少女は人形のように表情を変えない
 
 少年は笑顔を絶やさない
 
 大人は苦悩するばかり
 
 
 君と僕があるために
 第3話 悩みのタネ
 
 
 11月も終わりに近づいた週末の日
 
 シンジは退院して、ミサトの新築されたマンションにいた。
 既にミサトのマンションは衝撃波によってボロボロになってしまったが、幸い中の家具は散乱しただけで済んだので引っ越していた。
 ミサトが家事の出来る同居人を求めたためだった
 
 「ミサトさん、ひとつ聞いてもいいですか?」
 少し戸惑うミサト。シンジは記憶がないとはいえ前と変わらない気がしたから
 「なぁに、シンちゃん?」
 「12月の4日って、アスカの誕生日ですよね」
 ニタ〜と笑みを浮かべるミサト
 まずい事を言ったと思ったシンジ
 「へぇ、やっぱアスカのこと・・・」
 「ええ、好きですよ。それが何か?」
 「へっ?」
 前と違って、からかっても全然効いてない
 ミサトはいろんな意味で悲しくなり、ペンペンをいぢめた
 そんなミサトを横目で見ながらシンジはミサトに優しく言った
 「じゃ、出かけてきますね。昼ご飯は用意してありますから。」
 
 プシューとエアの漏れる音がする。ドアは閉まり、残されたミサトはペンペンを抱えるとため息をついた
 
 『結局、何も変わってないように思えるのね、シンジ君の中に記憶がないとしても。
 でも、随分あっさりと溶け込んでいる・・・・まさかね・・・・』
 
 シンジは記憶を失っていない
 誤魔化して、欺いて生きている
 
 そんな疑いがミサトの頭の中に芽生えたが、すぐに消えた。
 前より料理が上手くなっているから
 逆に医者の仮説は間違ってないと
 
 
 シンジは間もなく学校が始まることを聞いていた。
 だが、彼には記憶が一部無い。
 不思議なことに中学生では習わないような事を知っていた。今のシンジはドイツ語も喋れる。
 
 シンジを担当した精神科医、緋室サトルは冬月からシンジの置かれた状況(冬月の想像の範囲のモノ)と補完計画のもたらす効用を聞き、こう判断した。
 『シンジ君は多分、初号機内での碇ユイさんとの接触の際に彼女の記憶が流れ込んだんだと思います。
 まるでSFの様な話ですけど、それで膨大な記憶がシンジ君の中に流れ込み、彼の記憶が混乱しているんだと思います。
 時間がたって、整理がつけば記憶も戻ってくると思います。
 それがどの位かかるかは分かりません。』
 
 記憶の喪失ではなく、記憶の混乱。
 緋室はそう結論づけ、仮説をたてた。
 
 
 それ以来、シンジは過去に起きたビデオや写真などの記録を貪るように見ていた。
 緋室が『以前に体験したことを周りに聞いてもう一度見返してみるといい』と言っていたからだった。
 勿論、アスカの所へ行くのも忘れてはいなかった。
 もしかしたら彼女が記憶を呼び起こしてくれるかもしれないという期待と彼女を想う、埋もれたシンジの気持ちのままに。
 
 
 
 緋室は京大出身の精神科医だった。
 が、突然冬月教授から呼び出され、気がついたらネルフにいた。冬月とは分野が違ったが、頼み込まれたため引き受けた。
 
 そして自分の勤め先の内容を知って驚愕した。
 
 『子供を精神汚染の恐れのある道具に乗せて戦わせる』
 
 これを知ったとき、自分が一介の医師でしかないことを恨んだ
 が、自分にしかできないこと、もし、子供達に問題があったら助けるために全力を尽くすことをやって欲しい、と冬月に説得された。
 
 
 彼の容姿は、髪は伸びに伸びた長髪をオールバックにして後ろでゴムで止めていた。背は175pを超えたぐらい。細身で女顔。まるでシンジの兄のような顔だった。
 それ故に、アスカが親近感を感じ心を開くかもしれないと、今度はアスカの担当になっていた。
 
 
 その日、緋室はアスカの病室にいた。
 
 『とにかく話し掛ける』
 
 緋室は話し掛けることで閉じた心を開かせようとしていた。
 一度張った心の壁はたやすく崩れない。それでも根気強く粘った。
 
 それでも今日も心のドアは開かない
 緋室は今日も落胆しながら研究室へ帰っていった
 
 
 1時間後
 シンジが病室に入ってきた。
 
 アスカは心を閉ざしたまま
 
 
 
 マヤはMAGIの裏コードを貪るように読んでいた。
 今はいない赤木リツコの代わりを務めるため
 少しでもMAGIの事を知っておきたかった。
 
 だが、赤木親子の遺産はそう簡単にマヤになつかなかった。
 そして、毎日のように徹夜が続く
 
 
 
