惨敗した経路をたどって

〜〜〜 コンピュータ将棋5 〜〜〜

平成7年卒 山下 宏

1.東京ベイエリアでの戦い

 1996年1月20日、第6回コンピュータ将棋選手権が、前回同様、東京ディズニーランド側のシェラトン・ホテルで行われた。

 今回からは参加人数が25と増えたことにより初の2日制となり、初日はスイス式7回戦による予選、2日目は前回3位までのシードと予選5位までの計8チームによる総当たりリーグとなった。

 対戦ルールは、使用するコンピュータは自由、持時間が30分切れ負け、千日手や、300手以上の対局は引き分け、というものである。

 この大会も、だんだん「魅せる」ことを目的とするようになったようで、今回は大盤を2組用意して随時、対戦の解説がプロ棋士の方々で行われる豪華さであった。

飯田五段によるものが主だったが、途中からは飛び入りで田中寅彦九段や武者野六段が無償で解説して下さり、観戦者はもちろん、対局者も楽しめる内容であった。

 私のプログラムの名前は「YSS 6.0」で、C言語で書かれており約23000行ある。

今年でバージョン番号は 6.0 にもなる。1.0 は6年前にPC-88SR上でBASICで動いたもので、当時は実際に駒を動かさずに指し手の見かけ上の評価だけで指す代物であった。

 ちなみにYSSとは「Yamashita Shogi System」の略で、当時の安易なネーミングの結果である。今回の実行機種は Pentium 166MHzを積んだ DOS/Vマシンを使用した。このパソコンは大会一週間前に秋葉原でパソコンショップを30件近く回ってようやく手に入れた最新型のもので、俗に言うショップブランドというやつである。

 YSSは前回3位だったので、予選免除。初日は高みの見物でのんびり過ごした。

 予選には22のソフトが出場し、柿木将棋が予想通り7戦全勝でトップ。

本戦に残れるかどうかの5位争いがし烈で、前回4位の丹頂が予選落ちしてしまった。

丹頂はノートパソコンのバッテリーが切れての負けや、宗銀との300手超千日手で引き分け、など不運が重なっていた。

また、予選では第1回の優勝ソフト「永世名人」も招待で出場していたが4勝3敗の成績しか上げられず、大会のレベルが上がっているのがうかがえる。

 2日目。本戦に入り、YSSは下位4ソフトには、ラッキーにも4連勝。内容は怪しい物が多かったが相手のミスの多さでこちらに幸いしている。

 4回戦の矢埜将棋戦では第1図から▲4二飛、▽3二歩、▲3三角成、▽同桂、▲3二金、▽同飛、▲3一銀以下の19手の即詰に討ち取って勝っている(当然、私は気づいていない)。

 これだけ長手数の詰将棋が解けるようになったのは、パソコンのメモリが増えたため、今までに読んだ局面を全て記憶できるようになったからである。

 詰将棋を解く時には、最初に1手詰があるかどうかを調べる。で、なければ3手詰を調べ、以下5、7、9手と順番に深く読んでいく。そして5手詰を読んだときに詰む(又は、詰まないと)わかった変化はそれ以後の深さでは読まずにすませている。こんなことは人間にとっては当然だろうが、その「当然」がコンピュータには難しい。

 なにか、ちょっとしたことをきっかけにコンピュータ将棋は進化している。ただ、その「ちょっとした」こと、がコロンブスの卵でなかなか大変なのだが。

なお、「新扇詰」の873手を解いた東大OBの脊尾氏のプログラムのように超長手数を読むものは、見込みがありそうな手だけを読む、という方法を使っている。

第1図

後手:矢埜将棋

後手の持駒:歩三 

先手:YSS 6.0

先手の持駒:飛 銀二 歩 

手数=88 △3一飛打 まで

 YSSは5回戦で金沢将棋と対戦した。相手も4連勝していて全勝同士の対決である。金沢将棋は前回まで3連覇してきた「極」の名前が変更したもの。個人的には「極」の方が好きだったのだが、いたしかたあるまい。いろいろゴタゴタがあったようで、今は作者の金沢伸一郎氏は「KIWAME(株)」という会社を作ってしまっている。なにはともあれ、このソフトの四連覇を阻むのが参加者全員の目標であろう。

