「あなた達、そろそろ養成講座の中級を受けてみない?」

「「ええ〜〜〜?!」」








決戦!手話通訳者養成講座、せめて手話通訳らしく・・・
















アスカとシンジがサークルに通うようになって、しらないうちに月日が経っていった。なんだかみょうちくりんな理由からサークルに入会した二人であったが、いまではすっかりサークルになじんでいた。現にアスカはレクリェーション部の部員として大活躍している。もっともこれは、レクのたびにシンジを連れ出して料理当番をさせてしまおうという彼女なりの遠大な計画の一端であったのだが、知ってか知らずかシンジも毎回律義にアスカに付き合っていた。一方レイは学習部に所属し、例会や学習会の計画作成、講師のスケジュール調整といった仕事を担当していた。まあ、彼女の仕事を考えれば適材適所といえなくもないが、基本的にこうゆう仕事が好きなようである。特にこのサークルでは学習会の時は健聴者と聴障者が必ずペアで講師を担当するため、聴障会の担当者との打ち合わせが不可欠になってくる。それは自然に彼女の手話技術の上達につながっていった。

それと、彼らがサークルになじんでいったのはこのサークルが非常に家族的な雰囲気を持っているという事も大きな理由である。考えてみればエヴァのパイロットとして過酷な少年時代を過ごした彼らにとって気づかないうちに『家族』というものを感じていたのかもしれない。







経験年数と技術が必ずしも比例しないのは、手話にもいえる。手話の勉強を始めたばかりの人たちはよく『何年ぐらい勉強したら手話で話せるようになるんですか?』などと質問してくるが、そんなものが解っていれば誰も苦労はしない。実際早い人は1、2年で手話通訳ボランティアとして活躍する人もいるし、そうではない人も当然いる。幸か不幸か、アスカ・レイ・シンジの三人は着実に技術を身に付けていった。








「碇君に惣流さん、ちょっといいかしら?」


二人に声をかけたのは、このサークルの事務局長だ。

「あなた達、手話通訳者養成講座の初級コースは去年受講したでしょ?今年は次のステップに挑戦してみない?」

「「ええ〜〜〜っ!?」」


例会が終わり、あとはいつもどおり『Neonらいぶ』でお茶を飲んで・・・・などと考えていた二人(ちなみにレイは、残業のためサークルはお休み)だったが、部屋を出ようとしたところを呼び止められた。

「二人ともそろそろ受講してもおかしくないと思うの。通訳部の佐藤さんも太鼓判を押してるよ!」

「佐藤さんが・・・・ですか?」

いまいちピンと来なかったのか思わずシンジは聞き返してしまった。

この佐藤さんというのは、本職は『サザンウインド』という身体障害者授産施設の職業訓練指導課長という肩書きを持つ壮年の女性だ。ここのサークルのご意見番であると同時に県内のサークル連絡協議会や手話通訳奉仕員連絡会の中でも重鎮的存在である。B型の血液型から来る性格と真摯な手話に対する姿勢、女性にしてはダイナミックな手話表現が微妙なバランスを醸し出している。聴障者や他のサークルの会員からも慕われている。

「来月の25日が申し込みの締め切りだからね。待ってるわよ!」

そこまで言うと忙しそうに再び部屋の中へと帰っていった。サークルの事務局にとって、例会の終わった後はまるで戦場で、会員への連絡事項やなんやらで忙殺されてしまうのであった・・・・。合掌









日本に四季が戻ってきて数年が経った。セカンドインパクトの影響により地軸が傾いたため長らく常夏の国となっていた日本だが、シンジとアスカが福祉会館の玄関を出た時、そこにあったのは明らかに春の夜だった。