 加持は困惑していた
 もともと政府からの鈴だった筈が突然副指令にされてしまったためだった。
 もう遊ぶことは出来ない。
 
 「これは真実を知った代償かな・・・・」
 
 そう自嘲気味に呟いた
 まぁ、こんなのも良いかなと内心は思っていたが
 
 
 
 冬月は総司令にはなった。
 だが、冬月の専門分野は生態幾何学であって政治ではない
 
 『この役職は私にはあわん』
 そう思っていた。
 
 だが、やらなければならないことは沢山あった。
 まぁ、ゲンドウに押しつけられた仕事をこなしてきた彼にとってはそう手こずらせるモノはなかった。
 「この世に対して、私のような老人でも、罪滅ぼしぐらいはやらねばならない」
 そう言って業務をこなしていた。
 
 だが、問題はチルドレン・適格者だった。
 4thチルドレンの鈴原トウジの再招集を決めた会議の時、
 
 「まだ子供に頼らねばならんか・・・・・」
 冬月の言葉は会議に出席した職員の心を締め付けた。
 全員が同じ気持ちだったから
 自分たちの無力さを知っていたから
 
 鈴原トウジは再招集に応じた。彼の出した条件は特になかったが、その一方でネルフのE計画に携わっていた技術者たちは、エヴァの生体技術を応用した治療方法を模索していた。
 『少しでも罪滅ぼしになれば』
 その思いで勝手に作った、LCLに満たされたカプセルに浮かぶ鈴原トウジの足は、彼がネルフを訪れた直後に拉致し勝手に接続することが決定した。
 
 
 
 12月1日
 
 誰もが新しい環境に困惑する中、シンジは素体を使用してのシンクロテストを受けていた。パーソナルデータは初号機の時のままだった。
 それでもシンクロ率は70%以上を平均でマークした。
 
 テスト中、シンジの頭の中に沢山の情報が流れ込んできた。
 そして、過去の記憶が流れ出した
 『ボクハダレ・・・・碇シンジ』
 『じゃぁ、父さんの名前は・・・・・・碇ゲンドウ』
 『僕と同居してるのは・・・・・・ミサトさん、アスカ、ペンペン』
 『僕が今やってるのは・・・・・・エヴァの素体でのシンクロテスト』
 『僕はなんで・・・・・・・・・・・・・』
 『僕は・・・・・・・・・・・・・・・・』
 『僕は・・・・・・・・・・・・・・・・』
 
 シンジの頭の中に大量の情報が流れ出す。
 良いことも、悪いことも全部が流れ出す。
 そして耐えかねた彼は叫んだ
 
 「忘れていたのに・・・・・なんでだよっ!」
 
 本人にしてみれば悲しい叫び
 その叫びが発令所のスピーカーから流れたとき、ミサトは喜びと悲しみを同時に味わった。
 シンジが記憶を取り戻したのは良いこととも悪いことともとれる。
 彼が記憶をなくす前にしてきた辛い現実、
 トウジの足をつぶし
 アスカを傷つけ、汚して
 カヲルを殺した

 
 その事実が彼の中で蘇ってくる。
 

 「なんで・・・・どうして・・・・・・・・母さん・・・・・・・」
 力無い少年の呟き
 
 
 同時間帯
 鈴原トウジ、大阪から本部到着。
 その直後に白衣を着た集団によって拉致され、手術室へ直行となった。
 彼の手術は一応、本人の同意の元で行われた。
 トウジは
 「足が・・・元に戻るんやな・・・・」
 と呟き、麻酔によって深い眠りへとおちた。
 
 
 
 シンジはエントリープラグの中で壊れかけていた
 急に流れ込んだ膨大な記憶の量の中の
 忌まわしい記憶のせいで精神はボロボロだった
 そして、自らの心を壁で覆ごうとしていた


 意識が薄れる中で

 エントリープラグがイジェクトされる音と

 緋室の自分を呼ぶ声が

 シンジに聞こえた
 

 続く

  

あとがき

緒方です。
良いペースで第3話まで書けましたがどうでしょう?
この話でシンジの記憶を元に戻します。まぁ、正しく言えば記憶喪失ではないかもしれないですけど。
とにかくまだまだ続きます。
書いてる自分が混乱してきましたが、次も期待して下さい
ポスター以上の隠しネタがまだあります?(いっつも書いてるその時点で全力を尽くしているため不明)
あと、「緋室サトル」ってオリキャラを出しました。設定が曖昧ですがそのうち彼のことをしっかり書こうと思います。


創さんのこめんと(第2話からの続き(^^ゞ)

さて、物語がついに動き出しました。やっぱり帰って来たあの男。苦悩する冬月。明日の見えないシンジとアスカ!

こうなったら第4話を待つしかないのか!?

緒方さんへのメールはこちら

緒方さんのHP「RIDE on AIR」

投稿作品のページにもどる