参酌標準・地域医療計画 無視の療養病床再編

 療養病床再編問題の問題点について、書き込んでいますが、もう一つの問題点は、介護療養病床の廃止・医療療養病床の大幅削減で、地域の医療供給体制を壊してしまい地域の医療や介護が維持できるのか大いに危惧しています。
 また、介護保険制度との協議や整合性が全くとれていない為、7月実施は介護施設の参酌標準の見直しのないまま見切り発車の法案であることです。

 5月17日、四病院団体協議会と日本療養病床協会は会長名で川崎厚労大臣宛に、「医療療養病床における診療報酬改定に対する緊急要望」を提出しました。
「現行の介護保険事業計画における参酌標準(平成18 年度〜20 年度)においては、今回の療養病床の再編は全く考慮されていない。このため、医療療養病床のうち介護保険施設(介護療養型医療施設、転換型老人保健施設など)へ移行できるのは、参酌標準に空きのある地域だけであり、多くの地域では介護保険施設への移行が不可能となっている。
 このまま新報酬体系制度が施行されると、数ヵ月後には日本中の各地域で療養病床の閉鎖が起こり、行き場の無い高齢者が多数発生することが想定される。そのような事態を避けるため、下記の事項を要望する。
 1.2.省略
 3.早急に療養病床の再編を考慮した参酌標準の見直しを行う。
 4.参酌標準が見直されるまで、参酌標準によって介護保険施設への転換が認められない地域における医療区分1 に対しては、介護療養型医療施設と同等の報酬を医療保険から支払う。
 5.今後の介護保険施設のあり方(医療提供のあり方も含む)については、広く国民、病院関係者等とともに十分な議論を行う。」

 このような、参酌標準に対する見直しの要望でした。
 
 この要望への正式な答えと対応はありませんが、先日成立した医療制度関連法案の中で附帯決議として下記の附帯事項が記載されています。
「10.療養病床の再編成に当たっては、すべての転換を希望する介護療養病床及び医療療養病床が老人保健施設等に確実に転換し得るために、老人保健施設の構造設備基準や経過的な療養病床の類型の人員配置基準につき、適切な対応を図るとともに、今後の推移も踏まえ、介護保険事業支援計画も含め各般にわたる必要な転換支援策を講じること。また、その進捗状況を適切に把握し、利用者や関係者の不安に応え、特別養護老人ホーム、老人保健施設等必要な介護施設及び訪問看護等地域ケア体制の計画的な整備を支援する観点から、地域ケアを整備する指針を策定し、都道府県との連携を図りつつ、療養病床の円滑な転換を含めた地域におけるサービスの整備や退院時の相談・支援の充実などに努めること。さらに、療養病床の患者の医療区分については、速やかな調査・検証を行い、その結果に基づき必要に応じて適切な見直しを行うこと。」
 ただ、どこにも具体的な時期や方法は示されていません。


参酌標準とは
 参酌標準というのは「介護保険事業に係る保険給付の円滑な実施を確保するための基本的な指針」に記載されている、「その地域のサービス必要量等を求めるための目安」であり、「施設サービスとしての基準は老人福祉施設,老人保健施設及び介護療養型医療施設の利用者の数の見込みについては,それぞれ,目標年度における65歳以上人口のおおむね1.5%,1.1%及び0.6%を参考としつつ,合計がおおむね3.2%となることを標準として,地域の実情に応じて定めることが適当である。」また介護保険3施設の構成割合は「おおむね8:7:5程度の比率を参考として、地域の実状に応じて定めることが必要」とも示されています。

 この時点では介護療養病床の廃止などは全く検討もされていません。
 むしろ65歳以上人口を基準にしていますので、削減よりも5年先には大幅な増加が必要になるとも書いてあるのです。

