イラーピュでの冒険が一段落した頃、ランスの家は・・・ 貧乏に直面していた。 かなみと約束したリーザス解放の報酬は、イラーピュにいる間にうやむやにされ、 それは・・・ 「おい、フェリス。ご主人様がお呼びだ。ただちに魔界よりその姿をあらわせ・・・!」 ランスが何事か口走ると、何かがはじけるような音とともに、 「・・・はい、ご主人様。何の用ですか?」 フェリスと呼ばれたその美少女は、明らかに人間とは異なる特徴を持っていた。 灰色に近い褐色の肌。 そう、フェリスは悪魔である。 「何ですか、今回の仕事は・・・。貝でも取ってこいと言うんじゃないでしょうね。」 「なるほど。それもいいアイディアだな。」 「・・・墓穴掘っちゃったかしら。」 「しかし、今回お前に命ずる任務はそれではないのだ。」 「・・・ほっ。ではどんな任務なんですか。」 「フェリス。お前何かやって金を稼いでこい。」 「・・・えぇ〜〜〜〜っ。」 「何だ、その不満そうな顔は。」 「だって、ほかの人が私を見たら、すぐに悪魔だってバレるじゃないの。 「それを考えるのもお前の仕事だ。いいか、命令は絶対だぞ。 そう言ってランスは、「・・・しくしく。」と涙目になっているフェリスを、 そしてランスは、 「稼げるといっても、くれぐれも風俗関係はやるんじゃないぞ。 と言いたい事だけ言い残し、 「そんなこと、言われなくてもやりませんよっ!」 と言い返すフェリスの言葉など聞かず、バタンと玄関のドアを閉めた。 一人取り残されたフェリスは、ため息をつきつつひとりごちた。 「はあ・・・うまくいってもいかなくても、Hされるんだろうな・・・。 いいアイディアを思いついたフェリスは、足早に、町の外へと向かった。 昼下がり、アイスの町の町外れ。 「―暗黒占い― ここに入るもの全ての希望を捨てよ!」 と、書かれていた。 常識的に考えると、かなり占いには不向きな「うたい文句」だが、 「あのぅ・・・」 「はい、いらっしゃいませ。暗黒占いの館へようこそ。」 おそるおそる入ってきた金髪の女性を、フェリスは笑顔で迎え入れた。 テントの中には、黄ばんだ蝋燭が数本灯り、わずかにテント内を照らし出している。 フェリスの目の前には、客が座る椅子と机が置かれ、 そして、当のフェリスは、怪しげな厚いローブを身にまとい、 「さあ、どうぞおかけください。」 フェリスにうながされ、女性は、おそるおそる椅子に座った。 「お客様、お名前を教えていただけますか?」 「あ・・・わたし、ノアっていいます。 「はい、恋愛、金運から探し人、落とし物、はたまた明日の天気まで、 「あ・・・悪魔って・・・嘘、ですよね?」 「はい☆」 いともあっさりうなずくフェリスに、思わずコケかけるノア。 「こういう商売、はったりが重要ですからね。 「まあ・・・そうですけど・・・」 いささか困惑ぎみの表情を浮かべるノア。 「それで、ノアさんが占って欲しいことは何ですか?」 「あ、はい。実は、私、少し前まで冒険者をやっていました。 「『いい人』だったんですか?」 と、フェリスは聞いた。が、 「違います。」 期待を裏切る返答をされ、今度はフェリスがコケかける。 「あ・・・大丈夫ですか?」 心配するノアに、ややひきつった笑みを返すフェリス。 「・・・大丈夫です。それより、続きを聞かせてください。」 「はい・・・。で、ラークが私のせいで冒険に出て、死んでたりしたら寝覚めが悪いし、 ノアの話を聞き終えたフェリスは、少し沈黙し、答えた。 「分かりました。占ってあげましょう。 「えっと・・・まあ・・・いいです。」 「それでは・・・。えっと・・・あ、あった。 フェリスは、少し机の下を漁ると、白色の箱を取り出した。 すると、少したって水晶玉の中から、 「ソーーゥ・キャリボーーー・・・」 という何者かの言葉かが聞こえた。 「え・・・?!」 ノアがあぜんとしている間に、またもや水晶玉の中から、 「あなたを・・・救いたい!」 という女性の声が聞こえてきた。 その言葉を聞いたフェリスは、ノアに向かい、こう答えた。 「ラークさんの居場所は、残念ながら分かりません。 「・・・本当ですか?」 ノアは明らかに疑惑の表情を浮かべて聞いてきたが、 「はい。なんなら、カスタムの町のミリという名前の女性に きっぱりとそう言い放った。 「はあ・・・分かりました。やってみます。あ、これ、お代の20ゴールドです。」 