NEON GENESIS

EVANGELION

二人の希望

第六話

―涙を流す青い髪の少女―

 

 

 

 

朝…サンサンとした太陽の光は容赦なくこの町に降り注いでいた。

しかしそんな光も葛城家ダイニングキッチンには届かない。

そしてその光が差し込まないキッチンで一人寂しそうに朝食を食べるアスカ。

「何でこのあたしが一人で朝ご飯を?…暇ね〜」

二日前指令の命令でシンジが一人待機命令を受け渡されたのだ。

そのためアスカはポツポツと朝食を食べていた。

「……ペンペ〜ン、このハムほしい?」

「…クェ〜〜…」

ふとテーブルの下を覗くとペンペンが居たものだからアスカはサラダに盛り付けてあるハムを人差し指と親指を使って掴みペンペンの顔面までハムを差し出す。

アスカは思う…

 

ペンペンって久しぶりに見たような?…気のせいよね。

 

「ほ〜らっ、ご馳走よ」

「アグアグ……」

ペンペンがハムを飲み込むまで見つめていたアスカは時計を見やる。

「あ、もうこんな時間か…久しぶりの学校…か。ヒカリに会えて嬉しいけど…鈴原のことで何か聞かれるわね。…絶対…」

親友に会える喜びよりもその会った時に聞かれることにアスカは考えていた。

 

「何を言われるだろう…やっぱシンジのこと恨んでるのかな?でも本当はあたしが一番悪いのにね」

アスカはトウジが参号機のパイロットだということを知っていてシンジに教えなかったことを後悔していた。

「…最低ね。あたしも。…どうしてあの時意地になってシンジに教えなかったの?」

今更遅いわよ。ヒカリがシンジを恨んでいたら…庇わないと、シンジを。

そしてアスカはカバンを持ち学校へと向かうのだった。

 

 

 

「おはよ〜」

「おっはよっ!」

様々な挨拶が2−

A、アスカのクラスに響き渡る。

やはりアスカは此処に来てもよかったのだろうか?とそんな思いが頭を駆け巡った。

そしてアスカが自分の教室に入ると同時に生徒達の目線がアスカに降り注いだ。

「……おはよう」

アスカは勤めて平静を装いクラスメート達に挨拶を交わす。

「おはよ〜」

「久しぶりね。おはよう」

ホッとアスカは胸をドキドキさせながらも辺りを見回し、

何時も教室に一番乗りの女の子が居ないことに気が付いた。

「あれ?ヒカリは?」

アスカの呟きに一人の女子生徒が答えた。

「委員長なら今さっきアスカのことを見てどっか行ったよ。何かあったの?」

「あ、解かったぁ!鈴原が居ないから寂しいんだっ!恋する乙女ねぇ〜」

 

そっか…皆知らないんだ。

知っているのは恐らくヒカリと相田だけね。

 

カバンも机に置かずにアスカは委員長こと洞木ヒカリを探しに教室を後にした。

 

 

 

 

―屋上―

年中夏というこの日本に降り注ぐ暑い太陽が一人の少女の身体を温めていた。

屋上から眺める町は小さく、屋上から眺める山々はとても大きく見えた。

「…ヒカリ…」

「……やっぱり追いかけて来たのね?アスカ」

「…鈴原…京都に行ったの知ってる?」

「うん。…鈴原…足が無くなっちゃって。…それで京都に…」

アスカは親友の背中を見つめるより隣に居たほうが良いと思い近づいていく。

一足一足が鉛のように重たく、アスカは何とかヒカリの傍に辿り着いた。

「鈴原が大怪我した時直ぐにね、非常事態宣言がされたの覚えてる?」

ヒカリの呟き声にアスカはあの時あっけなくやられてしまった事を思い出した。

「…ええ…」

 

 

ヒカリは今にも泣き出しそうな面持ちでアスカを見つめた。

「あの時みんな他の患者さんを避難させる為に忙しくて…鈴原の麻酔が切れたことに気が付いて無くって…鈴原…痛みを堪えながら私にこう言うのよ  ヒカリ、大丈夫か?お前一人ではよ…に、逃げぇや!  勿論私は断ったわ。それと私嬉しかった。あいつが私の名前を呼んでくれたのよ…ヒカリってね。私達、結局逃げられずに病室に怯えながら戦闘が終わるのを待っていた…その間ずっと鈴原…私の肩を抱いてくれてた…」

 

 

「…………」

「どうして碇君は鈴原に大怪我をさせたの?!」

ヒカリの突然の叫び声に怯むアスカ。

「…ヒカリッ聞いて!シンジは悪くないっ!悪いのはそう…あ、あたしよ」

数瞬アスカはゲンドウにヒカリの怒りの矛先を向けさせようとしたがよくよく考えると自分が一番悪いと思い、怒りの矛先を自分に向けさせた。

「…?アスカが?どうしてアスカが悪いのよっ!悪いのは碇君よっ!」

「ヒカリっ!聞いてよっ!あたし鈴原がエヴァのパイロットになるって知っていたのよっ!でもあいつは、シンジはそれを知らなかったっ!どうしてだか解かるっ!」

アスカはヒカリの怒りの眼差しを一心に受け止めて叫んだ。

 

 

「…どうしてよ?私、何も解からない…」

「言うわよ?ヒカリ。あたしね知っていたのよ。鈴原がフォースチルドレンに選ばれたの。

でもシンジはそれを知らなかった…あいつは大怪我をした鈴原を見て初めて敵に操られたエヴァの操縦者は鈴原だったってことを知ったのよ。…あたしはそれを知っておきながらシンジに鈴原のことを何一つ教えなかった…悪いのはこのあたしよっ」

 

 

何時の間にか始業ベルが鳴るのが聞こえた二人。

アスカはそんなベルの音にかき消されそうなほどの涙声で

「だから…ヒック、シンジを…恨まないでぇ…悪いのはあたしなんだからぁ」

「…!…」

ヒカリは驚きを隠せなかった。

あのプライドが高かったアスカが泣いている…。

碇君の為に?碇君を庇ってる?

