そして悪魔はしばかれる
by DNW




イラーピュでの冒険が一段落した頃、ランスの家は・・・

貧乏に直面していた。

かなみと約束したリーザス解放の報酬は、イラーピュにいる間にうやむやにされ、
相場通りの額の功労金がリーザスから送られただけにすぎない。
確かに、功労金算定時の扱いが「解放軍司令官」だったため、
いち冒険者としてはかなりの金額(一般サラリーマンの年収の4倍ほど)であったが、
遊んで暮らしていてはすぐに無くなる額だった。
イラーピュでごたごたしたのもあり、全然仕事をする気がなかったランスは、
ふと、あるアイディアを思いついた。

それは・・・

「おい、フェリス。ご主人様がお呼びだ。ただちに魔界よりその姿をあらわせ・・・!」

ランスが何事か口走ると、何かがはじけるような音とともに、
部屋の中のなにもない空間から美少女が現れた。

「・・・はい、ご主人様。何の用ですか?」

フェリスと呼ばれたその美少女は、明らかに人間とは異なる特徴を持っていた。

灰色に近い褐色の肌。
長くとがった耳。
額には赤いクリスタル。
そして、頭上に生える一対の角。

そう、フェリスは悪魔である。
悪魔なのに「お人好し」な彼女は、鬼畜で外道で非道で非情で無情で冷血で冷酷で極悪な
ランスの計略にひっかかり、今ではランスに「いいアイテム」扱いされている。
毎回、呼び出されるたびに、Hされるか、ひどい行動をとらされている彼女は、
あきらめ切った顔でランスに話しかけた。

「何ですか、今回の仕事は・・・。貝でも取ってこいと言うんじゃないでしょうね。」

「なるほど。それもいいアイディアだな。」

「・・・墓穴掘っちゃったかしら。」

「しかし、今回お前に命ずる任務はそれではないのだ。」

「・・・ほっ。ではどんな任務なんですか。」

「フェリス。お前何かやって金を稼いでこい。」

「・・・えぇ〜〜〜〜っ。」

「何だ、その不満そうな顔は。」

「だって、ほかの人が私を見たら、すぐに悪魔だってバレるじゃないの。
どうやってお金を稼げって言うのよ。」

「それを考えるのもお前の仕事だ。いいか、命令は絶対だぞ。
ほれ、早く外へ行って命令を実行してこんか。」

そう言ってランスは、「・・・しくしく。」と涙目になっているフェリスを、
強引に外へ押し出した。

そしてランスは、

「稼げるといっても、くれぐれも風俗関係はやるんじゃないぞ。
お前のむちむちボディは、俺様専用なんだからな。」

と言いたい事だけ言い残し、

「そんなこと、言われなくてもやりませんよっ!」

と言い返すフェリスの言葉など聞かず、バタンと玄関のドアを閉めた。

一人取り残されたフェリスは、ため息をつきつつひとりごちた。

「はあ・・・うまくいってもいかなくても、Hされるんだろうな・・・。
・・・どうせHされるんなら、しっかり稼いで、こんなことで呼び出されないようにしよう。
・・・なら、どんな仕事が良いかな・・・。
角が隠せて、一人でできて、額にクリスタルがあっても怪しまれない仕事・・・。
あっ、そうよ!あれなら、何とかなりそうね。
そうと決まったら、いろいろ用意しなくちゃ・・・。」

