少年は目覚めた
 
 もう一度彼女の笑顔を見るために
 
 強くなって
 
 
 
 少女はまだ目覚めない
 
 心を閉ざしたまま
 
 うつろな目で天井を見上げる
 
 
 
 君と僕があるために
 第5話 HAPPY BIRTHDAY DEAR ASUKA 前編
 
 
 
 久しぶりの外出で、シンジは同伴者に戸惑っていた。
 その同伴者は加持だったが、加持は会うまで死んだ筈だと思っていた。
 トウジにも一度聞き返してしまった。
 
 だが、加持はシンジの横を歩いている。
 死んではおらず、現実に生きているのだ。
 
 
 車に乗って、上の街へ出る
 
 
 「どうした、シンジ君?」
 いつでものんきな加持、それに対しちょっと表情が陰ったシンジ
 ミサトとは比べモノにならない程の安全運転の車内
 「どうして加持さんが死なずに済んだのかって考えてました。」
 苦笑する加持、あくまでも真剣な表情のシンジ
 「知りたいか?」
 「知りたいです・・・・・」
 加持はシンジの返答の後、一息ついて言った。
 「俺も解らん♪」
 「ど、どういうことですか?」
 「黒服の奴に銃で撃たれたのは覚えてるんだけど、そっから先の記憶が無くてね。
 気がついたらベットの上だったわけさ。これでいいかい?」
 「本当ですか、それ?」
 「どうだろうな。俺にも解らんが、まぁ生きてるってのは確かだ。」
 「そうですか・・・・。」
 憮然とした表情で前を向くシンジ
 
 
 会話が途切れてから、加持の赤いアルファロメオは会話を払拭するかのように速度を上げた。
 
 
 
 
 換気口の前で何かを待つ加持
 「よう、遅かったじゃないか♪」
 
 
 ズダァン
 
 
 響く銃声
 
 腹部を貫通し倒れる加持
 
 撃った黒服の仲間の男は加持の止血手当をすると担いで運んでいった。
 黒服の行き先はネルフの病院施設だった。
 そこで加持は治療を受け、LCLに一度還り、気がついたら腹部の怪我も治っていた。
 最も、それまで目が覚めることなく集中治療室に入りっぱなしだったが。
 
 で、起きてから担当医師に今までの経過を聞いて『副指令が諜報部に手回しした事』を知った。
 
 『今思えば、あの時は死ぬ覚悟はできていたのかな、俺は?』
 
 自問してみる、だが答えは返ってこない。
 
 確かに加持は死を一度覚悟していた。
 『よう、遅かったじゃないか♪』
 この言葉は自分を殺しに来た者に言う言葉じゃないだろう。
 
 まるで自分が死ぬ
 
 それを肯定していた言葉だった。
 
 
 
 我に返ってみると、シンジが横で絶叫していた。
 いつの間にか車の運転が凶暴化していたためだった。
 
 「スマンスマン、シンジ君がいるのを忘れてた♪」
 苦笑しつつもどこか楽しそうな口調で加持は謝った。
 それでも、ミサトのそれより謝ってるようだったが・・・・・。
 
 
 目的地に着いたのは午後3時だった。
 外は長袖一枚だけじゃとてもいられないぐらい寒かった。
 そのために、15年ぶりにコートを着る者やマフラーを巻く者も結構いた。
 
 街の方は一部の兵装ビルの後地にデパートが出来ていたり、元々あった商店街がリニューアルしたのもあるが、疎開から帰ってきた人達が大量にいたためかなり賑やかになっていた。まぁ、金曜日ってのもあったが。
 
 
 学校の再開は2月からに決まった。
 商業・産業・住宅等をかなり優先したために校舎の方がまだ完成の目途が立ってないのである。
 それでもとりあえず住人が戻ってきた。
 
 これから先の、首都としての第3新東京市に期待して
 
 
 シンジは悩んでいた。
 『アスカの好みは何か?』
 である。
 
 今日は12月4日、アスカの誕生日なのである。
 それはついこの前ににミサトに教えられていたが、最近はあやふやになっていたので緋室に確認していた。
 
 
 『誕生日』が少しでもきっかけになってくれれば
 そう考えていたのは主治医の緋室だった。
 『既に一ヶ月近く眠っている少女をどうにか起こせないか』
 だが緋室は男である。
 女の、特に少女のことは未だによく解らない。
 