 

 

「…悪いのはあなただけじゃないわよ…」

そして不意に二人の背後で無機質な声がポツリと聞こえた。

最初に後ろに振り向いたヒカリは少し驚き言葉を出せなかった…。

次にアスカが鼻をすすりながら後ろに振り返る…。

「グスッ…ファースト…?!」

「悪いのは私もよ…だって…私がチルドレンの中で一番最初に鈴原君がフォースチルドレンに選ばれたことを知ったのだから…」

「……ファースト…。…ヒカリィ…悪いのは知っていた者が一番悪いの…だからシンジを責めないで…」

アスカは一瞬レイが頼もしく見て取れた。

二人はヒカリに向き合うと何も話さずに許しの言葉を待つ。

 

 

「碇君が可愛い女の子二人に庇われてさぞ幸せでしょうね…」

ヒカリが一瞬クスッと笑ったのがレイには見えた。

アスカはそんなヒカリの呟きに「まだ恨まれてる」と思うのだった。

次にヒカリから出てきた言葉は二人に緊張感を引き起こさせる。

 

 

「…アスカ…鈴原から伝言があるんだ」

「…う、ん…」

ヒカリは一つ大きく深呼吸をすると少し可愛く微笑む。

「…ワイは誰も恨んでへん、シンジも誰一人。 ごめんねアスカ。…私が勝手に怒ってただけ…それと鈴原からもう一個伝言があるの 暇な時は京都に遊びに来てくれ だってさ…」

 

 

「…ヒカリ…でも、本当にごめんね…あたしがもっと意地っ張りじゃなかったら…」

ヒカリはアスカのシュンとした態度に少し悪戯っぽく…。

「アスカァ〜、どうして碇君のことをそんなに庇うのかなぁ〜?…あ、やっぱ好きな人は守ってあげたいもんねぇ〜?」

「は?!、ひ、ヒカリっ!どうしてあたしがバカシンジを助けなきゃいけないのよっ!?」

「だってね〜、昔は碇君のことをバカにしていたのにね?今はかけがえの無いような言い方をするからぁ〜〜」

 

 

ヒカリのからがいがレイにこんなことを言わせる。

「…洞木さん…セカンドは最近の戦闘で負けたけど…碇君に助けられて幸せだと思う」

「あ゛〜〜〜〜ファーストっ!?何を言「しかも二人は抱き合っていた…」

アスカがレイに向けて叫ぶのだがすぐにレイがアスカの叫び声を中断させた。

「え゛〜〜、あ、アスカがぁ〜〜!?碇君と幸せそうに抱き合ってたぁ〜〜!?不潔よ!」

「ちょっ!あれはただ心配だったから抱きしめてあげただけよっ!!誤解しないでよね!」

アスカは何時もの悪い癖、意地っ張りをする。

そして少しこんな態度を取ったことに対して後悔…。

「……い、行くわよっ!ファーストっ!」

アスカはレイの手を引きながら屋上を後にした…。

ヒカリは一人取り残された屋上で何となく空を見つめ

「もうすぐ疎開だから…その時は京都に行こう…」

一人決意するヒカリ。

 

 

―そして午後―

二人のパイロットはネルフでシンクロテストを行っていた。

「やはりアスカのシンクロ率…上がらないわ」

「今どれくらいなの?リツコ…」

「…起動指数ギリギリ…ずっとこの調子よ」

ネルフ最高幹部二人の話し声を聞き取ったアスカは一人苛立つ…。

 

…そろそろあたしもお払箱かしらね。

 

「二人とも、あがっていいわよ」

 

 

―更衣室―

アスカとレイはお互い背を向けあわし黙々と第一中学の制服を着ていく。

「ファースト…今日はシンジを庇ってくれて…ありが…助かったわ」

アスカは感謝の言葉をレイに送ろうとしたが意地っ張りな自分がそれをさせなかった。

「…碇君のこと好きなのかも知れないから…」

「…………」

レイのシンジへの好意の言葉を聞いたアスカは何とも言いようのない嫉妬感に襲われる。

そして憎悪がこもった言葉をレイに向けて話し出す。

「ふ、ふんっ!!あんたみたいな人形も人を好きになったりするんだ……?」

「…私は人形じゃない…」

「うるさいっ!あんた碇指令が死ねって言ったら死ぬんでしょっ!?」

「…ええ。そうしなければ私は捨てられる…捨てられるのはイヤ…だから私は命令に従う」

レイの無機質な呟き声にアスカは一瞬身震いと寂しさを覚える。

 

 

…ファースト……あんたも…同じなんだ…

        あたしも捨てられるのはイヤッ!

                誰も見てくれないなんて絶対ヤッ!