 序盤はお互いほぼ同型の矢倉に組み合い、歩交換の後、YSSが玉頭から動いたのがはっきりまずく割銀を打たれてはやくも受けに回る将棋に。

 第2図はYSSが取りあえず歩を叩いてみた局面である。▽同飛ならば▲8六角が飛車に当たるので面白いと思ったのだが金沢将棋は▽7二飛。

 一見、次の▲8三銀が厳しくて逃げ間違ったかと思えたのだが、仮に以下▽4二飛、▲8二銀成、▽同飛、と進んでみると次の▽8七歩成と▽6七銀の王手が厳しく、はっきり負けになる。

 に、してもどのみち、この局面で攻めにいく事自体が大局観的にまずい。こんな不安定な玉形では攻めにいくと駒を渡す反動が大きすぎるのである。まずは自陣の隙を消すべきであろう。受けてもきりがない時は別だが。そこの辺の判断も組み込まないと勝てないだろう。

第2図

題名:第75手、△8六歩に▲5三歩打です。

後手:金沢将棋

後手の持駒:歩二 

先手:YSS 6.0         

先手の持駒:銀二 歩

 どうも、以前から極(金沢将棋)には相手のミスを期待するアルゴリズムが入っているように見える。これは相手の応手を限定している場合(駒交換において同〜のみを読むような場合)に生じうるが、それだけでは弱くなってしまう。

強くてさらに相手のミスを待つ。将棋プログラムにかける執念が感じられる。

 以下、金沢将棋にミスらしい手はまったく出ずきっちり寄せきられてしまった。

この「ミスらしいミス」が出ないところが強い所である。1局の将棋で3級以下のミスが3回でるようだと初段とは言えないだろうが、今回の金沢将棋はYSS戦において中盤以降、1級以下のミスが出なかった。2段以上を上げてもいいと思えた。

第3図にて、適当な受けがなくなったYSSは▲4二と、と形を作って(と、コンピュータは思ってはいないだろうが・・・)▽7六角から15手詰に討ち取られた。

第3図

題名:第122手、▲8八歩打に△6九龍です。

後手:金沢将棋

後手の持駒:角 銀二 歩 

先手:YSS 6.0

先手の持駒:歩三 

少しうれしいのは、ようやくコンピュータも形作りが出来るようになった、ということである。実際、負けた将棋は全て、まがりなりにも1手違いになっており、ある程度のレベルまで達しているな、と感じさせた。

思考時間

YSS   10:09

金沢将棋 33:01(手入力を含む)


 6回戦は森田将棋6と対戦した。

今回、森田将棋と金沢将棋は(Alpha AXP/300MHz/128MB)というマシンを持ち込んできており、だんだんハードが普通のパソコンから離れてきてしまった。

来年は並列コンピュータが登場する!という噂もあり、将棋専用マシンが登場するのも時間の問題かもしれない。

 戦形は予想通り相矢倉。対戦相手によって戦法を変える、言うなれば1戦ごとに異なるプログラムを使用するのは許されており、金沢将棋は「柿木」「森田」に対しては振飛車なのにYSSに対しては居飛車であった。過去の対戦から戦法を選んでいるようで油断できない。

 と、こんな事を書くのは実は必ず弱い方で、強い方は恐らくどんな戦法やっても勝つよ、と思っているであろう。ただ、ぐだぐだ言ってるのは振飛車にしてくれたらYSSは居飛穴になって面白いか、と考えていたから。

 居飛穴にする最大の利点は「王手がかからない」、これにつきる。人間と一緒である。

理由は少しコンピュータ的だが、王手がかかる陣形だと、どのタイミングでも常に王手(ただ捨てを含む)が、かかってしまうため、直線的な読みがしにくくなるのである。

 例えば7手読みのプログラムで7手目に王手飛車がかかる変化があったとしても、どこかで1回、角を打って王手されると、▲(角での王手)▽(その受け)と、2手の交換が絶対に入るため7手目の王手飛車が読めなくなってしまう。

 さて、このように少しは戦形のことも考えていたのだが森田将棋だけは相変わらず、戦形ごときで勝敗が決まるようなのは真の強さではない!とばかりに何がなんでも最初に3二金と指していた。(案の定、金沢将棋には振飛車にされて美濃囲いvs.カニ囲いで、陣形の差で一方的に不利になっていた。ウーム)

 森田将棋との対局はがっぷりの相矢倉から第4図。

 次の▲7四歩の桂殺しが見えているのであわてたYSSが1四に打った歩を突き捨てた局面。が、森田将棋は意表の▽同角!