多少疑念を残しつつ、ノアは、占い料を机の上に置き、部屋から出ていった。 「ご利用ありがとうございました。」 フェリスは、営業スマイルで、それを見送った。 ノアが出ていってしばらくした後、新たな客が入ってきた。 「こんにちは。お邪魔します。」 そう言って入ってきたのは、紫色でセミロングの髪をした、ごく普通の少女だった。 「いらっしゃいませ。どうぞおかけください。」 「はい。失礼します。」 「お名前を教えていただけますか?」 そう訪ねるフェリスに、少女は礼儀正しく答えた。 「カーナ・オオサカと言います。この街に住んでいます。」 「そうですか。で、何を占って欲しいんでしょうか?」 「えっと・・・その・・・。 「はあ・・・」 思わず生返事を返すフェリスに気付き、カーナはあわてて本題に入る。 「!?・・・ああっ、ごめんなさい。わたしったら、コーンの話ばっかりしてますね。 「分かりました。占ってみましょう。」 そう言うとフェリスは、また机の下を漁り、 「さん・・・にい・・・いち・・・はいっ!」 フェリスが何かカウントダウンすると、それまで赤、青、緑の色が乱舞していた水晶玉に、 「あなたはいつもヒロインだった・・・」 映像の中の少女は、そう言うと、どこか目の焦点が定まってないもう一人の少女と戦い始めた。 「これです。見てください、この胸の揺れ方・・・。 「本当ですか?ありがとうございました!」 そう言って彼女は、料金を払うと、店を出ていった。 「はあ・・・いいのかな・・・こんな感じで・・・。 と、机に突っ伏しながら、フェリスは一人つぶやいた。 少し経ち、 「こんにちは〜っ。」 と、3人目の客が入ってきた。 青い髪を、左右に分けてそれぞれ束ねた、 「いらっしゃいませ。お名前を教えてくださいますか?」 「はぁ〜い。名前はセティナっていいます。カンラの町の酒場でウェイトレスやってま〜す。」 「はあ・・・ご丁寧に職業まで教えていただいて・・・ま、とりあえずおかけください。」 「はあ〜い。」 と言ってセティナが椅子に座った。 「あれ・・・今・・・何かパンツはいてなかったような・・・」 ふとフェリスがそうつぶやくと、セティナは耳ざとくそれを聞きつけ、大きな声で返してきた。 「あ、分かっちゃいましたぁ? 「あっいえべつにそんなことはないです、はい・・・」 「なんだ、ノーマルなんですね。」 あっけらかんと言ってくるセティナに、多少ペースを乱されつつも、
「あのその・・・とにかく、占って欲しいことを教えていただけますか?」 「あっはい。私、今はこうしてノーパンウェイトレスやってるんですが、 「はい、やってみましょう。」 そう言うとフェリスは、またまた机の下を漁り、今度は何かの冊子の束を取り出した。 「グラフィッカー募集、ドットを打つのが好きな人、経験者優遇、 「確かにそこはまだ履歴書送ったことないけど・・ 聞かれたフェリスは、冊子の一部を指して言った。 「大丈夫です。見てください、ここ・・・メガネっ娘大優遇と書いてあるでしょう。 「・・・なるほど、なんか、とっても希望が出てきました。ありがとうございます! そういって、セティナは店から出ていった。 セティナが出ていった後すぐに、次の客が入ってきた。 今度の客は、メイドのような服装をしているが、 だが・・・ 「こんちは。おじゃましますぜ。」 江戸っ子のようなしゃべり方が、その雰囲気を台無しにしている。 「こ、こんにちは。とりあえず、お名前をお聞きしたいんですが・・・」 「あ、あっしの名前は『たま』といいます。」 「え・・・たま?・・・」 「そうですぜ。どうかしましたかい?」 「い、いえ。まぁ人の名前は自由だし・・・セリフがあっても名前の無い人もいるし・・・」 フェリスは気を取り直すと、話を続けた。 「で、占って欲しいことは何ですか?」 「へいっ。じつは、うちのババアが作った『あてな2号』っていう人工生命体を、 「・・・その『あてな2号』さんの特徴は?」 「へい。茶色の髪を後ろで2つに分けていて、トロンとしてどことなくバカそうな 「・・・で、『先生』の名前は?」 「へい、たしか・・・ランスって言う名前だったはずですぜ。・・・ぽっ。」 たまがそう言った後、フェリスは一瞬だけ目を閉じ、
