バックドロップ

 ジャンボ鶴田を追悼しての文章でしたがアップしていませんでした。
 歴史的な部分についてやけに断定的な書き方をしていますが、確証ありません。そんな違和感からアップして
いなかったのだと思います。
----------*---------*---------*---------*---------*---------*---------*---------*---------*---------

*開発者ルー・テーズ*

 バックドロップはプロレスの「鉄人」ルー・テーズが元祖と言われています。どうもそれまでにプロレスには
アマレスのバック投げを使うレスラーが存在しなかった様です。
 テーズはアマレスでバック投げを得意としたそうで、それをプロのリングでも使ったのがバックドロップの起
源のようです。また、アド・サンテルという柔道家から柔道の裏投げ(背負い投げ等にきたところをこらえて投
げ返す。)を教わり、相手の脇に首を差し込む形に落ち着いたようです。
 テーズはその後ヨーロッパ遠征中に相手の足を抱えて投げる形のバックドロップを使うレスラーに会い、その
形も使うようになったそうです。

*ルー・テーズのプロレス観。ゴッチとの比較*

 テーズがバックドロップについて良く「バックドロップは相手の実力を見て落とす角度を決めることができる
。」と発言しています。相手の脇の下に首を差し込むことで、自分の首の反り方や、相手を抱える個所などでい
くらでも角度を変えることができます。
 テーズはバックドロップを「リーガル(合法)」な技と言うそうです。テーズのプロレス観からいえば「相手
をピンフォールできるのであれば、相手に無駄な危険を与えず、また自らも「楽に」勝てるほうが良い。」と言
うことでしょう。NWAチャンピオンとして長年君臨してきたテーズらしい発言だと思います。

 それに対してジャーマン・スープレックスは相手を持ち上げたら落としきるまで、相手をコントロールできな
い為「イリーガル(非合法)」と言うそうです。落とす角度をコントロールしていたら自分の頭が先にマットに
落ちてしまいますからね。
 ゴッチ自身のプロレス観は「いつ何時でも全力を持って相手を叩き潰す。」ではないかと思います。

 二人の比較として面白いのが海外遠征中テーズ、ゴッチとそれぞれに指導を受けた全日本プロレスの淵正信の
コメントです。
『ハンマーロック一つにしてもテーズなら「相手が動けなくなれば、手首だけ極めれば良い、別に客にわかるわけ
では無いし、実際相手は動けない。」対してゴッチは「手首や肩すべてを極めなければならない。それが正しい
ハンマーロックだ。」と言っていた。』そうです。

 ゴッチにしてみればジャーマンは相手を頭から落として一発でピンフォールを奪うのが「正しい」ジャーマン
ですし、相手の腕全体を極めてしまうのが「正しい」ハンマーロックなのでしょうが、やはりそんなプロレスを
していたゴッチは一般的なプロモーターには敬遠されていたみたいです。

*その後のバックドロップ*

 テーズ来日で一般的に知られるようになったバックドロップを力道山(日本P)は得意技の一つとしました。
テーズ、力道山以降の日本人レスラーではA猪木(当時:東京P)が得意としていましたが、生来の飽き性なの
かジャーマンに切り替えました。外人レスラーではドリー・ファンクJrやバーン・ガニアが得意としました。
 しかし、テーズのように一撃必殺の大技としては使われていなかったようです。実際ドリーはスピニング・ト
ーホールド、ガニアはスリーパーとフィニッシュに別の技を使っています。(ガニアに着いては色々異論が有る
と思いますが。)
 また、ドリー、ガニアともに「背中から落とす」バックドロップを使い、「やさしい」バックドロップが定着
しました。
 バックドロップは他にフィニッシュとしているレスラーがいないため、誰でも利用可能な「大技」として使わ
れるようになりました。