 以下、▲1四香の田楽刺し(これは痛い!)に角を成りこみ、さらに馬まで捨てて嫌らしく迫ってくる。

第4図

第64手、▲1六飛に△1五歩です。

後手:YSS 6.0

後手の持駒:香 歩 

先手:森田将棋6

先手の持駒:香 歩 

 どうもまだ今のコンピュータ将棋では少々無理筋でも相手陣をバラバラにして、小駒でじりじり攻められると、攻め合いにいって駒を渡してしまい、受け間違って負ける傾向にあるようだ。以下も難しい将棋だったが第5図での▽7五金が次の▲1二飛!の詰めろ(必死)を読み抜けていた手で、以下数手王手をした後に投了となった。

 相手の必死は7手必死ぐらいなら読むのだが自分の1手必死すら読んでないのは、まだまだ甘い、と言わざるを得ない。

第五図

第118手、▲3四桂打に△7五金打です。

後手:YSS 6.0

後手の持駒:銀 桂 香 

先手:森田将棋6

先手の持駒:飛 歩六 

手数=118 △7五金打 まで

思考時間

森田 23:44

YSS 17:17

 最終戦は柿木将棋と。対戦すると負けそうなので密かに予選落ちしてくれないかな、などと甘いことを考えていたのだが、ぶっちぎりの7戦全勝で予選を抜けてきて、ここまでも金沢将棋に負けただけの1敗だけ。ただ、前回順位の関係で、この時点で柿木将棋にはもう優勝の目は消えていたが。

 途中、柿木将棋に焦点の歩の好手がでて第6図。次の▽4八と(角殺し)が見えているのでYSSはここから▲4四角成▽同金▲5三銀▽4五金▲同銀、と暴れ回る。

ここで当然、▽同飛成と銀を取ると思ったのだが、金を渡すと、▲8三金(ださい手だが)と打たれて実は飛車が死んでおり、それを嫌って柿木将棋は▽8二飛と逃げた。

第6図

題名:第88手、▲6八銀に△4九飛打です。

後手:柿木将棋

後手の持駒:なし

先手:YSS 6.0

先手の持駒:歩三 

 以下、YSSが小駒でべたべた攻めていき、第7図となっては切れ筋の無謀な攻めがいつの間にか手になって逆転している。

 この4四に歩を垂らした手が私好みのと金作りで、ここでは勝ちを確信していた。

 すでに森田将棋は金沢将棋に破れており、「また5勝2敗で3位かー。柿木さんは前回順位が響いて来年も予選からだなー」と不謹慎にも考えていたが・・・。

第7図

題名:第113手、△2二龍に▲4四歩打です

後手:柿木将棋

後手の持駒:銀 桂 香 歩 

先手:YSS 6.0

先手の持駒:なし

 で、この将棋の最大のハイライトが第8図。▽7七歩の「打ってみただけ」な手に対してYSSはかっこよく詰めろの▲3三飛。しかし、YSSはこれを必死と錯覚していた。

 詰筋は▲1三桂成が第一感だが、実は▲2二成銀からも詰む。で、YSSはこっちの方だけを読んでおり、▲2二成銀を直接受ける手がないので必死と思ったのである。しかし、実際の所▽2四銀等は▲同金で全然だめなので、受けるなら▽4五馬くらいか(難しい)。

 ここから柿木将棋に素晴らしい手がでる。▽7八歩成▲同玉までは当然として、ここで▽6九銀!が絶妙の勝負手である。

この手が指された瞬間、「やった!とうとう受けがなくなって爆裂してくれたか!」と思ったのだが(多分見ていた全員そう思っていたであろう)

まあ、取りそうな▲同玉に▽3六馬!が一連の好手で、連続王手で必死の要の駒の25桂を取られてしまった。

第8図

題名:第147手、△7七歩打に▲3三飛打です。

後手:柿木将棋

後手の持駒:銀 桂 歩三 

先手:YSS 6.0

先手の持駒:なし

手数=147 ▲3三飛打 まで

 第9図となっては、次にYSSの▲4四角(詰めろ龍取り!)が入れば勝ちだが、ここでは

既に、後手の▽4六桂の詰めろで明確に1手負けになっている。この桂が打たれたときはちょっと呆然としてしまった。以下、▲6八金と受けた(つもり)に▽4八銀からきれいな11手の即詰である。