 

 

「あんたバカァ?!そんなの…死ねってことは捨てられてるのと一緒よっ!」

「……でも私は碇指令には背けない…」

パァン!…更衣室に響かせるアスカの平手打ち。

レイは突然アスカに殴られた頬に手を添えて叩いた張本人を見つめる。

「バカッ!あんたがその命令通り死んだら…悲しむ奴だっているのよっ!解かってる?!

あんたね!バカシンジが死んだらどう思うっ!」

レイは暫し思いに心駆け巡らせた。

そのシンジが死んでしまう場面を想像してレイは、当たり前のようにやってきた不快感・悲しみに襲われた…。

「……碇君が死ぬのは…イヤ…」

「…!ちょ、ちょっと…何も泣かなくてもいいじゃないっ」

アスカは結果的に人を泣かしたので自分が悪者みたいに思ってしまった。

「…私が悪かったわ。…もう、死ぬとか言わない…」

レイの頬に伝う涙を見つめていたアスカは何気に自分のスカートからハンカチを取り出し

レイに差し出した。

「…あ、あたしも…わ、わる…ごめん。あんたは人形じゃない」

レイの暖かそうに輝く涙を見つめているアスカは不思議に素直になれるのだった。

「…あ、ありがとう…」

ギクッ!?そんな効果音が更衣室に鳴り響いたような?

アスカが何故そんなリアクションを起こしたかというと、それはレイの表情の所為だ。

「…か、可愛い…」

レイの満面の笑顔を見てしまったアスカは思わず本音を呟いた。

何時しか更衣室はシンと静かになっていた…。

しかしアスカは何とか平静を装うと言い出した。

「…か、帰るわ。あんたも早く帰って寝なさいよっ」

「…ええ…」

 

 

私もあれくらい感情をコントロールできたなら…

でもアスカ?一応家には帰るけど、まだ寝る時間じゃないわよ。

…アスカにハンカチ返すの忘れた。…明日返せばいいわね。

 

 

レイは暫くアスカが差し出したハンカチを見つめていたが

そのうち自分の胸の前に持っていき両手で包み込むのだった。

 

 

―葛城家―

玄関のドアは機械音と同時に開かれる。

ふとアスカは地面を見てみる。

「あ、シンジ帰ってきてる。…ただいま〜」

薄暗い廊下を歩き、キッチンに出る。

「ぅわ〜、いい匂い〜。今日の晩御飯はカレーね」

と、アスカは晩御飯を確認するとリビングまで歩き出した。

リビングとキッチンの中間地点でペンペンと会い、抱き上げる…。

「ペンペ〜ン、あんた今日はよく出てくるわね」

「クエ?」

そしてリビングに入ると小さな寝息が聞こえてきた。

「すぅ〜〜……」

よくよく辺りを見回すと部屋の片隅でシンジが座布団を枕代わりにして眠っていた。

そんな眠っているシンジのそばにアスカはちょこんと座り肩をトントンと叩く。

「……う〜〜ん……ん?…アスカ…お帰り」

「珍しいわね?あんたが昼ねするなんて」

「……待機命令からずっと寝てないんだ…」

「そうなの?眠たいのならベッドで寝たらいいじゃない」

アスカは眠たそうにしているシンジを見つめて何故か少し優しい口調になってしまう。

シンジは一つ大きなあくびをすると両の身尻に涙を浮かべて。

「…一応お帰りを言いたかったから」

言葉が終わると同時に起き上がり、アスカに抱かれているペンペンの頭を撫でてやる。

アスカは少し照れながらシンジに部屋で寝るようにと促すが…。

「あ、なんか眼が覚めちゃったよ。…今何時かな?…六時か…そろそろご飯にする?」

 

 

二日も寝てないんだったら…眼が覚めるはずないじゃない…

「そうね」

アスカもシンジの言葉に同意し胸の中で抱いているペンペンを降ろしキッチンに向かう。

シンジはガスコンロの前に立ちコンロに火を点火して再びカレーを温める。

「あ、そうだ。アスカ?」

「ん、どうかした?」

「温まるまで少しかかるから、服でも着替えてきたら?」

「そうね。うん。着替えてくる」

椅子に座っていたアスカはもう一度立ち上がり自分の部屋へと戻っていった。

 

 

―アスカの部屋―

シンプルなタンスの引き出しを開けてクリーム色のTシャツと青色のジョギパンを取り出す。

そして乱暴に服を脱ぎ散らかしていく…。

下着だけの姿になると先ほどタンスから取り出したシャツに腕を通して身にまとう。

ジョギパンも同じく身にまとい部屋に置いてある姿見に自分の姿を映し出す。

「よし、何処も悪くないっ」

鏡の前でポーズを決めても所詮簡単なカッコ…

しかも単純な服だ。別に良くも悪くも無い…。

しかしこれがアスカなのだからどんなカッコをしてもその美しさは損なわれない。

最後に髪留めとしても使っているヘッドセットをスッと取るとアスカはそれを机に置いて

さっき脱いだ第一中学の制服をクシャクシャに持って部屋を出て行った…。

(脱いだ制服は廊下の片隅にひっそりと存在する洗濯籠にポイする…)

 

 

―再びキッチン―

アスカが戻ってくるとすでにテーブルにはカレーが二つ並んでいた。

「あ、アスカ。今日の晩御飯はこれだけで我慢してね?

