「卒業式」



 黙想、黙祷、が嫌いだった。目をつぶらなければ怒られる。耳が不

自由な私にとって、これほど不安なことはない。

学校では、私たちを大人しくさせる為に、何かというと黙想させた。

私は薄めをときどき開けきょろきょろして、黙想が終わったのかどう

か調べなければならなかった。先生が向かってくる。薄め開いてるの

がバレた。急いで目をつぶる。私にとって黙想とはこんな感じのもの

だった。

 中学1年の最初の頃、体育館に学年全部を集合させ、体育の女の先生

が何かの説明をしていた。その時も騒がしいので、「黙想!」と先生

は叫んだ。薄目を開いて周りをみたら、竹刀で頭を小突かれた。だか

ら、私は薄目を開くことも許される状況ではなくなった。

何やら先生が怒り始めた。でも、目を開くと竹刀が飛んでくるので、

私は目を開けることができなかった。でも、あまりにも時間が経ち、

私はそっと目を開くと、手前にいた友達と顔が合った。

なんてこった!みんなは黙想前とは逆の方向に体育座りしていた。

私だけがみんなとは逆の方向を向いて体育座りしたままで、しかも

目をつぶったままだった。手前の子は、すごく怪訝な顔をしていた。

私は顔を真っ赤にして、もじもじと方向を変え座り直した。

手前には、竹刀を持った女の体育の先生が立っていて、私をずっと

見つめていた。全部わかった。さっき先生が怒ってたのは、私に対

してだった。「なめとんのか、こらー」そんな風に聞こえた。あの

言葉は私にむかって言われてたのだった。

私は、「黙想やめ!」の合図が聞き取れず、律義にずっと黙想して

いた。すごく恥ずかしかった。穴があったら入りたい、そう思った。

「泣くな!泣くな!」と羞恥でうるんでくる涙をこぼさずに乾かそうと

していた。


それから2年半・・・

卒業式の日、私はすっかりシニカルな生徒になっていた。私は学校

が嫌いだった。今日この日、泣く理由なんてなかった。友達と別れ

る寂しさなんてなかった。私にとってみんなは友達なんかじゃなか

ったからだ。聞こえる友達に囲まれて、好かれて、でも、私は彼ら

と一緒にいてゆったりとした気持ちになれたことはない。

式の途中から、女の子達の啜り泣きを始めた。それにつられて多く

の女生徒がハンカチを取り出し目頭を押さえる。私は笑いたいのを

こらえた。女というのは、なんでこうなんだろうと。女の子らしさは打

算的でみっともなく私の目には写っていた。

私の順番になり、私は立ち上がり壇上へ上る。卒業証書を手にし、

階段を降りる。そこには先生方がずっと並んでいて、一人一人に

声をかけていく。

「高校へいっても頑張ってね」

「元気でね」

そんなありふれた言葉を、私はただ「はぁ」「はぁ」と返事をし

冷めた視線で聞き流していった。

ふと顔を上げると、そこにはその体育の女の先生が立っていた。

その先生は、私の顔を見るなり

「ごめんね」といった。

「ごめんね。先生、昔、知らなくて・・・ごめんね」

と言うのだった。

一瞬なんのことかと思った。そして、すぐ中学1年のあの時のことだと、

思い付いた。

不意打ちだった。もう3年近く前の話である。それをこの先生は覚えてい

たのかと思うと、涙があふれてきた。私は首を振って声を出そうとした。

「も・・・い・・から、もぅ、いいから」

私は首を振りつづけた。

「みおが泣くなんて、思ってもなかったよ」友人達はからかう。

「ほっとけ!」と私はむくれていた。

さらば、中学!なんと、辛い日々であったことか!

しかし、私は逃げなかった。

この充足を誰が認めなくても、私だけは認めよう。

校門を振り返り、私は心の中で敬礼をする。

バイバイ!中学!もうこねーよ!

そんな気持ちで。



みおさと






創さんのコメント


みおさんから投稿を頂きました。彼女は中途失聴です。

このエッセイを読んだとき、わたしはいろんなことが頭の中を駆け巡りました。

自分の中学時代のこと・・・。

いまわたしの書いているエヴァ手話のこと・・・。

そして前に投稿いただいた、ムーさんの『わたしのアスカ』のこと・・・。

『新世紀エヴァンゲリオン』を知っている方なら、きっとこの「卒業式」は思い当たることがたくさんあったのでは?



さらば、中学!なんと、辛い日々であったことか!

しかし、私は逃げなかった。

この充足を誰が認めなくても、私だけは認めよう。

校門を振り返り、私は心の中で敬礼をする。

バイバイ!中学!もうこねーよ!

そんな気持ちで。




これが彼女のA・T−フィールドなのでしょう。

わたしがエヴァンゲリオンにハマったのは、こういうところからです。

これを読まれた方は、まずはみおさんのHPに行ってみてください。

そのうえで、思ったことをメールなりBBSに書き込んでいただければ・・・、と思います。


ちなみにわたしの中学時代は楽しかった思い出の方がはるかに多いです(^^;;


戻る