第9図

題名:第166手、▲5九玉に△4六桂打です。

後手:柿木将棋

後手の持駒:飛 銀 桂 歩三 

先手:YSS 6.0          

先手の持駒:角 香 歩二 

 結局、上位の3ソフトには3連敗してしまいYSSは4位に転落。優勝は金沢将棋で四連覇。二位以下より角一枚強いと思わせる安定した内容であった。

思考時間

YSS 11:16

柿木 20:52


2.パソコンの進歩と発展途上の将棋プログラム

 現在のYSSは、ごてごて付け足していった結果、自分自身でも構造がどうなっているのか一目でわからない、というやっかいな代物になっている。

 また、今回は今まで一番改良にかけた時間が少なかったので自信はなかった。運がよけりゃー・・・、てな感じだったが結果は惨敗。努力の成果は如実に現れるものらしい。

 私が作っているプログラムの基本方針は「自分が考えている事を全てぶち込む」ことである。実際、自分自身で将棋を指すときの思考など、とってもちゃちいもので、この程度なら簡単に組み込める!とも思えるのだが、なかなかどうしてうまくいかない。

 特に終盤などは、純粋に、「詰がないか」「受けがあるか」などを読んでるだけなのでコンピュータ向き。また膨大な「手筋」などは、結構簡単に一般化できてしまう。「3手の読みによる駒捨て」などはもう楽々読んでしまう。

この内、コンピュータに難しそうなのが「取りあえずこうするだろう」といった手を指させることである。「負けてもこう指す」なんてのも難しい。そう指して実際に負けるようだともっと難しい。コンピュータに「気合い」を理解させるのは、まだ時期尚早か。

 今回のYSSで探索の読みの深さは基本的に7手読み。駒交換が行われる場合や、一時的に損をする手を指す場合は8〜13手まで延長して読む。

 高々7手程度の深さまで読むだけで初段程度の棋力を持ちうるのか?

それは、局面の評価関数が正確になってきた、というのが大きい。金沢将棋(極)が強いのは、精度が高い評価関数の作成に成功しているため、と考えている。また一直線の読みの採用に成功しているようにも見える。

 もう自分自身と互角の勝負が出来るようにならないと選手権での全勝優勝は難しい。

 部員がたりない将棋部の6、7将に、コンピュータが置ければ、結構いい勝負をするだろう。

 現在のYSSで毎秒1万局面、優勝の金沢将棋だと3万局面を読む。3年前YSSは千局面程度しか読めなかった。

 ちなみに最近チェス名人のカスパロフ(ロシア)に1勝3敗2分で破れたIBMのチェス専用マシン「Deep Blue」は毎秒2億!手を読む。

 金沢将棋の約6600倍である。将棋の平均可能手数を81手程度とするならαβで探索するとして1手深く読むのに必要な速度は81の平方根で9倍。つまり9倍速いマシンを使えば1手深く探索できる。ゆえに9*9*9*9=6561で4手深く読めることになる。

 そのとき、私は勝てるだろうか?。はっきり言って自信はない。恐らく序盤で楽勝にはなるだろう。が、コンスタントに13手程度までを正確に読まれると終盤は怖い。空中戦など絶対にできない。

 現在、もはやコンピュータが一番弱いのは序盤である。五年前までは取りあえず形に組める序盤が一番強かったのだが、その強力な「読みのスピード」を武器にして、現在は終盤が一番安心できる状況になりつつある。

 しかし、コンピュータ将棋の棋力が、パソコンの速度の進歩にだけ依存していくようでは情けない。そんな程度の代物なら、製作意欲はなくなってしまう。そのためには、それを証明すればいいのだが・・・。

現在の課題の一つに、どこから局面を終盤と判定すべきか、という問題がある。

 現在のYSSでは、探索を始める前に、双方合わせて、香以上の持駒が3枚以上ある場合、または相手陣に侵入している駒が合わせて2枚以上、又は1枚でも侵入していて、持駒2枚以上ならば終盤、と判定して評価関数をがらっと変えている。持駒2枚、で微妙なのは序盤の角交換でいきなり終盤と判定しないようにするためである。

 終盤の評価関数は、具体的に言うと自陣の駒が剥がされるのを嫌がり、相手玉の近くの自分の金銀の価値を上げている。また、双方の王から離れた遊び駒の価値がガクンと下がるようになっている。

 このため、中盤の仕掛けの時点(ここではまだ序盤の評価関数)から、7〜11手の探索をした場合、探索後の駒交換が行われた局面では終盤の評価関数で評価すべきなのだが、ここを序盤の関数で評価してしまうため、歩得なら喜んで自陣の駒(金銀)を剥がされる変化を選んでしまう。

 そして駒を剥がされて、ようやく終盤感覚になるわけだが、既に手遅れなのである。

 探索途中で評価関数を変えればいいじゃないか、と思われるかもしれないが、それは出来ない。そんな事をするとMIN・MAX法が成り立たない探索になってしまう。やってみれば意外と成功するかもしれないが。

