『現在、高度一万』

 

 『現在、オーストラリア大陸北部上空』

 

 『予想区域内に入ります』

 

 「了解。

 予定通り、0130にN2弾道弾を発射。

 その後、エヴァ伍・六・七号機を切り離して」

 

 『了解』

 

 「でも、本当に大丈夫なのかな?」

 

 『アンタ馬鹿!

 攻められっぱなしで良いワケ?』

 『そやセンセェ!

 攻撃は最大の防御や!!』

 「でも・・・・・・・・・・・・」

 

 そう言って、下を見下ろすシンジ

 

 『今まで受け手ばっかだったからね。

 たまには先手を打たないと。』

 「でも、ミサトさん・・・・・・・。」

 『シンジ君、不安なのは判るわ。

 でも、不安なのはあなただけじゃないのよ。

 それに、これを終わらせなきゃ安心なんかしてられないわ。』

 

 

 口には出ないが、ミサトも不安を感じていた。

 

 

 

 君と僕があるために
 第11話 なんでもない日常へ

 

 

 トウジがやって来たエヴァを潰してから数日後

 米国から提供された衛星写真により、先日飛来したエヴァシリーズの格納庫らしき場所が判明

 が、それは加持がペンタゴンからつてを頼って手に入れたモノと判明

 加持、入手ルートを吐くまで監禁決定

 

 

 作戦部・葛城ミサト

 直接、敵地に乗り込んだ上での総攻撃を提案

 司令代理・冬月コウゾウ

 これを承認

 日本政府に協力を要請

 

 

 日本政府、これを受託

 戦略自衛隊、並びに国連軍に出動要請が出る

 

 

 同時刻

 味噌汁の出汁を取っていたシンジ

 シャワーを浴びて、Tシャツ短パン姿のアスカ

 ネルフ諜報部によって本部へ移送される

 

 

 作戦内容

 「早い話が、敵の本部に乗り込んで残るエヴァを殲滅するのよ」

 単純明快

 

 「で、その本部はどこですか?」

 「オーストラリア大陸よ」

 「オーストラリア?

 あの、なんにもないとこに?」

 「そ、オーストラリア。

 昔は随分賑やかだったみたいだけどね。

 今じゃただの更地のようなモノよ。」

 

 

 

 「もう、乗ることはないと思ってたのにな。」

 エヴァ

 運命を共にした初号機ではなく、量産型・改

 そのエヴァを目の前にして、シンジがポツリと呟いた。

 「乗らないにこしたことはないわよ。」

 不意に、横から声がした

 そこにはミサトがいた

 

 

 

 

 「まだあの子達を乗せなくちゃならないなんて、皮肉なモノね。」

 シンジがケイジから去った後、一人呟くミサト

 

 

  

 『間もなく、作戦開始時刻です。

 全機、作戦開始位置に配備完了』

 

 「では、スタート!」

 ミサトの号令

 時刻は現地時間で深夜の1時30分

 

 太平洋、小笠原諸島周辺の戦略自衛隊所属艦隊より、N2弾道弾

 

 

 

 

 発射

 

 

 

 

 

 着弾

 

 

 

 

 

 爆発

 

 

 

 

 闇だけが支配していた世界に、とてつもない明るさをもたらす爆発

 N2弾道弾の存在証明であるかのように 

 

 輝く

 

 そして、一瞬だけ世界を白く染め上げる

 

 

 

 

 「たった一発で・・・・・・・」

 シンジは、その威力に素直に驚いた

 大地は大きくえぐられ、随分大きなクレーターが出来上がった。

 その中に、なんらかの建物らしき物が見えた

 

 

 

 

 『伍号機、切り離します』

 日向のナレーションが耳に入る

 『じゃぁみんな、頑張って』

 最後に、ミサトの一言

 

 

 

 

 

 

 「来たか・・・・・・・」

 上空を見上げる老人が一人

 目に怪しいバイザーを装着した老人は、奥の部屋の中へと消えていった

 爆発がその周辺を襲う5分前だった

 

 

 

 

 

 

 『表層部の熱は、完全に引きました。送る!』  

 

 「では、地上部隊スタート」

 

 ミサトの号令と共に、戦略自衛隊の部隊がアリの列のように動き出した

 VTOLが数十機飛び交い、輸送ヘリから降り立った部隊が大地を駆ける

 暗い闇の中を暗視装置を装備した部隊が駆ける

 