*ジャンボ鶴田のバックドロップ*

 テーズ以降本当のフィニッシュとしてバックドロップを復活させたのはジャンボ鶴田(全日本P)です。テー
ズにコーチして貰ったという経緯もありますが、それまで得意としていたダブルアームやフロントスープレック
スが他のレスラーとかぶっていましたし、鶴田自身ジャーマンを封印したかった為、バックドロップにフィニッ
シュをスイッチしたのだと思います。
 鶴田のバックドロップは強靭な足腰で相手を持ち上げ、強いブリッジで相手を後方へ投げつける、力強いもの
でしたし、背の高いジャンボには打って付けの技だったと思います。
 鶴田はなぜジャーマンを封印したかったかと言うのも、実はバックドロップを使うのと同様の理由のようです
。高い身長、強い力から繰り出されるジャーマンは下手をすると負傷者が続出してしまいます。このことからピ
ンフォールが取れて、コントロールの利くバックドロップに切り替える必然性が有ったのだと思われます。また
、同様の内容をインタビューでも述べています。
 実際、鶴田はバックドロップを打つ際、ブリッジを利かせて投げることはほとんど無く、一度使ったところ一
発KOだったためそれ以来使わなくなったと言っています。

*鶴田前後のバックドロップ*

 鶴田以外にもバックドロップを得意とするレスラーが現れました。彼らはそれまでのバックドロップに自分の
味付けをしてオリジナル技としてバックドロップを用いました。

 まず、マサ斎藤(マサ・サイトー)(新日本P)が海外時代から使っていたバックドロップが有ります。アメ
リカでは「サイト−スープレックス」とも呼ばれていたようです。また真後ろからでは無く、相手の横脇を抱え
て投げるため「クウォーター・サイド・スープレックス」とも呼び、日本では「捻りを加えたバックドロップ」
と称される。
 形としては相手の真横〜斜め後ろから相手を抱えた後、跳ね上げ、引き落とします。引き落とすタイミングで
落ちる角度が決まるようです。
 マサ斎藤を師と仰ぐ長州力(新日本P)も得意にしていた為、長州一派のレスラーたちが好んでこの形のバックドロップを使う。

 もう一つはダイナマイトキッドのバックドロップです。キッドのバックドロップは相手の片足を抱え込んで投
げ終わって自らがブリッジすることで、エビに固めることのできるものでした。これは現在バックドロップホー
ルドとして、小川良成(NOAH)や冬木正道(FMW)がつかっています。

 また鶴田の嫌ったブリッジを利かせて投げるバックドロップを使うレスラーも現れました。同じ全日本プロレ
スの川田利明と小橋健太です。彼らのバックドロップはしっかりブリッジを利かせて相手を脳天から落とすもの
を使います。

*馳浩と後藤達俊*

 バックドロップと言うのは投げ方でいくらでも角度が調整できるという事をこれまで何度か書きましたが、最
近のハイスパートレスリングの流れで、意図的に角度をつけて投げるレスラーが現れました。その一人が後藤達
俊(新日本P)です。
 バックドロップのクラッチは相手の腰を抱えるのが一般的で有るところを、後藤は相手の脇の下を抱えるとこ
ろに特徴が有ります。こうする事で早く急角度で投げることができ、相手は体を丸めることもできず肩でしか受
身が取れません。しかし、脇をクラッチすると言うことは屈伸の力をあまり加えることができない為、誰にでも
できると言うわけでは有りません。
 そのバックドロップの為、馳浩(当時:新日本P、現:全日本P)が一度、意識不明の重態に陥っています。後
藤のバックドロップを馳が体を浴びせて返そうとした際に、馳が体を反転する前に後藤が馳をまっ逆さまに落と
してしまった為、馳はコメカミの当たりから落ちてしまい意識を失ってしまったそうです。馳はこの試合の後、
セコンドに着きましたがその時にさらに意識を失い、心臓停止にまでなりました。

