社会的入院について


  本当に社会的入院が医療費を押し上げているのでしょうか

老人の「社会的入院」医療費について

 老人の「社会的入院」に対する関心が、公的介護保険との関係で再び高まっています。また厚生省高官の中には「老人の「社会的入院」の費用が3-5兆円以上掛かっており、医療費の無駄」などの根拠のない放言もあります。
 実際に病状が安定しても家庭の事情で退院が出来ないお年寄りは増えてきているのは事実ですが、現実には一人暮らしであったり、老夫婦だけの生活であったり、日常生活で全介助を要したり、痴呆が進行したお年寄りの在宅介護は現在の核家族では難しい事も多くあります。
 一方、この方たちの受け入れは、まだ十分でなくこの対策も遅れており、やっと老人保健施設、特別養護老人ホームの設置が進められていますが、十分な見通しもない計画で、老人保健施設の位置づけ、施設看護の内容、継続治療の難しいことなどの問題があげられており、一部の老人保健施設では入所が長期化し、病院とのピンポン現象、在宅への復帰もままならない状況です。また、一部では医療産業の進出もあり地域医療に混乱を与えています。特別養護老人ホームも必要な施設ではありますが、先日の厚生省がらみの汚職などで問題が多いことも事実です。
 特別養護老人ホームは大半が公費で設立されますが、このため最近の施設は金に糸目をつけない豪華な施設となり、建設費が高騰しています。出来上がった施設は定員が決まっており、一般に亡くなるか、病院に転院入院されるかしないと空きはなく、入所定員が埋まると、後は空くまで入れないシステムです。ほとんど税金で一部の人だけの豪華な施設が必要でしょうか。入所者のアメニティも必要でしょうが、もっと多くの方が利用出来るシステムも必要ではないでしょうか。

 老人保健施設、特別養護老人ホームの療養費は自己負担も含めると30万円を超え、一方この方たちが入院しておられる老人病院では1年を越えると1日1000円程度の医学管理料しかなく、普通は月25万円程度の医療費です。(現在は包括化医療を選択すると35万円を超すまるめ制度が行われ多くの老人病院で選択しています。甘い餌でしょうが包括化を選択せねばならないようにしむけられています。) 老人病院より「社会的入院」の名目でお年寄りを追い出すより、また高額の税金を使って特別養護老人ホームなどの新しい施設を作るより、これらの病院の有効利用も考える必要があるのではないでしょうか。
 万一老人保健施設、特別養護老人ホームが計画通り出来たとして、また一般病院や老人病院の長期療養型病棟転換も行われたとして、これらが医療保険からはずされ、全体の医療費は削減されたとしても、老人保健施設や特別養護老人ホームに、同じ(むしろ高い)療養費は必要なわけであり、介護保険料から支払われるならば、今後は介護保険料の増額しかないように思います。

1.老人の長期入院患者の割合
 6ヶ月以上入院患者の割合は1983-1991年までは50%前後、1年以上の割合も40%弱で一定していました。1992年以降両者は低下し1993年には6ヶ月以上の入院は46.7%、1年以上入院35.2%となっているようです。すこしづつですが長期入院は減っているように見えますが、施設への転院を考えると入院、入所者の総数は減っていないと思います。

2.長期入院患者の中心は老人ではない
 長期入院患者の大半が老人入院患者であるという一般の「常識」とは逆に、6ヶ月以上の長期入院患者のうち、70歳以上の老人は1993年度で43%、残り57%が69歳未満であることは知られていません。
 厚生省の統計では、1年以上入院の72%が65歳以上との資料がありますが、これは精神科疾患を除いてあり、老人の長期入院患者の実体をより大きく見せることに、あるのだと思います。

3.長期入院患者の年間総医療費
 1993年度の老人医療の1年以上入院者の医療費は1日当たり10.923円であり、入院3ヶ月以内の1日平均20.450円と比べ約53%にとどまっています。
 厚生省は老人の長期入院患者は1月50万円の医療費と考えており、かなりの数字の違いが見られます。 この50万円という数字は根拠はなく、やはり医療費を大きく見せる宣伝ではないかと思います。

4.老人の長期入院患者の医療費は特別養護老人ホームの費用よりも低い
 前述したように老人の長期入院患者の医療費は1ヶ月平均32万7690円であり(この数字も総合病院・一般病院・老人病院全ての長期入院を含む)、一方特別養護老人ホームの措置費は23万6570円-28万1270円とされています。これを見ると特別養護老人ホームの方が安上がりと考えられますが、この措置費には入所者の医療費、資本費用、自治体の負担費用が含まれていないためで、特別養護老人ホーム入所者の医療費2-3万円、その他の負担費用を含めると一人当たり36.7万程度の試算がされ、社会的入院とされている長期入院より施設入所の方が高いことがあります。
          (1-4 日本の医療費;二木 立著より)

 これらの現状を考えると、今後到来する核家族化、高年齢化、小子化時代には、寝たきりや常時看護・介護を必要とするお年寄りは、減ることはなくいわゆる「社会的入院」も減らないと思います。厚生省の言うように「社会的入院」をしている医療機関を減らし(病床削減)、この患者さんたちを老人保健施設、特別養護老人ホーム、長期療養型病床群の病床に移しただけなら、医療費の削減の変わりに、介護福祉費の増加が目に見えております。医療福祉全体としては変わりません。それならばもっと多くの方が安心して治療継続の出来る施設を増やす必要があるのではないでしょうか。


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