 次に水平線効果。これは、7手読みのコンピュータにおいて、6手目に銀損する場合、無意味な飛車先への歩の叩きをすることによって6手目の銀損が8手目に延ばされ、「歩損しかしないや!」と判断してしまうことである。かなり改善されてきたが、まだ完璧ではない。

 が、実は人間もまったく一緒かもしれない。例えば矢倉戦では歩を突き捨ててから大きな駒の交換に入る。手が続くから、というのが理由だが、これも立派な水平線効果である。もっと深くまで読めば、結局、1歩損だった、となりうる。

 極論的に言えば、「負け」になった局面で指す手は、みんな水平線効果である。分かりやすい「負け」を、先延ばしにしているに過ぎない。

 いずれにしてもまだ、改善すべき所は雨後の竹の子のごとく現れてくる。

現在、考えているアイデアは囲碁のプログラムを作ろうとして思い立ったのだが、局面を局所的にとらえて、その要素々々を分析していき、その小さな要素同士を結びつけて大きな要素にしていき探索する方法である。人間も将棋盤を眺めたとき、最初にこういった分析作業を行っているはずである。その分析には局所的な読みも伴っている。ただ、これも書くのは簡単だが成功は不明である。


3.コンピュータ将棋を作ってみよう!

将棋プログラムを作ってみたいなー、と思っているあなた。まずは作ってみましょう(^_^;)

コンピュータ将棋選手権で優勝するようなものを作れば印税生活も夢ではありませんよ。

青葉譜の読者なら将棋の知識は充分にあるでしょうから、後はプログラミングの知識が最低でも必要になります。

できればC言語が多少は使えるといいですね。BASICでももちろんOKです。

最近ならVisual Basic、JAVA、Delphiなんかでもいいかも知れません。(触ったことはないですが)

まず、以下の事が出来たらそれ以降の文章を読み進めましょう。

「将棋盤を表示する」

これはとっても大事なことです。

さて、ここでデーター構造を考えましょう。

将棋盤は9×9ですから9×9の二次元配列があるといいですね。

将棋盤は右上隅が1一の(x、y)座標ですが、コンピュータ向きではないので

左上隅を1一、右下隅を9九とする(x,y)座標とします。

つまり▲7六歩は▲3六歩(xが反転する)となります。

わかりにくいですが無視して先に行きましょう。

これを仮に ban[10][10] としましょう。なんで[10]なのかって?

それはC言語の場合[9]とすると配列の中の添字として使えるのは[0]〜[8]までの9個となってしまうからです。やっぱりここは実際の数値と同じ1から9までを使うために1つ多い10を使います。

 既に頭がスパゲッティになって、もうあきらめた人も多いでしょう。

では、トドメをさすために、実際にYSSで使っている盤構造を紹介しましょう。

YSSでは ban[256] という一次元の配列にして、(x,y)を y*16+x で表して処理しています。例えば▲7六歩なら

ban[0x63] = 歩の駒番号。(0x63 の頭の 0x はその数値が16進数であることを示します)

としています。駒番号とは全ての駒に1〜40までの番号を振ったものです。

次に戻って先手の駒の種類の番号は以下のようにします。

歩 香 桂 銀 金 角 飛 王 と 成香 成桂 成銀 − 馬 龍

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15

後手の駒はこれに16を足したものにします。

例えば後手の飛は23(=0x17、16進数を使いたいために16を足します)

上の表をよく見ると成駒は元の駒に8を足したものになっているのにも気づくでしょう。

これで初期盤面を表すことができます。

以下はC言語で書いてみます。

ban[10][10] = {

{ 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0 }, /* 0行、0列目は使わない */

{ 0,18,19,20,21,24,21,20,19,18 }, /* [1][...] y=1 */

{ 0, 0,23, 0, 0, 0, 0, 0,22, 0 }, /* y=2 */

{ 0,17,17,17,17,17,17,17,17,17 },

{ 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0 },

{ 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0 },

{ 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0 },

{ 0, 1, 1, 1, 1, 1, 1, 1, 1, 1 },

{ 0, 0, 6, 0, 0, 0, 0, 0, 7, 0 },

{ 0, 2, 3, 4, 5, 8, 5, 4, 3, 2 }

};

ここでban[y][x]と格納していることに注意して下さい。

つまりban[8][2] で、先手の角の位置を示しています。

忘れてならないのが持ち駒です。これを

sente_mo[8], gote_mo[8]