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施設サービスの参酌標準 65歳人口

  老人福祉施設     1.5%  

  老人保健施設     1.1%

  介護療養型医療施設  0.6%

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 従って、今回の介護型療養病床の全廃止や、老人保健施設への転換目標などはこの参酌標準が基本であり、医療制度関連法案だけで全国一律に決められることではなく、各地域の事情を加味した参酌標準が優先されることになります。従ってその地域に目標数を満たしていれば、施設転換は簡単に認められないのはわかっているのです。
 
 介護保険法により、19年度までの整備計画はすでに各地で行われており、今後そこで参酌標準の見直しや補正が行われないなら、転換は実質出来ないのです。
 厚労省の中でも、医療保険と介護保険の担当は全く異なった解釈をしており整合性が図られているのではないのです。

地域医療計画・基準病床無視の療養病床再編


 一方、医療型療養病床については、同じく地域医療のためにその地域の必要病床数を確保するという目的で、昭和60年12月の医療法改正により医療計画が制度化されました。その後高齢化の進展、慢性疾患を中心とした疾病構造への変化、医療の質の向上に対する国民の要望の高まりなど、昨今の医療をとりまく環境の変化に対応した算定方式を検討する必要があるとのことで、「与党医療保険制度改革協議会」においては急性期病床と慢性期病床とそれぞれの必要病床数を決めるよう、検討されました。

病床区分を考慮した必要病床数の算定方法について
 急性期病床については、入院件数及び平均在院日数を用いる算定方式とする。全体の必要病床数から、急性期病床の必要病床数を引いた数を慢性期病床の必要病床数とすることが適切と考えられる。
 全体の必要病床数については、現行の算定方式を基に、入院率の地域間格差の是正については、当面、全国値に対する一定の基準値を超える都道府県値については基準値を採用し、都道府県値が基準値より低い場合は、都道府県値を採用することが適切である。などが決められていましたが、

 平成13年施行の改正医療法により、病床区分が見直され、従来の「その他の病床」が、「一般病床」と「療養病床」に分けられました。
 各都道府県ごとに、2次医療圏と3次医療圏を設定し、病床の種別に応じた「基準病床数」を定めています。
 必要病床数という名前から基準病床と変わりました。

「基準病床数」はどのように算定されるのか?
 病床の種別に応じて、医療圏ごとにの性別年齢階級別人口・入院率・入院患者の流出入、さらに全国的な病床利用率や平均在院日数推移率などをもとに算定されます。一般病床及び療養病床は2次医療圏ごとに算定されます。

その後各都道府県での地域医療計画がまとまり「医療計画の見直し等に関する検討会」が開催され、15年8月その報告書では


(3) 基準病床数について
 ○ 基準病床数は、その地域にどの程度の病床数を整備すべきかという整備目標として位置づけられるとともに、それ以上の病床の増加を抑制する基準となっている。

 ○ この基準病床数を定め、病床不足地域における病床整備を進める一方、過剰地域の病床増加を抑制することにより、病床の整備を過剰地域から非過剰地域へ誘導するなどし、医療資源の効率的活用を通じて全国民に対する適正な医療の確保を図るものである。


 とされ、都道府県知事に勧告権限を与え、都道府県知事の勧告を受けた病院等が、当該勧告に従わない場合は、当該病院等について保険医療機関の指定を行わないことができ、救急医療や難病等の病床では、各区域で整備する必要がある場合には、病床過剰地域においても、整備することが例外的に可能となっています。
 また医療計画については、少なくとも5年ごとに状況の変化を踏まえて区域の設定及び基準病床数等の見直しを行うこととなっており、一旦、病床過剰地域とされた場合であっても、人口急増、急激な高齢化などにより基準病床数が増加した場合は、増床が可能となっています。

そしてその報告書では平成14年3月末現在、全国の363の医療圏で
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基準病床数  既存病床数 過剰医療圏 病床数 不足医療圏 病床数  差引
1,210,969  1,292,103  212  103,365  151   ▲22,231     81,134
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であり、病床過剰地域は212圏(過剰病床数は10万3,365床)、病床非過剰地域は151圏(不足病床数は2万2,231床)で、全国では8万1,134床の過剰という結果なっています。