しんどかったからこんなけしか作れなかったんだ」

おまけといわんばかりにテーブルにはカレーの他にレタスとキュウリ、さらにトマトを使った

サラダが皿に盛られていた。

シンジのしんどそうな微笑にもアスカは何時もの調子なのだが…

「しゃーないわねー。…でも大丈夫?今日はさっさと寝なさいよっ」

シンジはアスカのさり気ない優しさに気が付いたのか少し頬を赤く染める。

アスカも自分の口からこんなことが出るとは思わず、ついつい俯き加減で自分の顔をシンジから見えないようにする。

「えっと、じゃ、頂きましょ〜かっ…頂きますっ!」

「そ、そうだねっ…頂きますっ」

アスカが元気よく「頂きます」を言ったのでシンジもアスカに負けないくらいの声で言う。

 

 

今日のアスカ…少しおかしいや…?

たしか今日は学校とシンクロテストだったな…。

何かあったのかな?…まさかトウジの事?テストの事?

 

 

二つとも正解だったがシンジはもう一つ答えがあったことに気が付かない。

それはレイとアスカがすごくギスギスした関係が少し無くなったことだ。

そんな考えをしているシンジをアスカは気が付かず美味しそうにシンジが作ったカレーを食べていた。

 

 

―午後22時30分・葛城家リビング―

すでにお風呂に入って、アスカは映画をシンジは大事なチェロの手入れをしていた。

少しほこりが掛かったチェロをシンジはタオルで綺麗にしていた。

「…あっ!そんなぁっ!?どうして死なないのっ!」

アスカは壊滅的な人類VSコンピューター&ロボット…そんなSFを見ていた。

シンジはそんなアスカの叫び声に驚きもせずに微笑ましくアスカを見つめていた。

「あ〜早くグレネードランチャーを取りに行きなさいよっ!!通常の機関銃じゃ敵は死なないわっ!」

映画をアスカはテーブルを乗り出し睨みつけるように観賞している。

映画では主人公と思われる者と仲間数人が昆虫のようなロボット一体に苦戦を強いられていた。

「…全然効いてないや…」

そして映画も終局へと向かい始めアスカも両手をグッと握り締めて映画を見ていた。

人類側はその兵隊の数が少なく各地に散らばった同士を本拠地に呼び集めて

一斉に敵の本拠地へと攻め入ろうとしていた。

「ついに最後の会戦よっ!虫型ロボットのくせに人間をなめるんじゃないわよっ!」

テレビの中では泥と傷を一杯つけた兵隊達が覚悟を決めた表情をしていた。

人類側約二千人それに対して敵側は色々なタイプのロボット五百体が十組ぐらい存在していた。

「くぅぅ〜…あたしがこの世界に居たらあんな奴ら簡単なのにぃっ!」

 

 

 

 

結局アスカは眠たくなったのかラスト十分前に眠りだした。

シンジは手入れに夢中だったのかアスカが眠ったのに気がついたのは

映画が終わって十分後だった。

テーブルに突っ伏して顔をシンジの方に向けてよだれを垂らしながらアスカは眠っていた。

「はは、何時の間にか寝ちゃったんだ?」

シンジは大事にチェロをケースにしまいこんで、立ち上がり部屋から自分が使っている薄手の布団と枕を持ってきて、眠っている布団をアスカに掛けてやる。

「…ん…あ、シンジ…あたし寝てたんだ?」

アスカは静寂が漂うリビングを心地よく受け入れた。

眼をもう一度閉じて伸びをする…。

「…シンジ、チェロの手入れをしてんの?」

「うん、ほこりをかぶってたからね」

「ねぇ、何時かさシンジがお母さんの命日の時に弾いていたやつ…聞かせてよ」

「へ?あ〜、あの時僕が大泣きするまえに弾いたやつでもあるね?」

「ん、そうそう、情けなく大泣きしたときのよ」

アスカは少し悪戯っぽく呟きシンジの表情を盗み見る。

シンジはアスカの悪戯に顔を真っ赤にしてあの時自分が口走っていた色んな言葉を思い出していた。

「ア、アスカァ〜…」

「へへっ、さ、早く聞かせてなさいよっ」

「はいはい…」

「はいは一回でいいのっ」

「ごめん…」

「謝らなくていいっ」

「わかったよ。…じゃ、弾くね?」

苦笑いを浮かべつつシンジはチェロをケースから取り出し何時の間にかアスカがキッチンから持ってきた椅子に腰掛けてチェロを構え出した。

アスカもシンジの正面に座りひとりで小さなコンサートを楽しんでいた。

「…一番…碇シンジ…思い出の曲を奏でますっ」

シンジのたまに言うふざけた言葉にアスカはフッと笑みを零して全ての音を聞き入れる準備しだした。

それと同時に思い出の曲と聞き何故だか嬉しくなる。

 

 

 

 

シンジが楽しそうに音楽を奏でてアスカは楽しそうにその音楽に耳を傾けた。

そして何時しかシンジのささやかなコンサートも終わってしまい僅かな無音が続いた。

「あ…やっぱアスカ疲れてるのかな?」

と、シンジはチェロに集中していた意識をこんどはアスカに向ける。

するとアスカはやはり膝に顔を埋めてよだれをたらしながら眠っていた…。

しかしシンジは気が付かない…アスカが眠っている原因…それはシンジが奏でる

チェロの音色が心地よくてである…いや少しは気が付いているのかもしれない…

最近自分でも自分が奏でる音色に心が癒されるような感覚を覚えるのだから。

「…このままだと風邪引くから…」

 