としましょう。

先手が銀を3枚持ってるときは sente_mo[4] = 3 となります。

そして表示する駒を

char *koma[32] = {

" ","FU","KY","KE","GI","KI","KA","HI","OU","TO","NY","NK","NG","","UM","RY",

" ","fu","ky","ke","gi","ki","ka","hi","ou","to","ny","nk","ng","","um","ry"

};

と、すると

hyouji()

{

int x,y,k,i;

printf(" 1 2 3 4 5 6 7 8 9 \n");

for (y=1;y<10;y++) {

printf("%d:",y);

for (x=1;x<10;x++) {

k=ban[y][x];

printf("%s",koma[k]);

}

if ( y==1 ) {

printf(" 後手:");

for (i=1;i<8;i++) printf("%s %x:",koma[i+16],gote_mo[i]);

}

if ( y==9 ) {

printf(" 先手:");

for (i=1;i<8;i++) printf("%s %x:",koma[i],sente_mo[i]);

}

printf("\n");

}

printf("- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - \n");

}

ここまでで、一応将棋盤が表示されます。

で、コンピュータに将棋を指させるためには、駒の動かし方を教えなければなりません。歩ならば、ひとつ前方に、飛車なら障害物にあたるまで上下左右にずーっと。といった具合にです。この作業がまた大変なのですが、そこは地道に頑張ります。

これが出来ると、ようやく乱数を使った「棋道戦士ランダム」が出来上がります。

後は、実際にコンピュータの中で将棋盤を動かして「読む」、いわゆる探索する部分を作ります。コンピュータが1手指して、人間が指して、・・・という具合に手を読ませるわけです。ここまで出来れば後は改良あるのみ。コンピュータ将棋選手権を目指しましょう。


4.あとがき

 今回、大会には岩手大の山田泰広さんが初めて参加している。同じ東北学生棋界からの参加ということでうれしい限りである。今回は調整不足から予選最下位であったが、捲土重来を期待したい。

 また山田さんは最近はやりの「インターネット」上で将棋のホームページを作っている。これが気合いが入っていて、おまけに東北学生将棋連盟の紹介まであるので是非一度御覧いただきたい。

アドレスは

http://www.cis.iwate-u.ac.jp/~wtai/shogi/shogi.html

である。

そのうちAI将棋Uがでる予定なので、弱さを笑って欲しい。ただし、もし負けたなら、大いに(私が)笑って青葉譜紙上で名前をさらし者にするつもりなので、ゆめゆめ油断なされぬよう・・・。

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   第6回コンピュータ将棋選手権の結果

1.参加者

 開発者     プログラム名   機種(CPU/クロック) 使用言語

-----------------------------------------------------------------------------

1.*金沢 伸一郎 金沢将棋      (Alpha AXP/300MHz) C

2.*森田 和郎    森田将棋6  POLY Alpha 300F(Alpha AXP/300MHz) C++

3.*山下 宏     YSS Ver. 6.0   DOS/V(Pent./166MHz) C

(以上、シード)

4.*SPEC.(株) 丹頂under励棋 PC-9821Ne(486DX4/100MHz) ASM,C,C++

5. 矢埜 雅俊    矢埜将棋II    PC-9821Xa13(Pent./133MHz) ASM

6.*柿木 義一   柿木将棋 PowerMac8500(PPC604/120MHz) C

7. 小泉 健 宗銀 PC-486NAS2(486/25MHz) C,ASM

8. 天野 兼一   天野将棋0.8 PC-9821Xa(Pent./90MHz) C

9. 橋本 知弘    スーパー橋本将棋 X68K(68000/10MHz) ASM

10. 高田 淳一    高田将棋 Ver. 2.2 PB5300cs(PPC603e/100MHz) C

11.*関田 修由 関田将棋2 DOS/V(Pent./120MHz) C++

12. 若林 茂樹 ハイパー将棋1.5 PC9821Xa(Pent./120MHz) C

13. 黒田 久泰 スーパー将棋 DOS/V(Pentium/100MHz) C

14. 東京農工大小谷研 shouchan Gateway2000(Pent./133MHz) C

15. 菊池 尚     菊池 1.20     IBM750(Pent./90MHz) C++

16. 森博、大崎正幸 OM-1 Ver.1.1 PC-9801NA/C(486SX/20MHz) C

17. 椿原 治     椿原将棋 PC-98(486DX2/50MHz) BASIC

(以下、初参加、申し込み順)