 

 戦争が日常的であったことなど無い

 戦争は非現実的な時間をもたらす

 

 

 

 エヴァシリーズは上空待機だった

 「じゃ、済まないけど、あと、宜しく」

 そう言うなり、ミサトはパラシュートを背負い、機から飛び降りた

 

 全ての黒幕と、実際に会ってみたかったから

 

 

 

 地雷のような類は、いっさい仕掛けられてはいなかった

 それ故に、歩兵達は悠々と施設の中に侵入が可能だった

 

 

 だが、中には誰もいない

 いかにも高性能そうなコンピューターが数台あるだけだった。

 

 「逃げられた?」

 「地下か?」

 「集団自決じゃないだろうな?」

 「ガセネタだったんじゃないか?」

 様々な憶測が飛ぶ

 シンジたちは空を悠々と飛び回る

 

 だが、ゴングは突然鳴った

 

 警告音が鳴り出す

 その場にあった全てのディスプレイに、電源が入った

 

 何も映っていなかった

 

 銃を構える隊員たち

 だが、何も変化はない

 

 安堵する隊員達

 

 

 だが、目の前に映った光景は

 とても信じられるものではなかった

 

 

 

 白い、巨大な腕が地面から這い出てきた

 

 

 

 

 「D−8地区に反応

  間違いありません・・・・・エヴァシリーズです!」

 

 日向の叫び

 上空待機中の子供達に伝わる

 

 

 トウジ

 すっかり戦闘モード

 『待ってました』と言いかねないような表情

 

 アスカはやや緊張気味
 強がってはいるが、シンクロできたこと自体が信じられなかった。
 まともに戦えるかも分からないし、正直言えば怖い。

 

 シンジは戸惑いを隠せない

 

 エヴァシリーズで実戦経験のあるのはトウジのみ

 

 

 「先行くで!」

 アスカに変わって切り込み隊長、トウジ

 プログナイフを片手に直下降で目標を目指す

 

 

 「始まったか・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 バイザーを装備した老人

 寂しげに呟く

 

 

 結局、残り四機ともエヴァシリーズは出てきた。

 トウジは快調で、すでに一機屠った

 屠ると言っても、プラグを引っこ抜いて四肢と羽根をズタズタにしてしまう。

 そして、あらかじめ指示されていたS2機関を破壊する

 要するに、完全に再起不能にしてしまう

 シンジとアスカは一機を相手するのが精一杯

 

 「く、しつこい!」

 シンジは焦りを感じ出す

 もし、今エヴァが止まったら、地上の人達はどうなるのか

 

 考えたくもない

 

 でも、最悪の結果を想像してしまう

 実力では上なのに

 焦りが足を引っ張る

 

 「もう、負けてられないのよ!」

 アスカも焦る

 だが、勝利と今までの苦い過去しか頭の中にはない

 

 もう誰も見てくれない

 

 その思いがフラッシュバックする

 そして思いこむ

 みんな見てくれてるのに疑う

 そして、実力が出ない

 焦りだけが先行する

 

 

 ミサトが到着した頃には、エヴァ達は随分遠くにいた

 まるでワザと施設から離したかのように

 

 ミサトの目の前には、ボロボロのバラックの様な建物があった。
 躊躇せず、爆風で半開きになったドアを蹴破ると、愛用したマシンガン、イングラムM10のロックを外して中に入る。
 当然、中には誰もいない。

 だが、地下へ続く階段があった。
 もちろん、進むしかない。

 暗い階段を、一歩一歩確かめるように踏む。
 49段ほど降りたところで、ドアが現れた。
 だが、鋼鉄製でも何でもない、木製のちゃちなドア
 一息置いて、一気にドアを蹴破る

 恐怖心を払いのけるかの様に

 

 だがそこに存在したのは、目の前には数台の大型コンピューターと、後ろ姿の老人が一人だけだった。

 

 「ようやく来たかね?」

 疲れ切った、老人の声だった。

 「貴方が、キール・ローレンツ・・・・ゼーレの実質的NO.1であり、人類補完委員会の委員長」

 この男が・・・・・・そう思うと、即座にマシンガンの引き金を引きたくなった。
 だが、そう言うわけにもいかないし、この男には罪を償う義務がある。

 そして、碇ゲンドウが居ない今、この男が最も重要な参考人だった。

 