 やはり男にとって女は向こう岸の存在
 
 それ故に、ミサトやマヤ等のネルフの女性職員に協力を依頼したり、加持に話し掛けてもらったりとあらゆる方法を試してきた。
 だがアスカは目覚めない。
 で、緋室にとっては誕生日が最後の手段なのだ。
 よって、シンジを利用してしまおうと考えた。
 
 
 
 シンジはデパートの中で悩んでいた。
 お金の心配は全く無い。
 『碇 ゲンドウ』と署名されたカードを持っているから
 だが、アスカの欲しそうな物は分かるはずがない。
 本人も眠った状態のままだから聞きようが無い。
 
 
 1時間に渡って悩んだあげく選んだ物は、赤いダッフルコートだった。
 
 
 
 
 加持が病院まで車で送ってくれるので、加持を待ち合わせの場所で待つ間、シンジはこの数日間のことを考えていた。
 
 
 数日たった筈なのに
 まるで数時間しかいなかった気がした
 
 沢山の情報が流れ込んだとき
 記憶が一時的に飛んだのだが、それはユイの記憶の一部
 
 自分が、英語だけでなくドイツ語まで完璧に翻訳出来たのには
 自分が一番困惑した。
 
 エヴァに乗ったとき
 欠けた記憶が埋め込まれて
 記憶が整理されて復元された時
 恐怖を感じた
 
 だが、希望でもあった
 
 自分が変われるかもしれない
 
 かりそめの強さではなく
 本当の強さを得られるかもしれない
 
 現実から逃げるのではなく
 現実を受け止めて
 立ち向かえる
 
 そんなことを考えるうちに目が覚めた。
 
 トウジが目を丸くしていた。
 
 
 
 シンジが時計を見た
 
 〈17:30〉
 
 約束の時間であるが加持はいない。
 代わりに来たのは緋室だった。
 しかもバイクで
 
 「ゴメンよシンジ君。加持さんは仕事の方が立て込んじゃって、代わりに僕が来たよ。」
 最初っから分かってますよ、と云う顔をして
 「分かりました。」
 と答えるシンジ。バイクであることに少し恐怖を感じたが緋室はお構いなしに喋った。
 「良いニュースがある。」
 ニヤリと緋室の表情が変化する。
 シンジが怪訝そうな顔をする。
 「アスカちゃんが目を覚ました♪」
 嬉しそうに言う緋室
 突然のことに
 「ほ、本当ですか?」
 と尋ねるのが精一杯のシンジ
 緋室はそんなシンジを見透かすかのように
 「さっさと乗った乗ったぁ!」
 シンジを煽った。
 
 
 シンジにメットを渡して後ろに乗せると緋室の銀色のZZ−R1100はブラックマークと緋室の
 
 「荷物を手放すなよおっ!」
 
 という叫びを残してその場を去っていった。
 
 
 緋室の悪い癖
 
 それは、バイクに乗ると人格がやや攻撃的になることだった。
 
 
 シンジは病院まで初めてエヴァに乗った時以上の恐怖に晒されて
 
 耐えきれず叫んだ。
 
 「もう勘弁してよっ!」
 
 
 それでもシンジの頭の中はハッピーだった。
 
 『アスカが目覚めた』
 
 まだ無理だろうと思っていたが、誕生日の日の当日にせよ間に合ったことにかわりはない。
 
 ただ、叫びながらも期待と不安がシンジの胸の中を駆け巡っていた。
 

 緋室は久しぶりにバイクを転がせることで頭の中はドーパミンが垂れ流し状態な程に分泌されていた。

 トンネルの中には、甲高いエンジン音が叫ぶように響いた

 
 
 続く
   

緒方です。
今回は前編・後編に分けました。
せっかくのアスカの復活ですから丹念に書こうかと。
ま、オリキャラの緋室のバイク好きは余興です。
そう言えば今回はトウジが出てきませんでしたね。
僕は彼を結構好きなんですけどねぇ、面白くて。
とにかく次は後編です。
休日に全力で行きます。


緒方さんから第5話が届きました。いよいよアスカさんの復活に向けてばく進ちう。

後編は来週かな?>ひそかにプレッシャー(笑)

ところで緒方さんはついにご自分のHPでも連載を開始されたようです。ああ、またひとり有能な若者がエヴァSS地獄へとはまって行く・・・。

緒方さんへのメールはこちら

緒方さんのHP「RIDE on AIR」

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