僕は僕で
 
 君は君だ
 
 同じにはなれない
 
 所詮・・・いや、やっぱり他人だから
 
 一つになることは出来ない
 
 実体のない、生命体かどうかもわからないようなモノとして一つにはなれない
 
 進化しても液体じゃ意味がない
 
 だって、僕がいないから
 
 そして、君がいないから
 
 君の笑顔が見れないから
 
 
 君と僕があるために
 第1話 キミハダレ?
 
 
 依代とされた碇シンジは、魂が一つになることを拒んだ。
 辛いことが多く待っていても、幸せになるチャンスはどこにだってある。

 生きてるから
 彼の母、ユイはそう言った。
 そして、もう一度みんなに会いたいと思った
 笑顔で会えたらいいと思ったから
 
 
 
 LCLの中で目が覚めた。
 岸へ上がると、何かピラミッドのような物が見えた。
 少し先に、全く傷のない素体の弐号機と共にアスカのエントリープラグを見つけた。
 手慣れた手つきでプラグを排出した。プラグはちょっとへこんでた所もあった。
 ハッチは生きていて以外と簡単に空いた
 中にはプラグスーツ姿のぐったりしアスカと包帯が残ったLCLの上を漂っていた。
 シンジは声をかけることもなく、中へ入っていった。
 そしてアスカを外へ担ぎ出して、岸辺へ寝かした。
 彼は横に並んで寝た。
 何も喋ることなく・・・。
 
 巨大なレイの崩れた顔は数分で海に還った。
 LCLの海が溢れて波が立つ。
 
 
 
 少しして、軽く頬を叩かれた気がした。
 目を開けると、見慣れた人物である筈のアスカがいた。
 「さっさと起きなさいよ・・・・」
 力無い呟き。その周りには副指令、日向、青葉、伊吹の姿が見えた。
 が、碇シンジであろう少年はこう言った。
 「君は・・・誰?」
 彼が周囲を見るとネルフの制服を着た人達が彷徨っていた。
 数十分前には誰もいなかった岸辺に今はネルフの制服を着た人達が彷徨っている。
 その光景を目にした少年は口を開くことなく、優しい表情をしていた。
 
 だがアスカは怪訝そうに、あてずっぽで言った。
 「あんた、もしかして記憶喪失・・・?」
 「そうかもしれないです・・・・」
 力無くシンジは呟く
 「あんた、名前は・・・・?」
 「・・・シンジ。」
 「さっきまで何をしてたの?」
 「わからないです・・・覚えてる気がするんですけど・・浮かんできません・・」
 「じゃぁ、アタシの名前は分かる?」
 じっとアスカを見つめるシンジ
 「分かりません・・・御免なさい・・。」
 アスカは思った。シンジは結局変わってないと・・・
 でもおかしい。
 「じゃぁ、何か覚えてることはない?」
 シンジは一つだけ言った。
 「母さんが別れるときに言ってました。『生きてる限り幸せになるチャンスはどこだってある。だって生きてるから』って。」
 それには冬月が反応した。
 「ユイ君が・・・そうか・・。」
 「ユイって云うんですか、僕の母さんは?」
 少年は、母の存在は覚えていたが名前までは覚えていなかった。
 ただ、少年はアスカの方を向いて言った。
 「よかった。君が無事で・・・。」
 
 
 あくまでも常識や知識が失われた訳ではなく、記憶の一部が消えていた。
 しかも最も大事な記憶が・・・・・
 
 「ここにいてもしょうがない」
 冬月はそう言って本部施設の中へ入ることをその場にいたネルフ職員に促した。
 電気供給は非常電源、廊下は血塗れになっていたが・・・・・
 
 『ヒトとしての姿をイメージできれば誰もがヒトに戻れる。』
 イメージできなかったヒトは帰ってこれなかった。その前に死体になってしまった者はまずダメである。故にゲンドウとリツコはもういない。
 ミサトはどうか?
 ミサトは絶望的だった。被弾して意識が消えていく中、爆発が彼女を襲った、筈だった。だが彼女は生きている。綾波レイのチカラ、ATフィールドによって。もし個体生命がLCLになるのがもう少し遅かったらダメだっただろうが、虫の息ながら彼女は生きていた。更に、気がついたら腹部の傷も一緒に傷が癒えていた。
 彼女は今、瓦礫の山からボロボロになってしまったアルピーヌルノーA310で発令所に向かっている。そのことはまだ誰も知らない。
 既に生き残ったネルフ職員一同は発令所にいた。
 
 
 再会、一番そのことを喜ぶのはシンジの筈だった。だが、シンジはミサトに抱きしめられてもキョトンとしていた。なので、その場で一番ミサトとの再会を喜んだのは日向だったが、その時に彼には何の報いもなかったのは別の話だった。更にミサトがシンジに
 「覚えてないんじゃシンちゃんとの続きが出来無いじゃないっ!」
 と言って皆から怪しい目で見られ日向が現実逃避したのも別の話。
 