 「千年王国を知ってるかね?」

 

 唐突にキールは話し出した。

 「千年王国?」

 あまりにも唐突なので、思わず聞き返すミサト

 

 「そうだ、神の国と言った方がわかりやすいかな、葛城君ミサト君?」

 何処か自嘲気味な声で、ゆっくりマイペースで話し続けるキール

 「なぜ・・・・・・・・」

 「君が、葛城博士のお嬢さんだろう。知らない筈はない。

  彼には、随分世話になったからな。」

 「どういうこと・・・・・。」

 しばしの沈黙

 瞬きさえも見逃さないように、キールを凝視するミサト

 だが、キールの目はバイザーのお陰で、見ることは出来ない。

 「千年王国・・・・神が、千年間の間だけ、人類にもたらす至福の世界。
  そのために、良き協力者として共に歩んだのだがな・・・・・。」

 

 

 「うわぁぁぁぁぁぁっ!」

 シンジがやっと一機屠った。
 当然、プラグを引っこ抜き、S2機関を破壊

 これで残るは二機

 アスカとトウジの分だが・・・・・・

 トウジは敵機を完全に圧倒していた。

 レーダーの反応には、トウジの機体からパターン青がでてるが『気にしなくても良い』との指示が出ていた。

 だから、戦闘が終わればまた消えるのだろう。

 だが、問題はアスカの方だ

 どうも互角・・・それ以下の戦いをしていた。

 

 アスカにしてみれば必死だった。

 『自らの今後を決めると言っても過言ではない』

 そう考えていた。

 「エヴァに乗れれば、自分の存在理由がある」

 そう、第三にいる理由

 

 血は繋がっていないけど「家族」がいる
 頼りない同居人がいて、ペンギンがいて、自分を振り回す少年がいる

 「負けられないのよっ・・・・」

 余り力強くない、か細い声。

 しかし、シンクロ率は上がって行く。

 

 「負けてられないのよっ!」

 

 自分の中で、思いを再確認するかのように叫んだ。

 シンクロ率は上がって行き、敵機を押し返す

 

 だが、一押し足りない

 

 シンジがプログナイフを投げた

 エヴァシリーズの首筋に命中

 怯んだエヴァシリーズ

 アスカがその隙を見逃すはずもなかった

 「でやあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 相手の首に腕をまわし、プログナイフを引き抜く

 「フギャァ」

 量産機の苦痛に喘ぐ鳴き声が聞こえたが、気にしなかった。

 引き抜いたプログナイフをもう一度刺す

 更に刺す

 

 何時かの復讐なのだろうか

 滅多刺し

 『アスカ、もう良いよっ!』

 無線でシンジが叫ぶも、アスカには届かない

 更に刺し続ける

 プラグも破壊し、S2機関も既に息絶えていた。

 

 それでも、狂ったように刺し続ける

 

 『アスカ、もう良いんだよっ!』

 

 シンジは、それでも止まらないアスカのエヴァの右腕を掴むと、左腕で器用にプラグを排出した。

 それと共に、活動停止する量産機・改

 

 「負けられないのよ・・・・・・・・」

 そう呟きながら、プラグの中で小さくなってるアスカ。

 

 「ヒギャッ!」

 トウジがとどめを刺した様だった。
 これで、もうエヴァは事実上三機しかないことになる。
 S2機関も破壊し、再起も不能だろう。

 

 「アスカ・・・・・・終わったよ。」

 いつかのレイの時と同じように、プラグを手動でこじ開けたシンジ。
 小さく丸まってるアスカを見て言った。

 

 沈黙

 

 「僕らの仕事は終わったよ、アスカ。
  もう、戻ろうよ。」

 

 プラグの中の底辺に残ったLCLで出来た水たまりが、シンジの足音を強調した。
 中に入ってきて、アスカの腕を肩に手をまわさせた。

 

 「もう終わったんだよ、アスカ。」

 

 もう一度、確かめるようにシンジが言った。

 

 「そう・・・・・・・。」

 力のない呟きを、アスカが返した。

 

 「ホラ、もう行こう。」

 

 プラグの外では、トウジと、日向が待っていた。

 しかし、ミサトはいなかった。

 

 「ミサトさんはどうしたんですか?」

 問うシンジ。

 

