対して「プロレス者」としては注目すべきだ。
 プロレス技は人を傷つけずKOする為の技で有ることは、プロレス者として常に認識しなくてはならない。プロレス技の定義は別の機会にするとして、我々はこのブレインバスターの問題で現在のプロレスに対する認識を再確認することになる。

ブレインバスター開発史

 ブレインバスターの元祖は色々諸説有るようだが、ココでは流智美氏のサンダー・ザボーが元祖で有る説をとる。
 ザボーはタッグレスラーとして有名だったが、フィニッシュホールドがなく、単なる「タッグ屋」であった。タッグパートナーのフィニッシュ、つまり「タッグ」としてのフィニッシュが「フロント・ネック・チャンスリー・ドロップ」であった。
 「フロント・ネック・チャンスリー・ドロップ」とはフロント・ネックロック、つまり「がぶり」の状態から、相手を後方にブリッジして投げる技である。現在の「ブレーンバスター」と同じような形だ。

 余談では有るがザボーが来日当時、日本のプロレスマスコミは「バックフリップ」と称したようだ。

 これを相手を自らの頭上に担ぎ上げて「頭から」落とすようにしたのが「ブレインバスター」である。
 
 首だけを持って抱え挙げることは困難で有り、出来たとしても相当腰に負担がかかる。
 この事から、相手の片腕を自らの首に巻き付け、相手の脇の下に首を差し込むことで、自分の体が相手の体の下に自然に入るようにしたものと推測される。これにより相手を引き込みながら、自分の体を立てることで相手を崩しつつ持ち上げることが可能に成った。

飽き性猪木

 ブレインバスターがコックスによって公開されたのが日本プロレスの時代で有る。
 力道山の死後、アントニオ猪木は東京プロレスに移籍、海外遠征の後に新フィニッシュとして公開したのが「アントニオ・ドライバー」つまり「フロント・ネック・チャンスリー」であった。
 しかし、猪木は腰に負担のかかるフロント・ネック・チャンスリーを避け、当時ハーリー・レイスが使っていた「バーティカル・スープレックス」を新フィニッシュ「ブレインバスタ―」として使いだした。この事からブレインバスター衰退は始まる。
 「バーティカル・スープレックス」とは相手を『垂直(Vertical)』に持ちあげ、スープレックスで投げるところからきている。アメリカでは自分の頭を越え、後方に投げ捨てる技を総じて「スープレックス」と言うようだ。現在の日本語発音の「ブレーンバスター」という一連の技の元祖はこれに当たる。

ブレインバスター衰退

 猪木はブレーンバスターの後にコブラツイスト、卍固め、延髄斬りと続々フィニッシュを変えている。それにあわせ他のレスラーが猪木の捨てたフィニッシュを使うようになっていった。
 「脳天砕き」では無くなった「ブレインバスター」は、相手の背中を強打する大技「ブレーンバスター」となって行った。
 ディック・マードックという正調「ブレインバスター」を利用するレスラーも現れたがこれは「ブレインバスター」であり、「ブレーンバスター」ではなかった。
 プロレスの世界では「同じリングに立つ他のレスラーのフィニッシュを使ってはならない。」と言う不文律がある。しかし「ブレーンバスター」は誰もフィニッシュ、いや「必殺技」として利用していない。そして「ブレーンバスター」は便利な大技で有った。その為、ブレーンバスターは「誰でも使って良い大技」になって行った。「必殺技の陳腐化」である。

ブレーンバスターの時代

 「ブレインバスター」が「ブレーンバスター」になった時代、多くのブレーンバスターが現れた。
 ブルーザー・ブロディの叩き付けるブレーンバスター。長州力のジャンピング・ブレーンバスターなど様々な形がこの時代に形成された。
 また相手を持ち挙げないブレーンバスターも現れた。ダイナマイト・キッドの高速ブレーンバスターがそれに当たる。

 ダグ・ギルバートが相手をコーナーポストに座らせた状態で自らも二段目のロープに立ち仕掛ける、スーパープレックスこと雪崩式ブレーンバスターを公開した。これによって「通常のブレーンバスター < 雪崩式ブレーンバスター」の構図が出来あがり、「ブレーンバスター = 痛め技」と見るようになった。完全にブレーンバスターは必殺技の地位を失ってしまった。

橋本伸也のDDT

 「ブレインバスター」と同様に相手の頭頂部をマットに打ち付ける技としてDDTがある。このDDTを橋本伸也(当時:新日本、現:ZERO)がフィニッシュとして使っていた。橋本はDDT、ジャンピングDDT、飛び付きDDTとDDTを発展させていった。その最終形として再び「ブレインバスター」を「垂直落下式DDT」として使うようになった。
 しかし橋本はブレインバスターのみをフィニッシュにする事はなく、脚を抱えて投げる「フィッシャーマンズDDT」も同時に使い、橋本オリジナルと言うイメージは定着しなかった。
 「ブレインバスター」の必殺技への復帰、価値の再評価の機会はココで失ってしまった。

ハイスパート・レスリングの弊害、更なる衰退

 橋本と言うビックネームが再びブレインバスターを使う事により、ブレインバスターが現在のプロレスに許容された形になった。それが現在の「ハイスパート・レスリング」と合わさった時、新たな弊害を生むようになった。「ブレインバスター」の一般化、そして連発である。
 ブレインバスターは元来、首に相当なダメージを与える技で有る。バックドロップのように形が変わり、一般化したわけでは無く、「旧来の形 = 危険な技」に戻り一般化した為、依然として負傷の危険性が有る。
 その様な危険な技が「ハイスパート・レスリング」に取り入れ、皆が使うフィニッシュとなった。また、実力が伴わないレスラーが使っても「格が上」のレスラーを一撃で仕留められる訳は無く、連発するようになり、新たな「必殺技の陳腐化」が起こる。

今後のブレインバスター

 現在、ブレインバスターが必殺技と大技の間を行ったり来たりしている。いや、もう誰もが使う「大技」になってしまったのかもしれない。
 ブレインバスターがフィニッシュの必殺技として復活することは有るのだろうか。ブレインバスターを使うレスラーが誰も彼も「一撃」で決める技として使う事が出来るほどの実力を持っていないのが原因なのか、ブレインバスターを返してしまうほどレスラーが総じてタフになったのか、それともそれを要求している観客に問題が有るのか。

 ブレインバスターが本来の「神通力」を発揮する時、プロレスもまた本来の形に戻るのかもしれない。

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