いいアイディアを思いついたフェリスは、足早に、町の外へと向かった。



昼下がり、アイスの町の町外れ。
そこに、一軒の(モンゴルのパオほどの大きさの)テントが建った。
そのテントの入り口に掲げられている看板には、

「―暗黒占い― ここに入るもの全ての希望を捨てよ!」

と、書かれていた。

常識的に考えると、かなり占いには不向きな「うたい文句」だが、
それがかえって好奇心を呼び、いきなり建ったこの怪しいテントに、入るものも現れ始めた。

「あのぅ・・・」

「はい、いらっしゃいませ。暗黒占いの館へようこそ。」

おそるおそる入ってきた金髪の女性を、フェリスは笑顔で迎え入れた。

テントの中には、黄ばんだ蝋燭が数本灯り、わずかにテント内を照らし出している。

フェリスの目の前には、客が座る椅子と机が置かれ、
机の上にはくすんだ紫色をした布が敷かれている。
さらに布の上には、見事に透き通った水晶玉が置かれていた。

そして、当のフェリスは、怪しげな厚いローブを身にまとい、
頭には、角を隠すために、かなり大きいフードをかぶって、
客と机をはさんだ向こう側の椅子に腰かけていた。

「さあ、どうぞおかけください。」

フェリスにうながされ、女性は、おそるおそる椅子に座った。
椅子は、思いのほか頑丈で、女性は、少し安堵の表情を浮かべ、聞いてきた。

「お客様、お名前を教えていただけますか?」

「あ・・・わたし、ノアっていいます。
・・・ここは、どんな占いをしてくれるんでしょうか?」

「はい、恋愛、金運から探し人、落とし物、はたまた明日の天気まで、
悪魔に伝わる秘技でもって、何でも占って見せますよ。」

「あ・・・悪魔って・・・嘘、ですよね?」

「はい☆」

いともあっさりうなずくフェリスに、思わずコケかけるノア。

「こういう商売、はったりが重要ですからね。
ノアさんだって、看板に書いていたことを真に受けて入ってきたわけじゃないでしょう?」

「まあ・・・そうですけど・・・」

いささか困惑ぎみの表情を浮かべるノア。
フェリスは、それに構わず話を続けた。

「それで、ノアさんが占って欲しいことは何ですか?」

「あ、はい。実は、私、少し前まで冒険者をやっていました。
そして、・・・いろいろあって、病院に入院してたんです。
で、入院している間に、相棒をしていた、ラークが、冒険に出たまま、
消息不明になったんです・・・。」

「『いい人』だったんですか?」

と、フェリスは聞いた。が、

「違います。」

期待を裏切る返答をされ、今度はフェリスがコケかける。

「あ・・・大丈夫ですか?」

心配するノアに、ややひきつった笑みを返すフェリス。

「・・・大丈夫です。それより、続きを聞かせてください。」

「はい・・・。で、ラークが私のせいで冒険に出て、死んでたりしたら寝覚めが悪いし、
だからといって、探すのも手間だし。
ということで、ラークの居場所を占ってくれないでしょうか?」

ノアの話を聞き終えたフェリスは、少し沈黙し、答えた。

「分かりました。占ってあげましょう。
でも、少し危険な占い方になります。・・・良いですか?」

「えっと・・・まあ・・・いいです。」

「それでは・・・。えっと・・・あ、あった。
これを・・・こうして・・・えいっ!」

フェリスは、少し机の下を漁ると、白色の箱を取り出した。
そして白い箱の蓋を開け、中に何かのパーツを入れて蓋を閉め、
いろいろ箱とその付属物をいじくりまわした。

すると、少したって水晶玉の中から、

「ソーーゥ・キャリボーーー・・・」

という何者かの言葉かが聞こえた。

「え・・・?!」

ノアがあぜんとしている間に、またもや水晶玉の中から、

「あなたを・・・救いたい!」

という女性の声が聞こえてきた。

その言葉を聞いたフェリスは、ノアに向かい、こう答えた。

「ラークさんの居場所は、残念ながら分かりません。
しかし、ノアさんが、パンツが見えそうなくらいに短いスカートをはき、
右手に剣を持ち、左手に盾を持って、今の女性のセリフを毎日10回言えば、
そのうちラークさんは帰ってくるでしょう。」

