放射線Q&A
[2]「放射線」と「放射能」は違うの?
放射能とは「放っておいても放射線を出す能力・性質、またその強さ」をいいます。
ちなみに「放っておいても放射線を出す物質」は「放射性物質」と呼ばれます。
光を出す電球を例にイメージであらわすと
電球 → 放射性物質
電球から出る光 → 放射線
電球が持つ光を出す能力 → 放射能
となります。電球の場合は電気を与えないと光が出ませんが、放射性物質は上記のとおり、放っておいても放射線を出します。
「放射能」という言葉が放射性物質の意味で用いられることもありますが、「放射能が漏れた」「放射能を浴びた」といった表現は本来の意味からすると正しくありません。
参考文献
1) 日本アイソトープ協会:放射線のABC. .日本アイソトープ協会, 1990
2) 飯田博美, 安齋育郎:絵とき放射線のやさしい知識. オーム社, 1984
3) 保健物理学会, 日本アイソトープ協会編:新・放射線の人体への影響(改訂版). 日本アイソトープ協会, 2001
4) 草間朋子:あなたと患者のための放射線防護Q&A. 医療科学社, 1996
5) 草間朋子:改訂新版 あなたと患者のための放射線防護Q&A. 医療科学社, 2005
6) 放射線医学総合研究所:低線量放射線と健康影響. 医療科学社, 2007
7) 館野之男:放射線と健康. 岩波書店, 2001
8) 笹川泰弘, 諸澄邦彦 編:医療被ばく説明マニュアル, 日本放射線技師会出版会, 2007
9) 辻本忠, 草間朋子:放射線防護の基礎 第3版. 日刊工業新聞社, 2001
10) 石川友清 編:放射線概論. 通商産業研究者, 1999
11) ICRP:Publ.84妊娠と放射線. 日本アイソトープ協会, 2002
12) ICRP:Publ.87 CTにおける患者線量の管理. 日本アイソトープ協会, 2004
13) 柏田陽子, 中村豊 編著:医療被ばく. 日本放射線技師会出版会, 2005
少ない線量の被ばくについての調査・研究は現在もすすめられており、その中のいくつか以下に記載します。
・放射線治療を受けた人の子供たち、放射線科の医師・技師の子供たちの調査で異常の増加が証明されたものはない。[参考文献(7)]
・広島・長崎の被爆者の子供や自然放射線※2の多い地域の住民の疫学※1調査で遺伝的影響の発生は認められていない。[参考文献(5)]
・自然放射線※2の多い地域の調査でその他の地域よりもがん死の増加を示す証拠は得られていない。[参考文献(7)]
・日本の原子力施設などの放射線業務従事者に対する調査で低線量の放射線ががん死亡率に影響を及ぼしているという証拠は得られていない。[参考文献(6)]
いろいろと書きましたが、少ない量の被ばくの影響については結論が出ていないのが実際のところです。
ただ、上記のような事実から考えると少ない量の放射線は影響があったとしても、その影響は非常に小さいと言えるのではないでしょうか。
『不妊』・・・[男性] 精巣に 150mGy (一時的不妊)
3500〜6000mGy
(永久不妊)
[女性] 卵巣に 650〜1500mGy (一時的不妊)
2500〜6000mGy (永久不妊)
『胎児への影響』・・・お腹の中に胎児に 100mGy (胚死亡(流産))[着床前期]
100mGy (奇形) [器官形成期]
100mGy (発育の遅れ) [胎児期]
120mGy
(知恵遅れ) [胎児期]
『皮膚への影響』・・・皮膚に 2000mGy(初期一時的紅斑)
3000mGy(一時的脱毛)
(参考文献(4)、(9))
代表的な検査での被ばく線量を次に示します。
【胸部単純撮影】・・・入射面皮膚 0.2 mGy 精巣 ≒0.0 mGy
胎児
≒0.0 mGy
卵巣 ≒0.0 mGy
【頭部CT撮影】・・・入射面皮膚25〜50 mGy 精巣 ≒0.0
mGy
胎児 ≒0.0 mGy 卵巣 ≒0.0 mGy
【胸部CT撮影】・・・入射面皮膚15〜20mGy 精巣 0.01 mGy
胎児
0.06 mGy 卵巣 0.1
mGy
【腹部CT撮影】・・・入射面皮膚25〜30mGy 精巣 ≒0.0