「養成講座の中級コースかぁ・・・。どうする?アスカ。」

「え?なに?」




「どうしたのさ、急に静かになって。具合悪いんじゃないだろうね?」

「ううん、ちょっと考えごとしてただけ・・・・・。それより早く『らいぶ』に行こ!」

「う、うん・・・・(どうしたんだろ、アスカ・・・)」



























『ん?今日は二人ともやけにおとなしいな・・・・・・・』



いつもの金曜日ならば『Neonらいぶ』にやって来るなりその日のサークルでの出来事を、聞きもしないのにマスターに報告するアスカ達が、きょうは店に入ってきた時に「こんばんわ」といったきりそのままテーブルについてしまった。もっともシンジが店内で大声を上げるということは、ほとんどないので正確には『きょうはアスカが静かだ』といったほうが正解かもしれない。

そんな二人を見てちょっと気になったマスターであったが、べつに喧嘩をしているふうでもないのでそれ以上は詮索しないことにした。

テーブルについたきり黙り込んでいた二人だが初めに口を開いたのはシンジの方だった。

「アスカ、ほんとにどうしたんだよ。例会終わってからずっと黙ったままじゃないか・・・・・。」

アスカは元気に首を横に振ると、微笑んでシンジに答えた。

「大丈夫だって!ほんとになんでもないよ。あいっかわらずアンタも心配症よね〜。」

『違うな・・・』

普段はボケボケっとしているシンジだが、アスカが本当のことを言ってないことはすぐに気がついていた。しかし、ここですぐにアスカを否定しては彼女の逆鱗に触れてしまうことが分かっているシンジは取り合えずインターバルをとることにした。

「そう、ならいいけど。それよりきょうは何食べる?」

「そうねぇ、じゃあハンバーグランチ!シンジが作ってくれたハンバーグもおいしいけど、ここのも捨て難いのよね〜。」

「じゃ、僕もハンバーグにするよ。すみませーん、ハンバーグランチ二つお願いします。」









「「ごちそうさまー」」

「ふぅ、やっと人心地がついたわー。サークルの日は晩御飯が遅くなるのがたまにキズよね〜。」

「しかたないよ、他のみんなだって仕事が終わってサークルに直行してくるんだし。」

「そうよね〜、主婦の人たちなんか旦那と子供の晩御飯作っておいてサークルにきてるんでしょ?ほんと頭が上がるわ・・・。」

「・・・・アスカ、それを言うなら『頭が下がる』だよ・・・・。」

「(ーーメ)・・・ドイツじゃ頭が上がるって言うの!」



『どうやら元気が戻ったかな・・・・』

アスカにいつもの調子がもどってきたようなので、シンジは心配するのを止めることにしたが、気に掛かるのが無くなったわけでもなかった。

すると、

「ねえ、シンジ。」

「ん?なに?」

不意にアスカが話しかけてきた。

「さっきの養成講座のことだけどさ・・・・・・。シンジは受けるの?」

『やっぱり・・・』

「うん、一応そのつもりだけど・・・・・。アスカも受けるだろ?」

「実はね・・・・・ちょっと迷ってるんだ・・・・・。」






ろうあ者が社会生活を営んでいく上でもっとも大変なことは、耳からの情報が得られないということである。病気になって病院に行く時、交通事故にあった時、官公庁に行く時など手話通訳者の存在は欠かせない。これは、21世紀となったこの時代でも変わらないことである。

ここでは県が手話奉仕員養成事業・手話奉仕員派遣事業をそれぞれ県手話サークル連絡協議会・県ろうあ連盟にそれぞれ委託している。それを受けて県手連(県手話サークル連絡協議会)が毎年前期と後期の二回に分けて手話通訳者養成講座を開催しているのである。コースは初級・中級・上級の3つのコースに分かれ、中級以上の修了者は『手話通訳奉仕員』として登録され、県知事から『手話通訳奉仕員証』が交付される。そして、手話通訳ボランティアとして手話奉仕員派遣事業に従事することになる。








ふたたびNeonらいぶにて・・・・・・・


「アタシね、サークルに入ってほんとに良かったって思ってる。いろんな人と知り合えたし、手話を覚えるたびに、たくさんの人と話しができるようになる。それがこんなに素敵なことだとは思わなかった。でも手話通訳者となると、場合によっては直接耳の不自由な人たちの生活に踏み込んでいかなくちゃならない場合だってあるわけでしょ?もちろんずっと手話との関わりは続けていくつもりだけど、いざ『手話通訳者』となると・・・・・・ね・・・・・。」