と、シンジは壁にチェロを立て掛けてさきほどアスカに掛けていた薄手の布団に眼をやる。

何となくその布団があるのを確認すると眠っているアスカのそばまで歩く

次にアスカの後頭部が当たる床に自分の枕を置いてアスカの身体を静かに起こさないように倒していく。

アスカが横になったらシンジはテーブルを部屋の片隅に引きずり、

最後に薄手の布団を取りそっとアスカの身体にかぶせていく。

 

「…おやすみ、アスカ…」

シンジもアスカをリビングに一人残していくのもなんだからと思い座布団を枕代わりにしてバスタオルをお腹にかぶせて、アスカから遠すぎず近すぎずの場所で眠る。

 

部屋の中は静寂に染められ、カーテンの隙間からは月明かりが零れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―朝・葛城家リビング―

「…朝だ………ん〜〜〜…!」

シンジは流石に昨日三時間しか眠っていなかったので今日は珍しく十時まで眠っていた。

ショボショボした眼をゴシゴシしながらシンジは隣に居たであろうアスカが眠っていた場所を見つめる。

「…アスカが居ない…たしかアスカは綾波と待機命令だったな」

アスカが眠っていた場所ではシンジの薄手の布団が綺麗にたたまれていた。

少し眠りすぎたのかシンジはフラフラする頭を抑えてキッチンへと向かった。

「…あぁ〜〜〜あ…ちょっと寝すぎたかな?……ん??」

シンジがキッチンのテーブルに眼を向けるとそこには手紙が置いてあった。

 

 

 

 

 

シンジへ

 

おはよう、今日はよく寝むれた?

あたしは今日一日待機命令だからたぶん遅くなると思う

だからバカシンジ、あたしの分の晩御飯はいらないから

今日はネルフの食堂で食べて帰るからね。

じゃ。

それと昨日は布団をありがとね。

それから変なことしてないでしょう〜ね?

何時かみたいな夜中にキス未遂とか…

ま、あんたのことだからそんなことする度胸が無いかぁ。

 

ASUKA

 

 

「書くと思ったよ。…はは、そんなことする度胸は僕には無いね」

シンジは何故か自慢するような言い方をしてしまった。

そしてシンジは冷蔵庫を開けるのだった…。

 

 

―ネルフ・パイロット待機室―

待機命令といってもずっとエヴァに搭乗して待機している訳ではない。

レイは何かの詩集を見つめていた。

アスカはただ何かを考える為に眼をギュッと閉じていた。

「…あなたが見つめるその先に…きっと幸せは存在する……?…幸せって何?」

何気なくレイの詩を読む声にアスカは耳を傾けていたがレイの「幸せって何?」に「はぁ?」といった表情をするのだった…。

「…あんたバカァ?…幸せって言うものわね。…例えばでいうと…あんたアイス好き?」

「……ええ…」

アスカはレイのアイスが好きっということを確認すると待機所にある冷凍庫をあけた。

そこにはペンギンとシロクマがペイントされた箱がひっそりと潜んでいた。

「此処にソーダアイスがあるの…それを毎日食べるの…食べたい?」

「ええ、食べたい」

「毎日食べれたら、嬉しい?」

「…毎日甘いもの…嬉しいかも」

アスカはレイの曖昧な嬉しさに一応こう言った。

「それが幸せってものかしらね?」

「…よく解からない」

アスカは無表情で呟くレイを見つめてため息を漏らす。

レイはそんなアスカを気にせずに詩集に眼をやる。

「……あんたってほんと感情に乏しいわね…」

「…うん…」

また待機所にアスカのため息が聞こえた。

手に持っていたアイスの箱から二つアイスを取りレイに一本渡す。

受け取ったレイはアスカに礼を言ってカバーを取る。

「…もう一つ…例え話をしたげるわ。…本当は言いたくないんだけどね…」

「…どうしたの?」

 

アスカは迷っていた。

これを言ってしまうとレイのシンジへの

思いがでかくなるかもしれないからだ。

「…あんた、昨日シンジのことが好きなのかもしれないって言ってたわね?」

「…ええ」

「…好きって感情は解かるのね?」

「…多分…」

「シンジにもその感情があんたに贈られたら…あんたはどう思う…?」

レイは俯き加減で話すアスカに向けて呟きだす。

「それが幸せってものなのね」

アスカはチラッとレイの表情を伺ってみるとそこには頬を真っ赤にしたレイが居たのだった。

アスカは再度レイが可愛く笑ったりすると思った。

「…うん…」

 

 

暫く待機所に静寂が漂っていたがレイが呟きだした。

 

 

 

「碇君が私にその感情があったら…私は本当に幸せ…でもそれは無理…碇君がそれを向けているのは私ではなくあなたよ」

そんなレイの呟きにアスカは一瞬時が止まったような錯覚に襲われた。

気が付いた時には自分の頬には一筋の涙が伝っていた。

「…碇君が言っていた。嬉しい時にも涙は出るんだって…あなたはいま嬉しいのね」

「…ごめんね。あんたもあいつの事が好きなのにそんな事言わせて。…それと…この涙の意味は…もうひとつあるの。……最近あたし…エヴァにシンクロ出来ないでしょ」

 

 

「…うん、前よりは…」

レイもアスカの事を察して優しさ交じりの声を出した。

「…あたしがエヴァに乗れなくなったら…ドイツに帰される。…イヤなのよっ……あんな何にも無い何にも始まらない場所はっ……ぐすっ…」

「あなたはあまりにも酷いものを見せられたのよ。…第十五使徒…あなたは心に深い傷をおってしまった。……暫くエヴァにはシンクロ出来ないと思うわ。…でも大丈夫…皆を信じて………今はシンクロ出来なくてもいいと思う……心の傷が少しずつ癒えていけばシンクロは必ず出来る…だから大丈夫」

