穀菜食が体の自然性を目覚めさせることによって、私達をより健康にさせてくれ、その反対に動物性蛋白食が私達の健康を悪化させてしまうという事実は、「消化」という新しい理論によっても、はっきりと裏付けられることができます。
「ガンは恐くない」の項目でお話したように、消化とは、取り込んだ食物を分解・吸収するだけの働きではなく、それを質的に転換させ、発展させることです。つまり、食物という物質が、体細胞という生命体になるための手続きが消化なのです。
この消化プロセスをスムーズに進行させるのが穀菜食なのです。素材としての炭水化物・粗蛋白・類脂肪などが供給されると、体蛋白の合成が滞りなく順調に行われます。これが、順調に行われるということは、よけいな老廃物が産出されず、健全な体蛋白がつくりだされるということです。これが健康作りの基本的な条件といえます。
ところが、肉、卵、牛乳といった動物性蛋白は、素材ではなくて、いわば既製品の蛋白質です。ですから、これを自然の消化のルートに乗せるわけにはいかないので、いろいろな無理や混乱を生じさせてしまうことになります。また、それによって、正常な体蛋白合成能力も減退します。肉・卵・牛乳を多量にとっている人にガンが多発しているのも、当然の成り行きです。
世界のどの民族も、どの人種も、自分たちが住んでいる土地で、もっとも豊富に生産され、しかもそこでもっともよくバランスのとれた食物を、一番多く食べています。その食物が主食です。
そして、その土地に住む人々の生理は、その人々が先祖代々、もっとも多く食べ続けてきた食物である「主食」が、非常に効率よく「血となり肉となる」ようにできあがっています。つまり「食物に対する適応」ができあがっているわけです。
ですから、この主食を中心にした食生活は、しごく当然な食生活のスタイルであり、また望ましいものなのです。
ところが、現代栄養学によって、主食中心の食生活にたいして、大変筋違いの横やりがはいって、日本人の食生活全体がおかしくなってしまいました。
西洋文明が入ってきた当時の日本の状況と日本人の国民性によって、西洋文明の洗礼を受けた途端、西洋文明全てが至上のものだと、はやとちりしてしまったのです。そんなわけで「先進国では、主食・副食といった観念がほとんどなく、肉と野菜をたっぷりとって、そこに少量のパンを添えて食べるだけだ。」とか、「穀物の摂取量が多い国ほど後進国だ」などという意見が盛んに出てきて、日本人は肉食偏重へと傾いていったのです。
現在でもその考えは日本だけでなく世界中に広がっているようで、特に自由経済の形態を取り始め、先進国の資本・技術導入により急速に経済発展している中国や、東南アジアでは、肉の消費が大幅に伸びており、そのため家畜に与える資料が不足してきたため、アメリカからその不足分の補充のために家畜の飼料のための穀物が大量に輸入されるようになっています。
しかし、主食中心食が低級な食形態などということは決してありません。食形態がよいか悪いかは、それによって生きている人間の健康状態がよいか悪いかによってきまってくるのです。体位の向上は必ずしも、健康状態の向上にはつながらないし、むしろ逆の結果を引き起こしていることのほうが多いといえます。
人類は大別すると、牧畜民族と農耕民族との二つになりますが、摂取量に差があっても、このどちらの民族においても、穀物は特別な位置を与えられており、自分の生命にとっての穀物の重要さを、どちらの民族も本能的に知っているようです。
肉類をたくさんとる民族は、主食にすることができるほど十分な穀物が手に入らない環境に生活していたために、しかたなしに、いわば、「苦′肉′の策」として、そういう食生活形態を選んだと考えられます。
今、欧米では、肉食過多のため、ガンをはじめ、糖尿病・肥満症・血管心臓病・精神病など、さまざまな慢性病に悩まされています。
それらの慢性病は、穀物を中心とした食生活をすれば、確実に治ります。人間は、上質な穀物が十分手に入る環境に住んでいれば、肉食中心の生活をする必要はなく、するはずもありません。人間はそれほどおろかではないからです。
穀物には人間の生理機能を働かせるのに必要な基礎的栄養成分がまんべんなく含まれており、それ自体で非常によくバランスがとれています。芋類及びある種の果物は、でんぷん質が主体となっており、いろいろな有効成分が含有されている点で、穀物と似た性質を持っています。実際、これらを主食にしている所もあります。しかし、これらは大量に甘味成分や水分を含んでいたり、また、有効成分が少ないといったりした欠点があります。
その点、穀物は、栄養のバランスが完全にとれているという主食の条件にぴったりとあてはまります。
私達の体質は、季節・運動・精神活動などの条件によって刻々変動しており、健康を保には、体質を微調整することが必要で、それを穀物の成分がうまく行ってくれるのです。
よく、「肉と野菜をバランスよく摂取するように。」といわれますが、しかし、これは実際問題として不可能なことです。第一、これでは、私達に必要な生理機能にとって必要不可欠な基礎的栄養成分が十分満たされません。また、肉の蛋白質による内臓への負担が、野菜では解消されるはずもなく、そのうえ、肉は血液を酸性化し、野菜はアルカリ性化するといわれますが、肉によって生み出される酸性物質が、いったいどのくらいの野菜を食べれば中和できるのか、見当もつきません。
つまり、肉と野菜でバランスをとることは、無理なことで、実際にはできない相談です。
日本で主食にする穀物で一番ふさわしいものは米です。
米は、日本人の生理にも、好みにも、最もよくマッチしている食べ物だといえます。
なぜなら、日本の気候が稲作に非常に適しており、日本人の味覚にぴったり合っており、おいしく感じられ、貯蔵性が非常にすぐれているからです。
そして、私達の祖先は、本能的に、米が体の基本的な栄養上の要求を最も効果的に満たしてくれるものであり、日本人は米だけで生きていくことができる、ということを知っていたのでしょう。
しかし、米といっても玄米でないとだめです。
なぜなら、玄米には、胚芽や糠(表層の部分)が残っており、それらの部分にこそ有効成分のほとんどが含まれているからです。
そして、玄米と白米の決定的な違いは、玄米は生きており、生きている限り腐らない。一方、白米は死んでおり、胚芽や糠の部分をとられた時点から酸化(腐る)が始まります。白米は文字のとおり「粕」なのです。