mGy
胎児
8 mGy 卵巣 0.1
mGy
【骨盤部CT撮影】・・・入射面皮膚25〜30mGy 精巣 25〜30 mGy
胎児
25 mGy 卵巣 14〜20mGy
(参考文献(8)、(11))
通常の検査による被ばくでは影響がないことがご理解いただけると思います。
(一部の影響については[4]を参照してください。)
大きく分けて次の2種類のものを言います。
@ エネルギーの大きい電磁波
A 高速で走る小さな粒子
病院で使用される放射線のほとんどは@の方で、電磁波です。
(Aにあたるのは放射線治療の中の一部など。)
例えば、胸部のレントゲン撮影やCT撮影で用いられているのは@の方です。
ちなみに電磁波には、携帯電話などで使われる「電波」やヒータなどで使われる「赤外線」、目に見える光の「可視光線」、日焼けをおこす「紫外線」などがあります。
放射線はこれらの仲間で、違いはエネルギーが大きいということです。
前項のAに記載している「一部の影響」にあたるのがこの二つの影響で、これらにはしきい線量がない、つまりどんなに少しの量の被ばくをしても影響があり、被ばくの量が増えるほどその発生確率があがるとされています。ただしこの考え方は「仮説」であり、現在でもまだはっきりとしたことが分かっていません。この仮説のもとは広島・長崎の原爆被爆者の疫学※1調査などからで、たくさんの被ばくをした場合(50〜200mSv以上)はその量が多いほどがんの発生確率があがっているという事実からです。しかしながら、被ばくした量が少ないところ(50〜200mSv未満)ではがんの統計的に有意な増加は認められていません。一方で、放射線防護の基準を設けるためには少ない線量の被ばくにおける影響についてもなんらかの仮定をとらざるをえないため法令などはこの仮説をもととして作られています。
ちなみに一般的な検査による被ばくを以下に示します。
胸部単純撮影 0.02mSv
頭部CT撮影 2mSv
胸部CT撮影 8mSv
腹部CT撮影 10mSv
骨盤部CT撮影 10mSv (参考文献(12))
(※[3]では体の各場所の線量をGyで示していますが、がんと遺伝的影響については
mSv(実効線量)で被ばくを評価します。[3]で示した数値とは異なることに注意してく
ださい)
B同じ量の被ばくでも、それを短時間で浴びたのか長期間で浴びたのかによって影響の大きさが異なります。(短時間で浴びた方が影響は大きくなります)
少しの被ばくを長期間浴びた場合と、その合計と同じ量の放射線を一度に浴びた場合では前者の方が影響は小さいという意味です。つまり人体への影響は単純に被ばくした線量の足し算で決まるものではないということです。
※1 「疫学」:疾病・事故・健康状態について、地域・職域などの多数集団を対象とし、その原因や発生条件を統計的に明らかにする学問。最初は疫病の流行様態を研究する学問として発足。[広辞苑
第五版]
※2「自然放射線」:地球の外からやってくる宇宙線、地殻や家屋の建材、身体の中にある天然の放射性物質が体内で放出する放射線など。
これらから私たちは常に被ばくしており、世界平均で年間2.4mSvを受けているといわれています。
インドのケララ(3.8mSv)、ブラジルのガラパリ(5.5mSv)、イランのラムサール(10.2mSv)のように世界には自然放射線の多い地域が存在し、現在も健康影響などが調査されている。([4]の文中参照)
[4]がんになったり、将来生まれてくる子供に影響はないの?
A一部の影響([4]参照)を除いて、ある量以上被ばくしなければ影響はでません。
放射線による人体への影響は、その影響ごとに決まったある量以上の放射線を浴びなければおきないという意味です。その量はしきい線量と呼ばれます。
以下に影響の例とそのしきい線量を示します。
まず体への影響を考える場合、次の3つのことを理解しておく必要があります。
@基本的には被ばくした体の場所にしか影響はでません。
放射線を浴びていない場所に放射線の影響が出ることは基本的にないという意味です。
例えば胸部のレントゲン撮影をおこなったために髪が抜けるといったことはおこりません。