18. 森 伸幸 棋苑 Ver. 1.0 DELL Opti.(Pent./90MHz) C++

19. 丸山 徹 丸山将棋Ver0.1 FMV-475NU/S(486DX4/75MHz) C++

20. 電通大野下研 S1  IBM-PC互換機(Pent./133MHz)C

21. 吉川 創 H将棋 DYNABOOK(486/20MHz) C

22. 山田 泰広 山田将棋 Ver. 1.0 EPSONVN575ST(Pent./75MHz) C

23. 石黒 俊太郎 神無 無段 FMV-DPS(Pent./100MHz) C++

24. 上甲 尚生    J III PC-9821Xa12(Pent./120MHz) BASIC,ASM

(招待)

25.*吉村 信弘 永世名人III PC-9821Nf(Pent./75MHz)  C,ASM

-----------------------------------------------------------------------------

25チーム

(注) ・前回順位の順、初参加は申し込み順

 ・* は、ベストアマチュア賞の対象外

   ・「金沢将棋」は、「極」の後継。

   ・「スーパー将棋」は、「京都1200」の後継。

   ・"Pent.": Pentium

2.結果

(1) 予選

+-------------------+----+----+----+----+----+----+----+------+----+-----+----+

| 対局者名     |1局|2局|3局|4局|5局|6局|7局|勝敗分|ソル|SB/MD|順位|

+-------------------+----+----+----+----+----+----+----+------+----+-----+----+

| 1.丹頂under励棋  |菊池|高田|宗銀|天野|ハイ|shou|永世| 4-2-1|25.5| 14.0|  6|

|          |先○|先○| = | × |先×| ○ |先○| 4.5 |  | 8.0|  |

| 2.矢埜将棋II   |OM|関田|橋本|柿木|S1|宗銀|J II| 5-2-0|29.5| 17.5|  3|

|          | ○| ○|先○|先×| ×|先○| ○|  5.0|  | 9.5|  |

| 3.柿木将棋    |椿原|ハイ|J II|矢埜|宗銀|天野|高田| 7-0-0|27.5| 27.5|  1|

|          | ○| ○|先○| ○|先○| ○|先○|  7.0|  | 22.5|  |

| 4.宗銀      |永世|スー|丹頂|橋本|柿木|矢埜|関田| 4-2-1|31.0| 14.5|  5|

|          | ○|先○|先=| ○| ×| ×| ○|  4.5|  | 8.5|  |

| 5.天野将棋0.8   |棋苑|J II|椿原|丹頂|橋本|柿木|S1| 4-3-0|28.5| 11.5|  9|

|          | ○|先×| ○|先○| ○|先×| ×|  4.0|  | 6.5|  |

| 6.スーパー橋本将棋|神無|shou|矢埜|宗銀|天野|スー|H将| 3-4-0|26.5| 8.5| 14|

|          | ○| ○| ×|先×|先×| ×|先○|  3.0|  | 1.0|  |

| 7.高田将棋 Ver.2.2|S1|丹頂|永世|椿原|神無|ハイ|柿木| 4-3-0|29.5| 14.0|  8|

|          |先○| ×| ×|先○|先○| ○| ×|  4.0|  | 7.0|  |

| 8.関田将棋2   |H将|矢埜|神無|丸山|J II|永世|宗銀| 3-4-0|26.5| 8.0| 15|

|          | ○|先×| ○| ○|先×| ×|先×|  3.0|  | 1.0|  |

| 9.ハイパー将棋1.5 |山田|柿木|S1|棋苑|丹頂|高田|スー| 3-4-0|27.5| 7.0| 13|

|          | ○|先×| ×|先○| ○|先×| ×|  3.0|  | 4.5|  |

|10.スーパー将棋  |丸山|宗銀|shou|S1|OM|橋本|ハイ| 4-2-1|24.0| 11.0|  7|

|          |先○| ×| =|先×| ○|先○|先○|  4.5|  | 5.0|  |

|11.shouchan    |J II|橋本|スー|菊池|椿原|丹頂|棋苑| 3-3-1|23.5| 6.5| 12|

|          | ×|先×|先=| ○| ○|先×| ○|  3.5|  | 2.0|  |

|12.菊池 1.20    |丹頂|神無|丸山|shou|山田|H将|椿原| 2-4-1|18.5| 3.0| 17|

|          | ×|先×|先×|先×| =| ○|先○|  2.5|  | 0.0|  |

|13.OM-1 Ver.1.1 |矢埜|S1|H将|神無|スー|丸山|山田| 2-5-0|23.0| 1.5| 18|

|          |先×| ×|先○| ×|先×| ×|先○|  2.0|  | 0.0|  |

|14.椿原将棋    |柿木|H将|天野|高田|shou|山田|菊池| 2-5-0|22.5| 1.5| 19|