レイはそんな悲しそうな顔をしているアスカの手をソッと自分の両手で包み込む。

そんなレイの行動にアスカは「この子は母性本能がすごいかも」と、思いながらも

顔を思い切り真っ赤にし、そして口ごもりながら。

「…ああ…あり、が「総員第一種戦闘配置っ!対空迎撃戦用意っ!」

 

 

アスカのレイへの感謝の言葉も青葉が叫ぶ非常事態宣言でかき消された。

二人は気を取り直すと早速エヴァへと搭乗準備を始め出した。

アスカは焦っていた。エヴァとのシンクロ率が起動指数ギリギリな為である。

 

 

突如第三新東京市付近上空に出現したひも状の使徒。

それはクルクルと規則正しく円を書くように

 

 

「碇…老人達もそろそろ我々に消えてもらいたいらしいな」

「…ああ、第十五使徒来週から七日…一週間に一体の割合で此処を攻めに来ている」

司令塔の指令席でゲンドウが冬月とヒソヒソ話をしていた。

「…阻止しなければいけない」

「ああ、これを阻止できなければ全ての使徒を倒したことにならん。我々は最後の使徒を倒してから…残りのエヴァシリーズを迎え撃つ…それしか我々の道は無い」

 

 

「エヴァパイロット搭乗完了!…いかがなさいますかっ」

ミサトはゲンドウにアスカは出撃させないでと願っていた。

しかしミサトの願いもゲンドウは裏切った。

「弐号機は起動指数ギリギリか…かまわん、出撃だ。囮くらいにはなるだろう」

ゲンドウの声はエントリープラグ内部に居るアスカに襲い掛かる…。

 

 

「…ふっ、あんなに強かったあたしがまたもやバックアップか…。ま、エヴァとろくにシンクロ出来ないあたしが此処にいるのもおかしいくらいだもんね。……あたしもこれまでか…あたしが死んだら…シンジ泣いてくれる?」

アスカの呟き声に反応したのはレイだった。

レイも何かアスカに話そうとした瞬間だった。

「エヴァ零号機発進っ!…続いて弐号機を零号機から三百離れた場所に射出してっ!」

 

二体のエヴァが射出されたと同時に司令塔にシンジがやってきた。

「遅れてすみませんっ!…僕はどうしたらいいですかっ?!」

「…初号機にて待機だ」

ミサトに向けていたシンジの顔はゲンドウの声で指令席を見ることになった。

「…出撃じゃないの?父さん…」

「初号機は凍結命令のはずだぞ…忘れたのか?」

暫くシンジは父親の表情を伺っていたがすぐに気を取り直しエヴァ格納庫まで走っていった。

 

 

「零号機地上に出ましたっ」

「レイ、兵装ビルからライフルを出すわ。それで目標への攻撃を試みてっ」

「はい…」

レイがミサトの命令を聞いてからライフルを装備したその時。

「葛城三佐っ、来ますっ!」

突然レイが叫び出しオペレータ達は使徒を映し出しているモニターへと眼を向ける。

「フィールド展開っ!…あうっ!?」

ATフィールドを展開したにもかかわらずレイの腹部に苦痛と快楽が襲ってきた。

レイはコックピットで前かがみになってその両方の感覚にうめき声を上げる。

「ぅぅぅぅーーー…く…」

「パイロットの神経節が侵食されていきますっ!」

「まずいわね。生態部品が5%も犯されてるわ…」

「葛城三佐っ、弐号機が射出されましたっ!」

地上ではパレットライフルを装備した弐号機がリフトビル内にたたずんでいた。

「アスカ、目標まで300近づいてフィールド全開でライフルを撃って!…弐号機リフトオフ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしピクリとも動かない弐号機…。

エントリープラグ内でアスカは前かがみになり震えていた。

「…動かないのよ…どうして…」

「アスカ…。…零号機はっ?!」

レイは苦痛と快楽の所為で何時の間にか山のほうに身を預けていた。

 

 

 

 

 

 

「誰…?これはエヴァの中に居る私の心?…違う感じがする」

 

 

 

 

赤い世界…オレンジ色をした海…。

レイは水面上で立っていた…いや、立っているというより浮いている。

「あなたは誰?」

レイが同じ姿をしたもう一人のレイへと語りかける。

「私は綾波レイ…あなたよ」

「…違うと思う…あなたは私じゃない…私は私だもの…」

「ふふふ…私はあなたよ。…だって心が解かるもの…」

オレンジ色の海に身を沈めた何者かがレイに語る。

「…いえあなたは私達が使徒と呼ぶヒト…あなたは使徒ね。使徒に私の心は解からないわ」

レイと同じ姿をした者はレイの言葉を無視して話し出した。

「ねぇ…私とひとつにならない…」

「…イヤ…私は私。…あなたじゃない。……私の心から出て行って…」

「…拒絶してももう遅いわ。…駄目。あなたはもう私なのよ」

言葉の終わりに使徒と思われるヒトの顔がユックリとレイに向けられた。

その表情はとても妖しく微笑んでいた。

その微笑と同時にレイの身体に葉脈のような筋が身体中に走っていった。

その苦痛と快楽にレイは眉をひそめ我慢する。

 

 