 「分からないんだ・・・ただ・・・・・」

 口ごもる日向

 

 

 「我々の理想の世界を造るため、一度この世界を浄化する必要があった。
  だから、セカンド・インパクトを起こした。それが理由の一つだ。」 

 身勝手すぎる理由
 『我々』とは、どの様な奴らの集団なのか確かめてやりたい。

 「貴方たちの、勝手な理想のために世界を浄化するですって?
  大きなお世話よ!
  だったら、今の世界はなに?
  汚れているから一度綺麗にするですって?
  ふざけるのもいい加減にしなさいよ!」

 

 「もしよければ、一つ聞かせて貰おうか。」

 

 「なにかしら?」

 

 「何故、ドイツ支部を空爆した?」

 

 初めて知ったミサト、

 「どういうこと?」

 

 「知らんのかね?」

 

 「今初めて知ったわ。」

 

 「そうか、ならいい。」

 

 それは、後で加持を拷問にかければ済むこと。

 無線で、そのことを伝えると、もう一度キールの方を向いた。

 

 だが、キールのバイザーに先程のような光がなかった。

 嫌な予感がしたミサト

 試しにキールに向けてイングラムの銃口を向けてみる。

 

 反応無し

 

 「ねぇ、ちょっと?」

 キールの腕を掴む
 だが、生きているとは思えない、恐ろしく冷たい腕

 

 「もう、終わりだ・・・・・・・・」

 そう、聞こえた。

 

 キール・ローレンツの中から、『シュゥゥゥン』と言った感じの、駆動音の鳴りやむ音が聞こえた。

 

 ミサトはもう一度部下に連絡を取ると、嫌なモノを発見した。 

 《09:20》

 とてもタイマーチックで、デジタル表示の秒針がどんどん減っていく。

 《08:59》

 明らかに、時限爆弾チックだ。

 

 『まずい!』

 

 反射的に駆けだしていた。
 その際に、DVDを何枚かかすめることを忘れはしなかったが

 外に出て、もう一度部下に連絡した。
 そして、なるべく離れるように指示を飛ばす。

 

 だが、自分はどうしたらいいだろうか?
 とにかく、今は走ることしかできない。

 ならば、少しでも離れるだけ。

 

 走り出して数分後、もう一度時計を見た。
 ストップ・ウォッチを併せて起動させていたので、残り時間を確かめる。

 

 後、三分

 

 下手すれば自分も一緒に木っ端みじん

 それだけは避けたい。

 

 後、二分

 

 どこかから、ジェットエンジンの駆動音が聞こえた

 それに混じって、大音量の

 『葛城ぃ、聞こえるかぁ?』

 スピーカーから聞こえるその声は、聞き慣れた男の声

 VTOL機だった。

 

 『助かった。』

 

 そう、心の底から思った。

 

 

 

 「ミサトさんは、加持さんが無事保護したそうだよ。」

 日向、美味しいところを加持に持って行かれたために嬉しさ半分悔しさ半分

 彼が無線を聞いていて唇を強く噛んでいたのは、誰も知る由はない

 

 その10秒後

 南西の方角で、結構規模の大きい爆発が起きた。

 

 爆発したのは、キール・ローレンツの体だった。

 

 

 

 続く

 


緒方の懺悔混じりなコメント

お久しぶりです、緒方です。
もう、本当に御免なさい。
ハッパをかけていただいたにも関わらず、ペースが停滞してしまいました。
もう、軍事会議に掛けられたら銃殺モノです。
高2って以外と忙しいです。 実は試験多すぎです。
終わるのは何時でしょう?まだ続きそうです。
本当に申し訳ありませんでした。

ドラムをかじりだした僕が悪いのです。(深い意味はありません)


創さんからのブリザードリィなこめんと

『ドラムをかじると、歯茎から血が出ませんか?』

この元ネタが解る人はジジイです(笑)。解らなかった人はうちのおとーさんやおかーさんに聞いてください。

さて、今回は戦闘シーンですな。なんとか敵を倒したチルドレンたち。なんでもない日常はほんとうにやってくるのでしょうか?君と僕があるために・・・。

物語の大団円は近い!・・・と、思う。

試験と戦う緒方さんへのメールはこちら

緒方さんのHP「KEEP on RIDING」

投稿作品のページにもどる