「・・・本当ですか?」

ノアは明らかに疑惑の表情を浮かべて聞いてきたが、
フェリスは動じずに、

「はい。なんなら、カスタムの町のミリという名前の女性に
『剣よ、うなれ!』と言って貰うと、さらに効果は上がります。」

きっぱりとそう言い放った。

「はあ・・・分かりました。やってみます。あ、これ、お代の20ゴールドです。」

多少疑念を残しつつ、ノアは、占い料を机の上に置き、部屋から出ていった。

「ご利用ありがとうございました。」

フェリスは、営業スマイルで、それを見送った。


ノアが出ていってしばらくした後、新たな客が入ってきた。

「こんにちは。お邪魔します。」

そう言って入ってきたのは、紫色でセミロングの髪をした、ごく普通の少女だった。

「いらっしゃいませ。どうぞおかけください。」

「はい。失礼します。」

「お名前を教えていただけますか?」

そう訪ねるフェリスに、少女は礼儀正しく答えた。

「カーナ・オオサカと言います。この街に住んでいます。」

「そうですか。で、何を占って欲しいんでしょうか?」

「えっと・・・その・・・。
わたし、コーン・マーガリンという新婚の夫がいるんです。
コーンったら、たくましいし、何でもよく聞いてくれるし、心遣いも優しくて、
とってもいい人なんですよ♪」

「はあ・・・」

思わず生返事を返すフェリスに気付き、カーナはあわてて本題に入る。

「!?・・・ああっ、ごめんなさい。わたしったら、コーンの話ばっかりしてますね。
で、占って欲しいことなんですけど・・・その・・・。
・・・コーンが、恥ずかしがってなかなか私とHしてくれないんです。
もう結婚したから、Hは夫婦として当然の行為なのに・・・
わたしは、ミリお姉様に教わったこと、早く試してみたいんですが・・・」

「分かりました。占ってみましょう。」

そう言うとフェリスは、また机の下を漁り、
こんどは、先に丸い球のついた棒とボタンが、はめ込まれている箱を取り出した。

「さん・・・にい・・・いち・・・はいっ!」

フェリスが何かカウントダウンすると、それまで赤、青、緑の色が乱舞していた水晶玉に、
雪山をバックにたたずんでいる少女の映像が映った。

「あなたはいつもヒロインだった・・・」

映像の中の少女は、そう言うと、どこか目の焦点が定まってないもう一人の少女と戦い始めた。
少女が動くたびに、胸が上下にぷるんぷるんと揺れる。

「これです。見てください、この胸の揺れ方・・・。
この少女のように、思いっきり胸を揺らして、彼に迫ってみてください。
そうすると、彼も『いいバイブレーションだ』とかなんとか言いながら、応じてくれるでしょう。」

「本当ですか?ありがとうございました!」

そう言って彼女は、料金を払うと、店を出ていった。

「はあ・・・いいのかな・・・こんな感じで・・・。
危険だし、分からない人には分からないしね・・・。」

と、机に突っ伏しながら、フェリスは一人つぶやいた。


少し経ち、

「こんにちは〜っ。」

と、3人目の客が入ってきた。

青い髪を、左右に分けてそれぞれ束ねた、
一部で「ダブルポニー」と言われている髪型の、快活そうな少女だ。

「いらっしゃいませ。お名前を教えてくださいますか?」

「はぁ〜い。名前はセティナっていいます。カンラの町の酒場でウェイトレスやってま〜す。」

「はあ・・・ご丁寧に職業まで教えていただいて・・・ま、とりあえずおかけください。」

「はあ〜い。」

と言ってセティナが椅子に座った。
だが、彼女が座る瞬間、フェリスは、何か少し違和感を感じた。

「あれ・・・今・・・何かパンツはいてなかったような・・・」

ふとフェリスがそうつぶやくと、セティナは耳ざとくそれを聞きつけ、大きな声で返してきた。

「あ、分かっちゃいましたぁ?
実は、酒場でやってるウェイトレスって、ノーパンでやってるんですよ。
そのせいで、仕事以外のときでも、たまにパンツ穿き忘れちゃうんです。
・・・興奮しました?」

「あっいえべつにそんなことはないです、はい・・・」

「なんだ、ノーマルなんですね。」

あっけらかんと言ってくるセティナに、多少ペースを乱されつつも、
フェリスは本題に入った。

「あのその・・・とにかく、占って欲しいことを教えていただけますか?」

「あっはい。私、今はこうしてノーパンウェイトレスやってるんですが、
いずれはゲーム会社でグラフィッカーをやりたいんですよ。
グフィッカーのメダルは手に入れたんですけど、なかなか採用されなくて・・・。
どうやったらうまくいくか、占って貰えますか?」