「私の心をあなたにわけてあげる。…この気持ちわけてあげる。…どう痛いでしょ?心が痛いでしょ?」

ニッコリ微笑んでいる者はレイに優しく語る。

しかしレイの心に入ってきた、使徒の心は悲しみに満ちていた。

「…痛い?…いえ、悲しくて寂しい…」

「寂しい?…解からない…」

「一人になるのがイヤなんでしょ?…それを寂しいというの」

偽者がより一層微笑むと確信的な顔でレイに言葉を本当の心を教える。

「それはあなたの心よ…それはあなたの心を覗いた私があなたに教えてあげてるの」

自分の中の真実を教えられたレイはその寂しさに心が悲しみに満たされる。

「…解かった?あなたの心は悲しみに満ち満ちてるのよ。…だから私とひとつになりましょ」

使徒の言葉にレイは眼が熱くなった。

そして目じりから何かが零れたような感覚を感じるのだった。

 

 

「動いてよっ!!」

アスカが叫ぶ声が聞こえた。

それにハッと心の海から還ってきたレイは自分の膝に落ちた雫に気が付いた。

「…これは涙?…私…泣いている?」

「どうして動かないのよぉっ!」

プラグ内に設置されているスピーカーからアスカの切羽詰った声が聞こえる。

レイは苦痛と快楽が走っている身体中の感覚を耐え、弐号機へとモニターをつなげる。

モニターをつなげたその先のアスカは死にもの狂いでインダクションレバーを動かしていた。

「セカンド……エヴァは心を開かなければ動かないのよ。…エヴァはあなたに心を開いてる…でもあなたも心を開かなければ…ぅくっ…動かない…」

「そうなのよアスカっ!そうしなければエヴァはあなたを受け入れてくれないわよっ!!」

レイの苦しそうな声にリツコが珍しく叫んだ。

リツコの叫び声のおかげでもあるだろうか?アスカは叫ぶのを止めて全身系をエヴァへと向けさせる。

 

…心を開いて…!…お願いだからっ!あたしは惣流・アスカ・ラングレーなのよっ!そんな簡単なことが出来なくってどうするのっ!!

 

 

 

 

 

 

心を開こうとすればするほどアスカの頭には鮮明な映像と声が浮かんできた。

 

 

死んで頂戴…

ほら、ザーザー死ぬから

一緒に死んでザーザー…。

 

 

一瞬アスカの心に何者かが何者かの首を閉める映像がアスカを襲い、その気持ちの悪い感覚にアスカは心を閉ざしてしまいまた一心不乱にインダクションレバーを引き出した。

「何よっ!?今のは…!?…早く動いてよっ!!」

そんな時アスカとレイの耳にゲンドウの声が聞こえた。

「…現時刻をもってして初号機凍結命令を解除する…!」

シンジは「その命令が無くても今すぐ出ます」といった顔をしていた。

しかしゲンドウの言葉を聞き少し命令違反をしなくてすむことにホッとする。

「え、初号機は凍結命令では!?」

「かまわん。…早く出撃させろ」

ゲンドウの有無を言わさない重苦しい言葉。

ミサトは疑問に思いつつレイ救出をシンジに託す。

「初号機発進っ!!…シンジ君、地上に出たらプログナイフを装備して使徒と接近戦に持ち込んでっ!…いい、ATフィールド全開で使徒のひも状の身体に気をつけて戦って!!」

 

 

凄まじい重力がシンジを襲っていたがシンジはハッキリと

「解かりましたっ!」

と、叫ぶのだった。

 

 

 

 

 

そして暫くして初号機は地上に射出された。

「エヴァ初号機リフトオフっ!…頼んだわよっ!シンジ君」

「はいっ!」

シンジが辺りを見回したらそこには二号機がリフトビルに立っていた。

「アスカっ、大丈夫?」

「シンジっ!ファーストを助けてあげてっ!!」

「うんっ!」

シンジにレイのことを託すとこんどはレイに話し掛けるアスカだった。

「お願いだからレイっ!!逃げてっ!!」

アスカは初めて綾波レイをファーストではなく名前で呼ぶのだった…。

弐号機のエントリープラグの中でアスカは一心不乱にインダクションレバーを動かしていた。

「どうしてよ!?どうしてよっ!!動いてっ!」

シンクロ率起動指数以下…アスカの心はまさに焦りと恐怖に染められていた

「アスカっ!気を落ち着かせてっ!集中するのよっ!!」

「ぐぐ…や、やってるわよっ!!」

 

お願い…動いて…こんなにもあたしがお願いしているのにあんたはどうしてっ!?

 

アスカのそんな心中をしらずにシンジは使徒と接触している零号機へと突進する。

「アスカっ!取りあえず僕に任せてっ!…アスカはシンクロ出来るように落ち着いてっ!」

 

「シンジっ…お願いっ!レイを…レイを助けてあげてっっ!!」

シンジが…初号機が零号機に近づくまで少し掛かる…。

そんな本当に短い時間の間で零号機の腹は異形の形をしたどす黒い肉片が飛び出してきた。

それと同時に使徒は近づいてくる初号機に向けて光るひも状の身体を突進させる。

「…ひっ!!??…………あ、綾波?!」

初号機に近づいてきた使徒はその先端に綾波レイを作り出した。

「碇くん…ひとつになりましょ…」

 

違うっ!違う違うっ!!あれは使徒だっ!綾波じゃないっ!!