|          |先×| ○|先×| ×|先×|先○| ×|  2.0|  | 0.0|  |

|15.永世名人III   |宗銀|山田|高田|J II|丸山|関田|丹頂| 4-3-0|24.5| 10.5| 10|

|          |先×| ○|先○| ×| ○|先○| ×|  4.0|  | 7.0|  |

|16.棋苑 Ver. 1.0  |天野|丸山|山田|ハイ|H将|神無|shou| 2-5-0|19.0| 1.5| 20|

|          |先×| ×|先○| ×|先○| ×|先×|  2.0|  | 0.0|  |

|17.神無 無段    |橋本|菊池|関田|OM|高田|棋苑|丸山| 4-3-0|19.5| 9.5| 11|

|          |先×| ○|先×|先○| ×|先○|先○|  4.0|  | 5.0|  |

|18.S1      |高田|OM|ハイ|スー|矢埜|J II|天野| 5-2-0|27.5| 18.5|  4|

|          | ×|先○|先○| ○|先○| ×|先○|  5.0|  | 11.5|  |

|19.H将棋     |関田|椿原|OM|山田|棋苑|菊池|橋本| 1-6-0|15.0| 0.5| 21|

|          |先×|先×| ×| ○| ×|先×| ×|  1.0|  | 0.0|  |

|20.山田将棋    |ハイ|永世|棋苑|H将|菊池|椿原|OM| 0-6-1|16.5| 0.0| 22|

|          |先×|先×| ×|先×|先=| ×| ×|  0.5|  | 0.0|  |

|21.丸山将棋 Ver0.1 |スー|棋苑|菊池|関田|永世|OM|神無| 3-4-0|22.0| 6.5| 16|

|          | ×|先○| ○|先×|先×|先○| ×|  3.0|  | 2.5|  |

|22.J III      |shou|天野|柿木|永世|関田|S1|矢埜| 5-2-0|31.5| 19.5|  2|

|          |先○| ○| ×|先○| ○|先○|先×|  5.0|  | 12.0|  |

+-------------------+----+----+----+----+----+----+----+------+----+-----+----+

○:勝ち ×:負け =:引き分け  先:先手(後手は空白)

(注) ・「スー」は「スーパー将棋」、「橋本」は「スーパー橋本将棋」

 ・前回順位の順、初参加・招待は抽選順

(2) 本戦

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| 対局者名     |1局|2局|3局|4局|5局|6局|7局|勝敗分|ソル|SB/MD|順位|

+-------------------+----+----+----+----+----+----+----+------+----+-----+----+

| 1.金沢将棋    |J II|矢埜|S1|宗銀|YSS |柿木|森田| 7-0-0|21.0| 21.0|  1|

|          | ○|先○| ○|先○| ○|先○|先○|  7.0|  | 16.0|  |

| 2.森田将棋6   |宗銀|S1|矢埜|柿木|J II|YSS |金沢| 5-2-0|23.0| 10.0|  3|

|          | ○|先○| ○| ×|先○|先○| ×|  5.0|  | 8.0|  |

| 3.YSS Ver. 6.0  |S1|J II|宗銀|矢埜|金沢|森田|柿木| 4-3-0|24.0| 6.0|  4|

|          | ○| ○|先○|先○|先×| ×|先×|  4.0|  | 1.0|  |

| 4.柿木将棋    |矢埜|宗銀|J II|森田|S1|金沢|YSS | 6-1-0|22.0| 15.0|  2|

|          | ○| ○|先○|先○|先○| ×| ○|  6.0|  | 12.0|  |

| 5.J III      |金沢|YSS |柿木|S1|森田|宗銀|矢埜| 1-6-0|27.0| 0.0|  7|

|          |先×|先×| ×| ×| ×|先○|先×|  1.0|  | 0.0|  |

| 6.矢埜将棋II   |柿木|金沢|森田|YSS |宗銀|S1|J II| 3-4-0|25.0| 3.0|  5|

|          |先×| ×|先×| ×| ○|先○| ○|  3.0|  | 2.0|  |

| 7.S1      |YSS |森田|金沢|J II|柿木|矢埜|宗銀| 2-5-0|26.0| 1.0|  6|

|          |先×| ×|先×|先○| ×| ×|先○|  2.0|  | 0.0|  |

| 8.宗銀      |森田|柿木|YSS |金沢|矢埜|J II|S1| 0-7-0|28.0| 0.0|  8|

|          |先×|先×| ×| ×|先×| ×| ×|  0.0|  | 0.0|  |

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○:勝ち ×:負け  先:先手(後手は空白)

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