「はい、やってみましょう。」

そう言うとフェリスは、またまた机の下を漁り、今度は何かの冊子の束を取り出した。

「グラフィッカー募集、ドットを打つのが好きな人、経験者優遇、
メガネっ娘大優遇。アイスソフト・・・こんなとこはどうですか?」

「確かにそこはまだ履歴書送ったことないけど・・
本当にそこへ入れるんですか?」

聞かれたフェリスは、冊子の一部を指して言った。

「大丈夫です。見てください、ここ・・・メガネっ娘大優遇と書いてあるでしょう。
ダテめがねをかけて面接に行けば、部長さんが喜んで、きっと合格するはずですよ。
社員の中には、日本橋で拾われたスパイもいるらしいですからね。」

「・・・なるほど、なんか、とっても希望が出てきました。ありがとうございます!
じゃ、わたし、ダテめがねをかけてる写真を撮って、履歴書に貼って送ってみます。
よーし、がんばるぞ!」

そういって、セティナは店から出ていった。

セティナが出ていった後すぐに、次の客が入ってきた。

今度の客は、メイドのような服装をしているが、
「メイド」と言うより「家政婦」的な雰囲気を持っている黒髪の少女だった。
なかなか美形である。

だが・・・

「こんちは。おじゃましますぜ。」

江戸っ子のようなしゃべり方が、その雰囲気を台無しにしている。

「こ、こんにちは。とりあえず、お名前をお聞きしたいんですが・・・」

「あ、あっしの名前は『たま』といいます。」

「え・・・たま?・・・」

「そうですぜ。どうかしましたかい?」

「い、いえ。まぁ人の名前は自由だし・・・セリフがあっても名前の無い人もいるし・・・」

フェリスは気を取り直すと、話を続けた。

「で、占って欲しいことは何ですか?」

「へいっ。じつは、うちのババアが作った『あてな2号』っていう人工生命体を、
とある先生に預けてたんですが、ごたごたしてる間に、
どこに行ったか分からなくなっちまったんですよ。
ちゃんと先生がそのまま使ってくれてるかどうか、占ってくれますかい?」

