慢性関節リウマチは代表的な続発性骨粗鬆症ではない?
ー同一患者の腰椎、橈骨、踵骨骨量測定と身長短縮との検討ー

上野整形外科、楠原外科医院、三洋骨粗鬆症研究所

上野武久、松岡弘行、今井弘子、岡本純明、岡本純忠

[目的]
 「慢性関節リウマチ(RA)で続発性全身性骨粗鬆症は起こらない」とする報告が多い。すなわちRAで全身性骨粗鬆症が来るのは殆どが大量ステロイド使用例であり、腰椎DEXAでは骨量減少がないとされる。橈骨等、局所性骨量減少は認められるがこれも以外の不動性RA特有のものか否か、結論は未だ出ていない。我々はRA患者各部位の骨量を測定し身長短縮との関連を検討した。

[対象と方法]
 女性RA患者120例(少量ステロイド内服51例、非内服69例)の第2〜4腰椎DEXA(QDR-1000W Hologic社)、橈骨PQCT(Stratec社)、両側踵骨(アキレス、Lunar社)の骨量を測定した。胸腰椎X線を撮影、各種骨代謝マーカーを測定した。骨量の測定と解析は全例で同一の測定者が行った。聞き取りにより20歳時より測定時までの身長の短縮を調査した。

[結果]
 RA患者においては腰椎骨量をZ−Scoreで示した場合その低下は認められず「RA自体では続発性骨粗鬆症は来さない」とする最近の多くの報告と一致する成績を得た。ステロイド少量(7.5mg/day以下)投与の場合、投与期間に拘わらず腰椎骨量の減少をは認められなかった。身長の聞き取り調査を腰椎骨量と対比した場合、身長短縮例では骨量が有意に低下していた。一方、橈骨PQCTの検討ではRAにおいて平均値は低下するが著明な高値を示す例もしばしば認めた。橈骨及び踵骨骨量はステロイド内服患者(5mg/day)の方が非内服に対し有意に減少していた。また、踵骨ではステージによる有意差が見られたが、連続歩行能力との相関も認められた。

[孝按]
 RA患者における腰椎骨量に関しては重症度に相関して骨量減少するとに報告もあったが、ステロイド投与量が一日10mgを越える例が含まれその多くはステロイド骨粗鬆症と考えられる。最近ではRAのコントロールが良好でステロイド投与が少量にとどまる例が多くその場合には有意の腰椎骨量の減少は認められないとする報告が多い。我々の検討でも同性、同年齢で比較すると有意の腰椎骨量の減少は認められなかった。ステージ、Lansbury indexとの関連も検討したが減少の程度は著明でなく相関も明確でなかった。女性RA患者において橈骨、踵骨骨量は減少しこれには不動性の要素が大きいとも考えられた。少量のステロイドの骨量への影響も橈骨、踵骨では認められた。RAは続発性全身性骨粗鬆症の代表的疾患のように扱われて来た。RAにおいて骨髄細胞の異常やサイトカイン産生、アポトーシスの異常などがある場合に続発性骨粗鬆症の機序と短絡する考察も多い。しかし、このような異常が信頼性の高い骨量測定の推移と一致した場合にのみこれを続発性全身性骨粗鬆症に関連づけて考按する慎重な姿勢が求められる。勿論RAで椎体骨の減少がある以上に椎間関節の変形 、硬化を認める例があり、骨粗鬆症+骨変形硬化症という二重の異常により腰椎骨量が保たれた値を示す可能性は残っている。しかしRAには大量ステロイドを過去に受けた例が多く単なるステロイド骨粗鬆症をRA続発性骨粗鬆症と誤認した可能性も捨てられない。骨粗鬆症治療の選択に於いても今後留意すべき点である。

[結語]
 RA患者骨量同時測定で橈骨、踵骨には著明な減少が認められ、身長の短縮は腰椎骨量とよく相関することが認められた。しかし、腰椎骨量は年齢相応の値を示した。またこれが見かけ上のZ−Score相応値である可能性も残っている。しかし骨粗鬆症の判定に於て最も信頼性の高いDEXAで骨量減少が認められない以上はその理由が確定するまでは安易に「RA続発性骨粗鬆症」の名を冠してはならないと考えた。

身長短縮(cm) L2-4BMD
0−0.9 0.902±0.049
1.0−2.9 0.780±0.029
3.0−5.9 0.763±0.029
6.0−17.0 0.742±0.057

第17回日本骨代謝学会演題発表,リーガロイヤルホテル(大阪) 1999年7月31日
日本骨代謝学会雑誌,17:312,1999.