 シンジは記憶喪失に陥っており、質問しても答えは殆ど曖昧だった。でも、シンジは笑っていた。優しく、男にして悩殺的かつ反則的でいて、自然な微笑みを浮かべていた。
 
 アスカはシンジより先に目が覚めたのだが、最初は混乱していた。一度壊れた精神は簡単に治るモノではないのが普通だ。だが、包帯を外して彼女は『自分』を再確認した。そして自分が納得できる存在理由も自分勝手に見つけていった。この場合は勿論良いことだろう、多分。そして、崩壊していてもおかしくなかった自我を修復した。少ししてから本部の方から何人か見覚えのある人達が出てくるのが分かった。
 
 シンジが一部とはいえ記憶喪失、それもアスカの名前を忘れていたことにアスカはかなり動揺していた。
 『何故シンジが・・・・』
 その思いだけで頭の中は占拠されていった。
 でも、シンジが変わってないことにアスカは気づき、ちょっとだけ嬉しく思った。すぐに謝るところと、必殺技に近い笑顔に。
 
 
 本部に戻ってアスカは、眠っているシンジに膝枕をしていた。以前の彼女なら考えられない事かもしれないが、これ以上シンジに遠くに行って欲しくなかったから。唯一彼女が、一部だけでも心を開けた相手だから。優しい表情でシンジの寝顔を見下ろしていた。
 
 同時刻、生き残った回線を使いMAGIオリジナルによる各国政府及び各支部のMAGIタイプに対する情報戦が開始された。手始めに松代のMAGIタイプを落とし、松代のMAGIタイプで共同全戦を張って各支部のMAGIと各国政府の機関を落としていった。
 目的は『ネルフは絶対的悪』と云う間違った解釈に対して真実を公開し、裏組織ゼーレの正体をばらして本当の悪はどっちだったか判断して貰うためだった。勿論内容は幾らかは脚色されていたが・・・。
 17時間後にアメリカ政府が最初に声明を発表して決着はついた。結果はアメリカに続いた各国政府や国際企業の
 「ネルフを支持し、最も被害を受けた日本の、第3新東京市の復興を支援する。ゼーレの勢力が我が機関内に及ぶならそれを全力で排除する。」
 と云う声明によって、ネルフ側の勝利に終わった。

 同時にネルフ本部に侵略した戦略自衛隊員たちはミサトの説教とマヤに渡された資料によって撤退を決めた。
 その後、正式な書類云々が届いたが。

 
 その間、パイロット待機所ではアスカは目覚めたシンジの話を聞いていた。
 
 「今、僕は変な気分なんだ・・・」
 「今、僕がここにいられて、君を含めたみんながいるってのはなんか嬉しい気がする」
 「でも僕はよく覚えていない・・・君の・・・アスカさんのことも。」
 「それは、なんて云うか・・・・悲しい。」
 
 アスカはちょっと嬉しかった。シンジが直接言ったのだから。
 『君のことを知らないのは悲しい』
 今まで一定のラインから踏み越えなかったシンジが言った事だったから。
 でも、今のシンジには記憶がない・・・。
 そのことはアスカを悩ませた。
 『このシンジもいいかも・・・』
 そう思えてきているから・・・・・
 
 「そうだ、シンジ」
 「何・・・アスカさん。」
 「私のこと、アスカって呼びなさいよ。」
 「いいの?呼び捨てにして・・・」
 「いいわよ、前だってそうだったから・・・・・。」
 『前だってか・・・・・嫌な事ばかりだったのに前のことを思い出してる』
 「じゃあ、そう呼ばせて貰うよアスカさ・・じゃなかった、アスカ。」
 そう言い終えると綺麗な笑顔がシンジに浮かんだ。
 アスカはその笑顔に頬を赤く染めながらもあ、なんとなくとまどいを覚えた。
 
 アスカは、ある程度の知識と常識を持ち合わせるながら記憶を失っていたシンジに対して母性本能的ななにかが働いたのかもしれない。 だが、彼女はゴタゴタの中で忘れていた。
 



 自分の心理状態の危うさを



 続く


第1話のあとがき 兼 挨拶 
こんにちわ、緒方紳一です。
創さんが場所を提供して下さったため、「続劇」の公開に成功しました。
創さんに感謝の言葉を述べさせてください。
「創さん、不手際があったにもかかわらず受け入れていただきありがとうございます。」

「続劇」はいいんですが、終わりの方はまだ全然考えてません。
連載化なんて打ち上げましたが、どうなるか・・・・

で、書きたかったのが「シンジがあの時、記憶を一部なくしたら」ってやつです。(この手のモノは結構多くない。
結構、シンジの置かれた環境を好き勝手に創ってます。
そのため、かなり長くなりそうそうですが納得できるかたちまで持ち込んで見せます。
その間、宜しくお願いします。


創さんのこめんと

ついに連載が始りました!前作の続きですね。なるほど、ゲンドウとリツコさんはもう居ない世界か・・・。ミサトさんはしっかり生き残ってるようで、ということはこれからの展開の重要なキーマン(キーウーマン?)になりそうです。記憶を失ったシンジと、自分の気持ちの変化に気づいたアスカ。しかし二人の行く手には、まだまだ苦難が続きそう・・・。

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緒方さんのHP「RIDE on AIR」

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