「はい、分かりました。 そしてフェリスは、たまにランスの家の場所を教えた。 「すっ、すげえ!そんなにすぐに分かるなんて、どんな占い方したんですかい?」 「いえ、ついさっき、あてな2号さんが、ランスさんの家に入って行くのを見ましたから。」 「え・・・それって占ってないんじゃあ・・・。 「はい☆」 にこにことほほ笑むフェリス。 「・・・にゃ〜・・・。ババアがまた怒るぜぇ・・・」 たまは、料金の20ゴールドを置いて、とぼとぼと部屋を出た。 「うーん、かわいそうだったかな・・・。でも、こっちも稼がないと、後が怖いし・・・。」 ちょっぴり後ろめたさの残るフェリスだった。 その後も、それなりに客がやって来た。 ――――早送り中・・・ ネイ・ウーロン: フェリス: ラルガ: フェリス: エレナ: フェリス: ――――早送り終了・・・ そこそこ人が来た後、少し間が空いた。 「結構、お客さんの入りがいいわね。・・・そうだわ、 しかし、そのナイスなアイデアは、すぐさま実現不可能なことが判明した。 「あっ・・・今の階級じゃ、魂を取っちゃいけないんだっけ。 と、声を上げたとき、入り口から客が入ってきた。 「いらっしゃ・・・!」 挨拶しようとしたフェリスは、思わずそれを止めてしまった。 「すいません。ここ、占いをして貰えるのですよね。」 「・・・あっ、はい。もちろん、占いの館ですから。 「そうですか。私の名前は、シィル・プラインです。 「どうしたんですか?」 「いえ・・・私、占い師さんの顔、見たことある気がします。」 「いっ・・・いえ・・・他人の空似でしょうきっと。」 「・・・そうですね。他人の空似ですね。安心しました。 フェリスの言葉に、シィルはあっさりと納得した。 「ではでは占って欲しいことは何ですか?」 「・・・わたし、ある人の召使い、というか、奴隷なんです。 「それはひどいですね。そんな悪魔よりひどい極悪鬼畜な奴は、 ある人というのがランスを差しているのを分かっていながら、 しかし、シィルはかぶりを振って続けた。 「いいんです。わたし、納得してますから。 そう言った後、下を向いてぽつりと、シィルがつぶやいた。 「わたし、『ご主人様』に捨てられちゃうのかな・・・。 それきりシィルは、うつむいたまま黙りこんだ。 ややあって、フェリスが話しかけた。 「・・・『ご主人様』、好きなんでしょう? 「!・・・どうして分かったんですか?・・・実はそうなんです・・・。 そこで少し言葉を切り、ややあってシィルは続けた。 「でも、怖くて、告白できないんです。 「じゃ、それを占ってあげましょうか?」 「えっ?」 「あなたが告白するほうがいいかどうか。 「・・・はい、そうですね。お願いします。」 フェリスは、目をつむって、何かを念じはじめた。 本当の所、フェリスに占いの技能はない。 1分とも30分とも考えられる長いような短いような時間がたった後、 「・・・出ました。 「え・・・ランス様が?!」 思わずもらしたシィルの言葉を、フェリスは耳ざとく聞きつけた。 「そう、ランスって言うの。ふぅん・・・」 「あ・・・。私・・・」 「いいのよ、その人には内緒にしとくから。」 「あ・・・すいません。」 そういうシィルに、少しほほ笑んでフェリスは続けた。 「心の底では、ランスさんも、シィルさんの助けを必要としています。 「そうなんですか・・・」 「だから、今は告白せずに待ってみるのが一番いいですよ。 そう、フェリスは、シィルにアドバイスした。 「ありがとうございます。私、その言葉通りにしてみます。 「ええ、もちろん。」 「それでは、占い代を払いますから、ちょっと待ってください。」 財布を出そうとしたシィルを、フェリスは制止した。 「いえ、お代はいりません。」 「え・・・でも、入り口に一回20ゴールドって・・・」 「いいから。あなたは今日の7人目のお客だから、ラッキーセブンってことで、 「ありがとうございます。それでは、ご好意受けておきます。 そう言って、シィルは出ていった。 (ランスはどうなっても構わないけど、シィルちゃんは悪い子じゃないから・・・ シィルが出ていった後、そう、心の中でランスにつぶやいたフェリスだった。 「あら、もう暗くなりかけてる・・・私ももう行かなきゃ。 シィルを見送るために、外へ出たフェリスは、日が落ちつつあることに気付き、 そして、フェリスはランスの家にたどりついた。 「帰ったわよ。」
その声に反応して、ランスが部屋から出てきた。 怒鳴るランスの言葉に、フェリスは驚いた。 |