「・・・その『あてな2号』さんの特徴は?」

「へい。茶色の髪を後ろで2つに分けていて、トロンとしてどことなくバカそうな
目ん玉してやがりまして、青い服を着てますぜ。」

「・・・で、『先生』の名前は?」

「へい、たしか・・・ランスって言う名前だったはずですぜ。・・・ぽっ。」

たまがそう言った後、フェリスは一瞬だけ目を閉じ、
またすぐに開いて、たまにこう告げた。

「はい、分かりました。
・・・あてな2号さんは、ランスさんの家にいます。
ランスさんの家は・・・」

そしてフェリスは、たまにランスの家の場所を教えた。

「すっ、すげえ!そんなにすぐに分かるなんて、どんな占い方したんですかい?」

「いえ、ついさっき、あてな2号さんが、ランスさんの家に入って行くのを見ましたから。」

「え・・・それって占ってないんじゃあ・・・。
それでも、お代を払わなきゃいけないんですかい?」

「はい☆」

にこにことほほ笑むフェリス。
その笑顔には、背筋が冷たくなるくらいの迫力があった。

「・・・にゃ〜・・・。ババアがまた怒るぜぇ・・・」

たまは、料金の20ゴールドを置いて、とぼとぼと部屋を出た。

「うーん、かわいそうだったかな・・・。でも、こっちも稼がないと、後が怖いし・・・。」

ちょっぴり後ろめたさの残るフェリスだった。

その後も、それなりに客がやって来た。


――――早送り中・・・


ネイ・ウーロン:
「ニンジンの鍵はどうなったのかしら?」

フェリス:
「迷宮の中にそのままでしょう。」

ラルガ:
「あなた・・・私のネコにならない?」

フェリス:
「絶対になりません。占いにもそう出ています。占ったのでお代下さいね☆」

エレナ:
「同名の人がいてややこしいけど、私は666の人を捜している方です。
666の人はどこにいるんでしょう?」

フェリス:
「忘れられている可能性大です。同名の人がいるくらいですから。」


――――早送り終了・・・


そこそこ人が来た後、少し間が空いた。
その間ボーッと待ち呆けていたフェリスは、
ふと、いい考えを思いついた。

「結構、お客さんの入りがいいわね。・・・そうだわ、
魂を取る代わりに願いをかなえてあげるというのはどうかしら。
占いが当たるって評判が立てば、ますます人も来て、契約もできるし。」

しかし、そのナイスなアイデアは、すぐさま実現不可能なことが判明した。

「あっ・・・今の階級じゃ、魂を取っちゃいけないんだっけ。
うう・・・元は第6階級なのに・・・第9階級に格下げされてるから・・・。
もう、ランスのせいよ!」

と、声を上げたとき、入り口から客が入ってきた。

「いらっしゃ・・・!」

挨拶しようとしたフェリスは、思わずそれを止めてしまった。
何故なら、入ってきた客は、シィルだったのである。

「すいません。ここ、占いをして貰えるのですよね。」

「・・・あっ、はい。もちろん、占いの館ですから。
あ、ここでは、まずお名前を教えていただくようになっていますので。
お名前教えていただけますか?」

「そうですか。私の名前は、シィル・プラインです。
・・・あの・・・?」

「どうしたんですか?」

「いえ・・・私、占い師さんの顔、見たことある気がします。」

「いっ・・・いえ・・・他人の空似でしょうきっと。」

「・・・そうですね。他人の空似ですね。安心しました。
もし私が知ってる人だと、私がここに来たこと分かってしまいますから。」

フェリスの言葉に、シィルはあっさりと納得した。
シィルの気をそらすために、フェリスはさっさと本題にはいることにした。

「ではでは占って欲しいことは何ですか?」

「・・・わたし、ある人の召使い、というか、奴隷なんです。
だから、いろいろと押しつけられたり、その、Hなこともされてしまうんです。」

「それはひどいですね。そんな悪魔よりひどい極悪鬼畜な奴は、
さっさとモンスターにでも倒された方が世のためです。」

ある人というのがランスを差しているのを分かっていながら、
いや、分かっているからひどいことを言うフェリス。

しかし、シィルはかぶりを振って続けた。

「いいんです。わたし、納得してますから。
でも、その・・・『ご主人様』が、ひどい仕打ちだけならまだしも、
最近他の女の人の所へばかり遊びに行ってるんです。
前に『お前のからだが一番馴染む』って言ってくれたときは、とても嬉しかったのに・・・」

そう言った後、下を向いてぽつりと、シィルがつぶやいた。

「わたし、『ご主人様』に捨てられちゃうのかな・・・。
ひとりぼっちになっちゃうのかな・・・。」

それきりシィルは、うつむいたまま黙りこんだ。
何とも言えない嫌な沈黙が、部屋中に満ちる。

ややあって、フェリスが話しかけた。

「・・・『ご主人様』、好きなんでしょう?
人として、じゃなく、男と女の関係として。」

「!・・・どうして分かったんですか?・・・実はそうなんです・・・。
でも・・・」

そこで少し言葉を切り、ややあってシィルは続けた。

「でも、怖くて、告白できないんです。
私の気持ちに気付いて貰ってないのは悲しいけど、
気付いて貰ったら、今の関係が壊れるんじゃないかなって・・・。
今の、少しつらいけど、それ以上に幸せな関係が・・・」