 馳は休場してしまい後藤はバックドロップのクラッチの位置を腰に代えたそうです。後藤はバックドロップを
打つことに躊躇いを覚えたそうです。そして、プロレス自体に自身を失いそうになったと。

 後藤はその気持ちをどの様に振り払ったか。それは再び、馳に後藤のバックドロップを「急角度」でかけたそ
うです。そして今度は馳がしっかり受けきったそうです。

 テーズがバックドロップは「リーガル」で有ると推奨する話と裏腹に、この様な危険な投げ方も存在するので
す。

*ドクターデス*

 後藤とはまた別に、とてつもなく危険なバックドロップを使うレスラーが居ます。それがドクターデスことス
ティーブ・ウィリアムス(全日本P)です。
 彼のバックドロップはテーズの言う「イリーガル」なバックドロップです。なにが「イリーガル」か、別に相
手をクラッチするのは腰の当たりですし、ブリッジを利かせて投げるわけでは有りません。ただ、相手を投げて
落ちる瞬間に相手を垂直に落とすのです。
 プロレス技は基本的に相手が受身を取れるように投げる物です。ボディスラムは背中からお尻にかけて、バッ
クドロップは背中から肩にかけてがマットに着くように投げるのが基本です。
 しかし、彼のバックドロップはちがいます。相手を「本当に」脳天から着地するように投げるのです。
 私はよく仲間内(プロレス話のできる)では「無責任な」バックドロップとこれを称します。ボディスラムの
ページでも述べましたが、プロレスの投げは相手と呼吸を会わせるところがあります。だから、通常では危険な
技もシッカリ受身を取ることで、ダメージを「最低限」にすることができます。しかしウィリアムスのバックド
ロップは違います。
 相手の腰の当たりを「適当」に掴み(また、そのクラッチの力も強そうですし)、有無を言わせぬ力で踏ん張
る相手を引き抜いて、高速で後方に「無責任」に投げ付けます。「下手な相手だと」首を丸めることもできず、
頭から落ちていきます。
 一応、ウィリアムスも解っているみたいで、受身のできないレスラーにはこのバックドロップを使うことは
「あまり」見ません。

*バックドロップこの後*

 バックドロップという言わばプロレスの投げ技の中で1,2を争うメジャーな技が、ウィリアムスを通じてや
っと「必殺技」に回帰してきました。
 しかし、それは最近の「ハイスパート・レスリング」の中に生まれた危険な技の一つでしか無く、本来の「リ
ーガル」な「必殺技」では有りません。
 ザ・グレート・カブキ(IWAジャパン:引退)のインタビューに興味深い言葉が有りました。
 『テーズのバックドロップほど説得力の有る物は無かった。序盤にレスリングで相手を圧倒し、中盤で相手の
実力をみて、終盤につなぐ。終盤に相手の腕を攻め、ハンマーロックを極めて見せる。そこで「意図的」に、自
分の頭を相手の取りやすい位置に持っていく。そこで相手が慌ててヘッドロックに来たところで「バックドロッ
プ」を仕掛ける。観客はリングの外から一連の流れを見ているので、1発のバックドロップに相当な説得力を感
じて居た。』
 バックドロップがフィニッシュで有った時代には、観客へのアピールも、危険な大技もなく、観客はレスラー
の「プロとしての技術」を見ていたのだと思います。テーズは無敗のチャンピオンとして挑戦者の技量を十分に
発揮させた後に、自分のフィニッシュに持って行くという「横綱相撲」ならぬ「チャンピオン・レスリング」を
実践していたのだと思います。
 いま再びテーズのようなレスラーが現れたとして日本のプロレスファンは受け入れるのでしょうか?現在の
「アピール、大技、フィニッシュ」しか無いプロレスではテーズのバックドロップは復活し無いのでしょうか?

 テーズの「リーガル」なバックドロップが復活したときこそ本当のプロレスブームが来るのかもしれません。

----------*---------*---------*---------*---------*---------*---------*---------*---------*---------
戻る