第6章?
決戦!水戸黄門

 相手チームのメンバー表には「水戸黄門」チームとある。なんだか間の抜けた名だな、と思いつつ正面をみると見慣れた顔がある。なるほど、もしかしてこの人物が水戸黄門か−−−。
 「水戸黄門」チームは、元東北学生名人、高橋(聡)氏率いるチームであった。
 「元主将、現部長、次期部長」チーム対「元部長、元副部長、前部長」チーム。
 東北大最精鋭チームどうしといって過言ではない。私はいきなりやる気を失った。
 これまでの実績からして、はっきりいって大将戦は勝ち目が薄い。昨年度のように高橋(聡)氏が不調ならばともかく、今年度のように好調では苦戦は目にみえている。
 負けたら二日目は棄権して三人で赤旗名人戦に出場しよう、などと不届きなことを考えつつ、私は作戦を練った。

 何ヵ月か前の対局では、中飛車の正攻法で、序中盤での細かな駆引きの末、敗れている。奇襲、はまり形などはすでに出尽くしている。得意形の居飛車風車に持ち込む他考えつかず、第1図となった。高橋氏はここで3五歩から敢然と仕掛けてきた。



第1図

後手:藤田

持ち駒:なし

持ち駒:なし

先手:高橋



 この仕掛けは無理である。しかし問題は、高橋氏が無理を承知で仕掛けてきたことにある。陣形が組上がる前の乱打戦は、私の最も忌避するところなのを知っての仕掛けなのである。

 何とか反撃が成功しやや優勢となった、が敗北の予感がしていた。
 私の身上は、受け将棋である。実力が上の相手に、攻めさせられては勝てようはずもない。
 もう一歩あれば、攻めの苦手な私にも攻めきれたろう。あるいは、損を承知で受けにまわり受けきったかもしれない。
 現実には、その一歩はない。その紙一重を見切るのが、高橋将棋の極意であるのかも知れない。高橋氏には、十分の勝算あっての、第1図であったのである。
 副将戦は、太田対古沢。太田は高橋氏以上に好調で大抵の相手には勝つだろうと、私はみていた。
 案の定、太田は序盤で飛車を捕獲し、楽勝となった。(太田は忘れていたようだが、この飛車の捕獲の筋は、何年も前の個人戦で、私がはめられた筋であった。)


 問題は先鋒戦、鈴木対中野である。部内レ−ティングの点数でみても、三組の中で最も接近している。
 鈴木は強い。安定感がありチームメイトとして信頼できる。だが、中野は更に強いといっていいだろう。その強さのほどは、実績となってこの青葉譜(青葉譜第6号)にも示されている。希望は、鈴木が中野の強さを以前から非常に高く評価しており、リーグ戦で中野とあたる都合上、その対策にはかなり腐心していることにある。私はこの勝負は、ほぼ互角と考えていた。
 鈴木は、風車ふうの凝った序盤から作戦勝ち。そのまま押し切り、結果は圧勝であった。
 「水戸黄門」チ−ムに勝ったのは、運の要素も大きく、他の組合せであれば、どう転んだかわからない。
 こうして、この1回戦を乗り切り、「矢倉三人衆」チ−ムは、何とか優勝することができた。


以上、終わり。

解説:
 「水戸黄門」チ−ムは結局2位(スイス式トーナメントのため1回戦で負けても後がある)。この第1回戦こそが、事実上の決勝戦であったわけである。当時の実力バランスからいうと、矢倉三人衆が大関級三人を集めて総合力で優勝を狙ったチームであったのに対し、水戸黄門チームは横綱級二人による全勝優勝を狙ったチームであった。
 恐らく会場で最も強いと思われる高橋、中野の両氏にいきなりあたったこちらがやる気を失ったのは当然である。でも案外、総合で最も強そうなチームの矢倉三人衆にあたったむこうもそうだったかも知れない。

第1+1/2章
終末のための幕間劇


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