2.雄飛編 仮想空間への没入

奇跡の価値は


 あれから約10年、FUJITAはとある化学系のメーカーで、一応は研究という名目で月給泥棒を働くようになっていた。穏やかな日々。学生時代は研究なぞそっちのけで将棋に打ち込んだりしていたものだが、就職してからは将棋もあまり指してはいなかった。
 そんな、なんの不満とすることもないような生活の中で、FUJITAは一つだけ不満だった。
な、何故、”犬神”がでないんだー!!!

 徳間からの平井和正個人誌”犬神”の出版が止まっていた。何故だろう?
 そのFUJITAの不安を解消してくれたのはパソコン通信の世界だった。


 FUJITAはパソコン通信をやっていた。それは大学の将棋部の後輩、Y氏に誘われたためであって、単に連絡を取り合ったりメール将棋を指す目的であった。(ちなみにY氏はFUJITAの最も親しい後輩の一人で、在学中にAI将棋として知られるソフトを開発した人物である。)
 ある日、”覆面作家のオンライン出版”というような文字が偶然FUJITAの目に入って来た。ピンと感じるものがあった。
 (もしかして・・・いや、期待してはいかん。)
 ニフティに登録されると、FUJITAはできる限り早く見に行った。

 まずはヒントから・・・・・・SF作家・・・・・・ベストセラー・・・・・・・これは何人もいるもんじゃない。

 では、肝心の作品を・・・・・・なんかみたことのない文体だ・・・・・・こ、このキーワード!・・・・・・主人公の名前!?・・・・・・うむ、ほぼ間違いあるまい。

 FUJITAは速攻で作者当てクイズに応募した。サイン本を手に入れる絶好の機会と考えたのだ。そして・・・・・・。

そして奇跡が起こった。

 FUJITAは己の名前を当選者の筆頭に見出してしまった。な、なんだこのHP200LXとかいうのは?
 サイン本を手に入れるというFUJITAの野望はこうして崩れ去ったのだった。


次回予告
 待ち望んでいた平井作品との再会を果たしたFUJITA。その先には新たな出会いと意外な再会が待ち受けていた。


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