シンジは黙ってアスカの話を聞いていたが、

「・・・・コーヒー、飲むだろ。」

「ん・・・・」

そう言うと彼は食後のコーヒーを二つ注文した。




「今アスカが言ったこと、僕も思ってたんだ。ちょっと前までね。でもね、養成講座は受けることにしたんだ。」

「どうして?」

「うん、うちのサークルって例会の時に、いつもたくさんのろうあ者が来てるだろ。前に創さんに聞いたんだけど、そういうのって県内の他のサークルには無いんだって。」

「アタシも聞いた。実際多い時には部屋の人数の半分くらい来てることもあるもんね。」

「ということは、それだけろうあ者と話す機会が多いってことなんだ。他のサークルと比べるとね。」

「そういうことになるわね。」

「つまり、手話通訳者になろうがなるまいが『いつも身近に手話を必要とする人がいる』ってことなんだ。」

「そうね。」

「だったら迷うこと無いじゃないか。」

「そうか!べつに手話通訳者って特別な存在じゃないんだ。」

「そういうこと。さすがアスカだね!」





「ほい、コーヒーお待ちどうさん。」

「お、きたきた。コーヒー飲もうよ、アスカ。」

「うん!」

「昔、ある人に言われたことがあるんだ。『君ならできる、君にしか出来ないことがあるはずだ』って。仮に僕達が中級の試験に受かって奉仕員になっても、今の僕達ができる通訳はたかがしれてる。でもサークルに行けばそこには必ずろう者がいる。今はそれで良いじゃないか。大切なのはそれを自覚してそこからさらに自分を磨いていくことだと思うんだ。それを忘れないためにも養成講座を受けようと思うんだ。」


















「シンジぃ・・・・・」




「なに?アスカ。」


























「大好き!」

「∞♂■◇!@@;!!!!!!(*^^*)

























「ここのコーヒー、ほーんと大好きなのよね〜アタシ!」


























「どうしたの?シンジ」

「(;_;)」


























「こんばんわ、碇君達来てますか?・・・」











「よっ、レイちゃんいらっしゃい。二人とも来てるよ。」

そう言うとマスターは奥のテーブルを指差した。

「あら?レイ、今日はどうしたの。」

「こんばんわ、アスカ。さっきまで仕事してたの。たぶん二人ともここじゃないかと思って・・・・。」

そういうとレイは二人と同じテーブルについた。ちなみにアスカとシンジが向かい合って座っていたので、レイはアスカのとなりに腰をかけた。

「綾波も相変わらず忙しそうだね。」(もう復活したのか?シンジ。)

「来月から公開講座が始まるから・・・・・。ところで、養成講座は二人はどうするの?」

学習部のレイとしては、当然気になるところであった。

「「もちろん!受けるよ!」」

「よかったぁ。これで学習会の講師が増えるわ。」

「ちょっとレイ!どういうことよ?!」

「うちのサークルでは、養成講座の中級以上の合格者は例会の学習会の講師をするの。最近ローテーションを回すのが結構大変だったのよ。でもあなた達が中にはいってくれたら心強いわ。」

レイの突然の言葉に二人は思わず顔を見合わせて・・・・・・

「「そんな〜〜〜、聞いてないよ(わよ)!」」

「しかたがないわ、そういうシナリオだもの。」

「「もう・・・・・好きにしてよ・・・・・・・(ーー)」」















「レイは受けないの?」

「私は今年はまだ受けないの。」

『????』

「来年、上級をうけるの。」




























勢いで続きを読む

読むのやーめた、ふんっ!



いいわけ

創です、こんにちは。一話完結のつもりが・・・・・・・・終われませんでした。

1997年10月26日(日)


それでも感想は書いてあげよう。


電子郵便にするかな?


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