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この物語はフィクションです。
葵(aoi)
僕がボイスに入っていたとき、
場違いな静かな雰囲気をもった人がやってきた。
夜5時過ぎごろだった。
すごく静かな雰囲気だったので、
「この人と本当にしゃべれるのだろうか?」と思った。
このころは、僕は自分のボイスでの位置を確立していて、
ボイスでは、有名人だった。(土日をのぞく)
で、初めてのとき、自己紹介をしてくれとせがんだ。
彼女は、「葵」と言った。そして「医者だ」と言う。
「専門は?」と聞くと、「気管支とか肺」とか言う。
葵が医者だということにまず驚いた。
葵の流ちょうな英語も驚いた。
人づてに葵のレベルを聞くと
level 4だそうだ。
葵は僕のイメージを裏切り続けた。
葵に興味を持った僕は、ボイスの時間中葵に質問していた。
わかったこと、
インターンから6年ぐらいたっている。
30歳過ぎているみたい。
自宅で、両親と住んでいるらしい。
女学院(広島では有名な私立のお嬢さん学校)の高校から、
山口大学の医学部に行ったそうだ。
市民病院で、働いている。
僕がイメージする「お嬢さん」というものに似通っていた。
ただ、医者だということと、僕に対しても気さくに話してくれる
ことぐらいか?
(普通のお嬢様は僕のうさんくささに本能的に気付く。)
ミュージカルが大好きで、休みの日に、母親と、京都まで、
ミュージカルだけを見にいくツワーがあって、それに参加して、
ミュージカルを見たそうです。
一番好きなミュージカルは「レ・ミゼラブル」
日本でも、イギリス(多分ロンドン)でもみたそうです。
「どうして、ミュージカルが好きなのか?」
『僕はミュージカルが基本的に嫌い・・・』

聞いてみると、劇の中で歌を聴くのが好きだそうです。
(英語でも日本語でも関係ないらしい)
クリーム色のコートに、男の子が着るような、ストライプの入った。
カッター(ブラウス)、革らしいブーツをはいている。
背はかなり低い。
髪もそんなに長くなくて、ストレートで黒い。
縁のない眼鏡をかけている。
『僕は眼鏡フェチかもしれない。』
最初に
「いつもいるんですか?」聞かれたので、
「土日以外毎日。」さも驚いた表情をしていた。
「隣に来る?」と誘ってみると、隣に来てくれた。
グループ・トーキングとか、ディスカッションとか、機会があるたびに、
葵と組めるように努力した。
横に座ってくれると、以外と簡単。
「どれぐらい英語勉強するの?」
「私はほとんどしてない、恥ずかしいことだけど。」
「でも、英文で論文とか書くんでしょう?」
「まあ、ね。でも、ほとんど、偉い人の論文を参照して書くから、
そんなに苦労はないの・・・」
「普通の論文はそうだ・・・」
「まあ、そうなんだけど・・・」
あと、カルテの電子化とか聞いたら、
市民病院はイントラネットではあるらしい。
処方とか、投薬とか、コンピュータで管理されているみたいで、
電子署名みたいなもので、「・・・を投薬した」
というようなデータを管理しているらしい。
カルテの電子化はかなり難しいらしく、
「私は下っ端だから、上の言うことを聞くだけ・・・」とか言っていた。
コンピュータにルースな人たちは、
画面を、開けたまま席を離れることがあるらしい。
やろうと思えば、データの買い替えとかもできるそうだ。
また、専門知識があれば、このデータを見るだけで、
患者がどんな状態かもわかるらしい。
『いずれにしても、コンピュータで管理するのは難しいのね・・・』

エピソード1
ある火曜日にかなりボイスに早くやって来て、
「途中で抜け出してきた。
私の交代の人が、ちゃんとやってくれるわ。」

かなり投げやりで不愉快そうだった。
(勿論こんな葵を見たのは初めて)
すごく近親感が湧いた。
「葵のイメージは基本的に高嶺の花」
あるとき、ばかなおやじが訳のわからないことをしゃべっていたら、
「うそ・・」という押し殺した声が聞こえた。
葵を注視しているので、その変化に驚き、
おやじがしゃべってにもかかわらず。
小声で、「なぜ?」と英語で聞いた。
葵はささやくように、僕に言った。
僕が聞こえないから近づくと、ほんとに、耳打ちするように、
言ってくれた。
2人で秘密を共有しているように思えてとてもうれしかった。
『葵が何を言っているのかはわからなかったけど。』
それからはもう、ボイスで何が起ころうと、基本的には、
葵しか目に入らないし、ボイスを無視して、
葵と話したりもする。
エピソード2
ある日最後の授業を終えて帰ると、
受付に、葵がいた。
推薦状の紙を持っていた。
「level 3?」と僕が聞くと
うれしそうに
「そうなんです・・・」と言う。
馬鹿レセプショニストが、
「かなり早いんですよ・・・」と言うと、
その通りだと思いながら
「おめでとう」と言った。
「ありがとう」と言う。
多分、英会話学校の生徒で、
彼女を最初に祝福したのは、僕だと思う。
エピソード3
ボイスチケットが終わって、最後の授業(8時20分)を受ける前、
葵がやって来た。
(彼女は、病院の仕事がいつ終わるかわからないので、
最後の1コマだけ授業を受ける)
「どうして、ボイス来ないんですか?」と怒ったように言う。
「チケットが無くなったんだよ。就職が決まれば、買うけど・・・」
「そうなんですか・・・」
何か残念そうだった。
4月15日火曜日
僕は、6階のオープン・スペースで授業を受けていた。
葵がくるのが見えたので、
授業中にもかかわらず、手を振っていた。
(もうlevel 5だったけど)
葵も手を振ってくれた。
level 3 用の、レジメを見たり、
小さい(A6)ぐらいの手書きの手帳を見たりしていた。
授業そっちのけで、葵ばかり見ていた。
『英語の授業なんかどうでもいいの・・・』
終わって、葵に駆け寄って、
「元気?」とかたずねる。
「英語で話さない?」とか言うと、英語で話してくれた。
先週の休みはテニスを同僚としたそうだ。
" I like to play tennis."とか言う。
"how often?"と聞くと、
恥ずかしそうに
"once or twice a year"とか言っていた。
広島にキャッツがくるので、それについて聞いてみた。
母親と友達と行くそうだ。
"Did you get ticket?"とか聞くと
ここだけ日本語で、
「公務員特別枠・・・」と言った。
『市民病院の職員は公務員なのね・・・』
それから、葵は英語で、"I bought Voice ticket 3 units."
と言った。
僕は、ほとんど本気で、就職して、
ボイスチケットを買うことを約束した。
楽しい時間はあっという間に終わる。
10分間しかない休憩時間を恨めしく思った。
僕はそれで、授業は終わりだった。
9月16日(水曜日)
目ぼしい授業も何もなく、20時ころに帰ると、
シャレオ(紙屋町近くの地下街)に葵がいた。
似たような、女の子を見ると、すべて葵に見えるときがあった。
でも、実際に葵だった。
英会話の授業は遅刻の時間だった。
「ちょっと同僚とのみに行くの。」
「へえ、明日はお仕事?」
「そうですよ、いつも通り。」
「じゃあ、あんまり飲み過ぎないようにね。」
「そうですね。・・・」
そして、手を振って別れた。
偶然にしてもでき過ぎているよね。
木曜日は最後の授業がとれなかったので、
葵には会えませんでした。
葵の不在が寂しくなっています。
『これは恋なんだろうねたぶん。』