 

シンジは自分にそう言い聞かせて初号機に内装されているプログレッシブナイフ片手に綾波の姿をした使徒を切りつける。

「きゃぁぁぁぁぁぁ…!!」

 

その綾波の姿をした使徒をモニターを通してアスカは悲痛な面持ちで睨みつけていた。

 

どうしてよっ!どうしてこんなことにっ!!

「レイッ!逃げてぇ!」

叫ぶアスカの声をレイは苦しそうに返した。

モニターに映るレイの顎より下はすでに葉脈のようなものが張っていた。

「…セカンド…いいえ、アスカ…ありがとう、私のことを名前で呼んでくれて」

「レイっ…そんなこといいから早く逃げてよぉっ!」

「駄目…この使徒は私の心で動いているの……解かるでしょ?アスカ…この意味が」

「やめなさいよっ!そういう言い方っ!…どうにか出来ないの……?」

 

 

そうこうしているうちに零号機のそばには初号機がやってきた。

使徒は先ほどのシンジの攻撃で怯んでいるようだ。

「綾波ぃ!……少し我慢してよっ!」

「い、碇君…!…駄目っ!触らないでっ!!」

シンジが自分を助けに来たことに嬉しさを覚えるレイだったが、

今、零号機に触れてはシンジまで使徒に侵食されるかもしれない。

……それを悟って結局零号機は渾身の力で初号機を蹴り押したのだった。

その蹴りの威力は凄まじく初号機は市街地へと吹き飛んだ。

「うわっ!?」

「なっ?!レイっ!どうして!?………あんたもしかしてっ!」

アスカの脳裏に浮かび上がる言葉。

「レイ!機体を捨てて逃げなさいっ!…命令よっ!」

「駄目…私が居なくなったら

ATフィールドが消えてしまう」

レイの言葉の終わりにマヤが叫んだ。

「 ATフィールド反転!一気に侵食されていきますっ!」

「まさかっ!?」

「アスカ……今日は色々教えてくれて…ありがとう」

「ちょっとレイっ!あんた死ぬ気じゃ?!

アスカの声を聞きながらレイはコックピットの後方にあるレバーを引き出した。

レバーを引いたらプラグ内にあるディスクが高速回転しだした。

「さよなら、アスカ、碇君。…ごめんね…また後で」

最後にレイは曖昧な言葉と満面の笑顔で二人を見つめた。

そしてモニターを切る。

「レイっ!……そんなぁぁ!!早く動けぇ!」

 

 

零号機のプラグの中ではレイは微笑んでいた。

「あーぁあ、私も…アスカのように…笑えるじゃない」

自分の心に巣くった使徒が助けを求める。

 

イヤっ!死にたくないっ!!助けてっ!

 

「ダメ…あなたは私と一緒に死んで」

それを微笑みながら呟くレイは死を恐れていない。

 

 

「さよなら…」

眼を閉じてその瞬間を待つ。

しかしそんなレイの耳にあの人の声が聞こえてきた。

「レイ…」

ハッと眼を開けるレイはハッチの方に眼を向ける。

そこには優しい笑顔でレイを見つめるゲンドウが居たのだった。

「い、碇指令ぃ…」

止め処なく溢れる涙…。

声を上げて泣くまでにレイの意識はテレビの

電源が消えたように途切れていった。

 

 

零号機の周辺は光に包まれる。

 

 

爆発の瞬間シンジは弐号機を庇い

ATフィールド全開で爆発の衝撃をしのぐ。

アスカの眼にはすでに光は燈っていなかった。

無気力な眼はただただ涙を流すことしか出来なかった。

 

「グスッ、折角…友達に…親友になれると思ったのに…」

「………」

アスカの呟き声にシンジは胸が痛く、黙ることしか出来なかった。

二人を庇い自爆した零号機は跡形もなく消し飛んでいた。

「リツコさん…エントリープラグの射出は確認できましたか?」

「…確認は出来たけど…恐らくあの爆発よ…」

「…………」

時は無情にも流れていき二人に悲しみと果てしない程の喪失感を植え付けていった。

 

 

 

 

 

続く

次回

―他人の死。その怖さを知った少年の願いと想い。

願いは世界中の人々へ。想いはひとりの少女に…―

 

 

 

(流れる音の流れ星 改めNOB)

 

 

久しぶりに創さんとこに投稿させてもらいました

NOBです。

 

いやはや、僕が此処に最終投稿させていただきましたのがたしか…

一月でしたね。それから約四ヶ月も時は経ってしまいました。

それで僕も一つ歳を取って今では二十歳に。

みんなはこういうんです。

「二十歳になると時間はすぐにたつで」

と、そんなのはイヤだなぁと僕は思います。

そんな事はさて置き、この小説を読んでくれた人にアリガトウ。

これからもこの小説をご愛読くださいね。


創さんからのこめんと

流れる音の流れ星さんが「NOB」さんと改名されて、続編を送ってきてくれました。

掲載が遅くなってすみませんでした。なんったって送られてきたファイルが異様に重かったんですよ。

なんとかここまで軽くしたんですが…。

いままでは、テキスト形式で送られていたのをこちらでhtml化してたんですが、この度NOBさんもPCを買われたそうで、御自分でhtml形式のファイルを送ってこられました。従ってフォントや背景の色は送ってこられた時のままです。

 

で、なんと20歳なんですって?

「若さゆえの過ちか…。認めたくないものだな…。」>某大尉<意味不明

前回投稿から4ヶ月。その間物書きの修行をされたそうです。

修行の結果の感想をNOBさんに送ってあげてください。

 

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