ほんの少し、メリー・クリスマス
by DNW

今夜は、クリスマスイブだ。
AL教団の、聖人を祭るお祭りの日だ。
街の明かりも、いつもより少しだけ明るく、
立ち並ぶ家々からは、朗らかな声が響いてくる。
そんな光景を、フェリスは、
小高い丘の上から眺めていた。

思わず、ため息が漏れる。
満天の星空と、それに勝るとも劣らない、
眼下に広がる、街の夜景に、感動して。
そして、
それを素直に喜べない、自分の境遇に、
悲しみを感じて。

自分は、悪魔だ。
大いなるラサウムに仕える、魂を狩るものだ。
・・・いや、かつてはそうだったが、今は・・・
人間の冒険者、ランスにこき使われる、しがない下僕だ。
どうしてこんなことになったんだろうかと、いつも思う。
あの時、あの男に呼び出さなければ。
あの時、あの願いを聞き入れなければ。
あの時・・・真の名を知られなければ。
真の名さえ知られなければ、
いや、真の名を知られても、あんな男でなければ、
人間の下僕となっていても、まだマシだっただろう。
人を人と思わない、ひどい仕打ちを繰り返す、
あんな男でなければ。

・・・人、ね。
思わず、自分のことを、人、と考えていたことに対し、
フェリスは苦笑する。
私がカラーであったのは、もう遥か昔のことなのに。
ひとたび悪魔になってからは、
悪魔の道を、まじめに突き進んでいたはずなのに。
あの男の下僕になってから、ひどい仕打ちが続いたせいで、
神に頼ろうとしたり、少し、精神的に疲れているようだ。

ひどい仕打ちといえば、あの、ピンクの髪の子もそうだ。
あの子があいつを好きなことは、あいつも気付いているはずなのに。
無理難題を押し付けたり、
あいつの前で私や他の女の子を抱いたり、
ひどい仕打ちばかりしている。
でも、あの子は。健気に尽くしている。
あいつはとても憎いけど、あの子はとても憎めない。
だから、思う。
あいつの無茶な命令にも、従ってきたのは、
下僕ゆえに、だけじゃなく、
あの子の気持ちを知っているからかな、と・・・。

そんなことを考えていると、いつのまにか、
あいつの家の前までやってきていた。
窓から中を覗いてみると、
あいつとあの子、そしてもうひとり、茶色の髪の子が、
楽しそうに騒いでいた。
たまに、あいつが、あの子に無茶なことを言って、
困らせたりしているようだけど、
あの子は、健気にそれに従っている。
あいつがあの子を困らせるのは、
好きな気持ちの裏返し。
もう少し、あいつが自分の気持ちに気付いたら、
あの子も、もっと幸せになれるはず。

神様は、私を助けてくれないけど、
あの子なら、神様は絶対に助けてくれる。
だから、
悪魔から、ほんの少し、
カラーの頃の私に戻って、
窓の向こうの二人に向かって、
小さく、ささやいた。
「・・・メリー・クリスマス。」



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