インターネットで調べて見ると、各都道府県での基準病床数の過不足はかなりばらつきを認めます。
都道府県    基準病床数A  既存病床数B  差引B-A
 宮城    18,727    20,002    1,275
 熊本     23,958    26,961      3,003
 広島     33,281    33,277       △4
 愛知    49,661    55,972      6,311
 群馬    19,383     19,416          33
 千葉    43,656    42,918      △738
 埼玉    46,456    49,341      2,885
 山口    17,034     22,128      5,094

筆者の山口県では「山口県保健医療計画(第5次)の概要」において
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   旧計画平成13年            新計画案
基準病床数a 既存病床数b 過不足b-a 基準病床数a 既存病床数b 過不足b-a
 19,484    22,158    2, 674   17,034    22,128   5,094
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 旧計画では9の医療圏で病床不足地区が見られましたが、その後増床され、新計画では全医療圏で過剰となり旧計画よりも新計画では2420床の過剰とされています。
 この計画に拘束力はなく、現実に削減が行われたことは無いようですが、新規の参入はほとんどできないことになっています。
 いずれも一般病床数には療養病床数も含まれていますので、今後の基準病床数は一般病床・療養病床の別々の検討も必要ですが、少なくとも15年の厚労省の別の検討会では、全国的にみて、一般病床・療養病床含めた過剰病床数は、各都道府県の医療圏の実情を加味して全国で合計約8万1000床と認識されていたはずです。
 
 このように医療計画で、各都道府県毎に「基準病床数」も定められており、この都道府県の医療計画を参考にし、地域の実情を考慮した療養病床再編計画なら、将来的に検討の余地はあるかもしれませんが、今回の再編問題では、医療費削減のために療養病床数を介護・医療あわせて、23万床削減するという事ですの
で地域の事情は全く無視した療養病床の削減が行われることになり、これまでの地域医療計画も無視したものです。

 医療費削減せよという小泉内閣の命題の解決策として、施設や病院を減らせば良いという全く現場を無視した政策が実行されようとしています。

 この政策の指揮をとっている厚労省の麦谷課長は愛知県保険医協会との会見において「医療療養病床は恣意的に引き下げた」と明言しています。

 「療養病床点数の大幅引き下げ問題については、「現在、医療療養病床に入っている人の半分が、医療の必要がない、との調査結果に基づき検討したもの。『こんな低い点数では追い出される』と言われるが、まさに、医療の必要ない人は、他の施設に移ってもらうために、恣意的に点数を引き下げたものだ」と医療療養病床からの追い出しが狙いであることを強調した。

 医療制度改革・介護保険改革の共通の場で参酌標準や地域の医療計画の見直しが協議され、その地域の介護施設数や急性期病院・療養病床数が住民の了解の上で定められ、その方向に向けて準備が進められてゆくのなら療養病床の再編も受け入れねばなりません。
 しかし今回のように、突然介護保険との協議や制度の整合性もなく診療報酬や、施設数をきめるやり方は、反対してゆくべきだと思います。

 今後療養病床だけでなく、一般病床の削減も大幅な計画が進められています。
 今全国約90万床の一般病床をほぼ半数にしてしまう計画のようです。

 いったん崩壊した施設や病院を、すぐに再開させる体力は残っていないと思いますし、病院の崩壊は医薬品会社・医療機器会社だけでなく地元の商店など大きな影響をあたえます。
 地域医療計画なんてくそ食らえの無茶な政策を立案してしまう厚労省の役人に、本当に日本の医療や福祉を任せていいのでしょうか。

 明後日7月1日から、全国の療養病床では地獄の生き残りが始まります。廃院・病棟閉鎖などもおこるかもしれません、一番の問題は、在宅へも介護施設へも行けない患者さん達で、すでに退院勧告が始まっている施設もあると聞きます。

 この怒りをどこにぶつけようも無い・ぶつけても反応の無いいらだちの日が続くのでしょう。

   平成18年6月29日 玖珂中央病院 吉岡春紀