「じゃ、それを占ってあげましょうか?」

「えっ?」

「あなたが告白するほうがいいかどうか。
だって、私占い師なんですから、それくらいはできます。
というか、そのためにここへ来たんでしょ。」

「・・・はい、そうですね。お願いします。」

フェリスは、目をつむって、何かを念じはじめた。

本当の所、フェリスに占いの技能はない。
しかし、占ってはいなくても、今知っている情報で、
シィルのために最良と思える選択を必死で考えていた。

1分とも30分とも考えられる長いような短いような時間がたった後、
フェリスは、言葉を発した。

「・・・出ました。
『ご主人様』も、あなたのことが、心の奥では好きらしいですよ。」

「え・・・ランス様が?!」

思わずもらしたシィルの言葉を、フェリスは耳ざとく聞きつけた。

「そう、ランスって言うの。ふぅん・・・」

「あ・・・。私・・・」

「いいのよ、その人には内緒にしとくから。」

「あ・・・すいません。」

そういうシィルに、少しほほ笑んでフェリスは続けた。

「心の底では、ランスさんも、シィルさんの助けを必要としています。
それとなく、ランスさんを助けてみると、もっと仲が緊密になると思います。
でも、これは少し危険です。
シィルさんが露骨に助けすぎると、ランスさんはかえって不満に思うでしょう。」

「そうなんですか・・・」

「だから、今は告白せずに待ってみるのが一番いいですよ。
・・・ま、二人とも初恋同士みたいなものですね。
お互い全然恋のことを何も知らない。
次に何をすればいいのか分からない。
間違いを犯して、後戻りできなくなるのが怖い。
だから・・・
ほんの少しだけ時間をかけて、お互いもうちょっと心の経験を積んで、
それから改めて考えてみれば、きっとうまくいくでしょう。」

そう、フェリスは、シィルにアドバイスした。

「ありがとうございます。私、その言葉通りにしてみます。
いつかは・・・ランス様も、分かってくれますよね。」

「ええ、もちろん。」

「それでは、占い代を払いますから、ちょっと待ってください。」

財布を出そうとしたシィルを、フェリスは制止した。

「いえ、お代はいりません。」

「え・・・でも、入り口に一回20ゴールドって・・・」

「いいから。あなたは今日の7人目のお客だから、ラッキーセブンってことで、
・・・ね?」

「ありがとうございます。それでは、ご好意受けておきます。
失礼します。」

そう言って、シィルは出ていった。

(ランスはどうなっても構わないけど、シィルちゃんは悪い子じゃないから・・・
ランス、シィルちゃんに感謝しなさいよ)

シィルが出ていった後、そう、心の中でランスにつぶやいたフェリスだった。

「あら、もう暗くなりかけてる・・・私ももう行かなきゃ。
あいつが怒るだろうし。」

シィルを見送るために、外へ出たフェリスは、日が落ちつつあることに気付き、
帰り支度を始めた。



そして、フェリスはランスの家にたどりついた。

「帰ったわよ。」 その声に反応して、ランスが部屋から出てきた。
シィルは、台所で夕飯を作っているようで、この場には居ない。

「おう、金は稼いだのだろうな。」

「ほら、20ゴールドが6人で120ゴールド稼いだわよ。」

「・・・おまえ、何の仕事をしたんだ。街頭で歌でも歌ったのか?」

「違うわよ。占い師よ。そこそこ人が来たと思うわ。」

「ばかもん、占い師の今の相場は、お前の値段の10倍だ!」

怒鳴るランスの言葉に、フェリスは驚いた。

「・・・ええっ、そうなの?!。道理で初日なのに人の入りが多いと思ったわ。」

「大体120ゴールドといったら、サラリーマンの時給ぐらいの金額だぞ。
俺様は、遊べる金が欲しいのだ。これくらいでは全然足りん。
よって、お仕置き決定だな。服を脱げ。」

そう言うや否や、ランスはフェリスを押し倒した。

「えっ、いやっ、そんなぁ、稼いだのに、だめっ、やめて、ああーーーーっ!」
「がはははは。」


ランスにHされながらフェリスは思った。

こんな鬼畜でひどい奴を、
シィルはどうして好きなのか。

こんな鬼畜でひどい奴が、
どうしてシィルを好きなのか。

見守っていくのも面白いかもしれない、と。







――――後日。

フェリスの占いの館は、値上げした所、怪しすぎる外観が仇となり、
客が全然こなくなったという・・・。
(ちゃんと占ってないし・・・)

ほんとのおしまい。



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